プロゴルファーの道に挫折したレッスン・プロが、
一目ぼれした精神科の美人医師を心の支えとしながら、
USオープンに挑む姿を描くドラマ。

ティン・カップ

TIN CUP

1996  アメリカ

135分  カラー



<<解説>>

ケビン・コスナーがプロの夢に挫折したゴルファーに扮するドラマ。監督はスポーツもので定評があり、コスナー主演の『さよならゲーム』も撮ったロン・シェルトン。ロマンスの相手役には、『メジャー・リーグ』、『リーサル・ウェポ3』のルネ・ロッソ。主人公の相棒役には、チーチ・マリン。
主人公は天才的なゴルファーとしてセンスを持ちながら、ここいちばんの時に一か八かの冒険をしたくなってしまう、少し子供っぽい男。その性格ゆえかプロになれず、今はしがないレッスン・プロでどうにかしのぎを削っている。そんな彼が、一目ぼれしてしまった美人精神科医や、かつてのライバルの出現をきっかけに、ゴルフの一大トーナメントのUSオープンに挑む姿を描く。
ゴルフを題材にした映画はひじょうに珍しい。著名な作品に『チャップリンのゴルフ狂時代』があるが、ゴルフというスポーツを扱ったものではなく、ゴルフ場を舞台にしたドタバタコメディであった。ゴルフそのものを扱った作品は、邦画の「プロゴルファー織部金次郎」シリーズくらいだろうか。そのような状況での公開だったため、本作は自動的にゴルフ映画の代表作となった。
競技人口は少なくないのに、ゴルフを題材とした映画がほぼ皆無だったのは、そもそも、分かりやすい躍動的な場面がないところもあるだろうが、客観的な映像で伝え難いということが大きいのかもしれない。野球のテレビ中継は、野球をやらない人間にも楽しめるが、ゴルフの中継は、ゴルフをやらない人間にとっては、下手したら何が起こっているのかすら理解できないものなのではないだろうか。本作を見ると、ゴルフの競技風景に見せ場を設けてはあるが、選手間のレベルの差を映像で伝えるのは難しかったようで、競技以外での主人公の曲芸打ちを何度か見せることで、主人公のゴルフの腕の高さを伝えるという工夫を見せている。
挫折したスポーツ選手が晴れの舞台での優勝を目指す、というスポ根ものを思わせる内容ながら、肉体を鍛えるとか、テクニックを磨くといったような汗臭い努力は見せない。既に選手としては天才である主人公が鍛えるのは、体ではなくメンタル面である。精神科医のヒロインのアドバイスを受けながら、頭を使うことで自らをコントロールすることに集中していくのである。審判無しで、どのような判断をするかを考える時間が選手自身に充分に与えられているというゴルフの競技の性質をうまく生かした設定だ。ここにも、ゴルフを映像で伝えるという課題への工夫が見られる。
ゴルフをやらない観客にも配慮し、分かりやすくゴルフの面白さを伝えているところは、スポーツ映画として評価できるが、やはり、本作はスポーツよりはラブロマンスとして見たい作品だ。要は、うだつの上がらないゴルフだけが取り柄のダメ男が、恋した女性にいいところを見せたくて、USオープンまで行ってしまったという話なのである。かっこつけようとしては失敗を繰り返し、まるで成長していかないという、恋する主人公の見苦しさを、コスナー自身のかっこ良さがうまく際立たせている。結末はスポーツ映画の定石を崩し、賛否が分かれそうだが、観終わった後の少しのしょっぱさの混じった独特の爽快感は、得がたいものがある。



<<ストーリー>>

大学時代には伝説的ゴルファーとも呼ばれたロイ・マカボイ、通称ティン・カップ。だが、プロの道に挫折し、今は、ビールの飲み代を稼ぐために、テキサスの小さなゴルフ練習場でレッスン・プロをやっていた。トレーラーハウス暮らしの生活は苦しく、相棒のロミオと共に借金に終われる日々だった。
そんなある日、ロイの練習場に、精神科の女医モリー・グリスウォルドが訪ねてきた。ロイのレッスンを受けるためである。物事を深く捉えず、感覚だけが取り柄という性格のロイは、自分とは正反対で理屈っぽい性格のモリーに強く惹かれるのだった。
それからしばらくしたある日、ロイのトレーラーに、大学時代の親友で今はプロゴルファーとして活躍しているデイビッド・シムズが訪ねてきた。今度、彼が地元で主催するチャリティ・コンペへの誘いだった。また旧友とクラブが振れると思い快諾したロイだったが、誘われたのはゴルファーとしてではなく、キャディとしてだった。
シムズはロングショットでの勝負に出ず、小さく刻むクレバーなゴルフをした。そんなシムズを見て、負けず嫌いのロイの血が騒いだ。ロイはキャディの立場を無視してクラブを握り、シムズの避けたプロでも難しいロングショットを成功させた。ロイはシムズにその場でクビを言い渡された。
キャディの仕事をフイにし、いよいよ借金に首が回らなくなったロイは、12000ドルを借りている元恋人のストリッパーのドリーに練習場の権利書を渡した。だが、2000ドル足りなかった。ロイはとうとう、商売道具のクラブも質に入れてしまった。
ロイは、モリーとの距離を縮めようと、レッスンに熱を入いれていた。だが、彼女の恋人は、あろうことかあのシムズだった。ロイは引き下がる他なかった。どうにかモリーを見返してやろうと考えていたロイは、ロミオが何気なくいった一言で心を決めた。それはUSオープンへの出場だった。USオープンは、アマチュアでも予選を勝ち抜けば出場できる開かれた大会なのである。
ロイはクラブを質から出すため、バットやスコップや熊手をクラブの代わりして、賭けゴルフをした。賭けに勝ってクラブを取り戻したロイだったが、USオープンに挑むには、精神的な何かが足りないとロミオに指摘された。ロイにモリーに会いに行く口実ができた。
ロイはモリーの診療所に予約なしてで押しかけ、女性のことで悩んでいると告白。モリーは、素直に気持ちを伝えて食事に誘うべきだ、とロイにアドバイスした。ロイは、言われた通り、目の前のモリーに一目ぼれしていたことを打ち明けるが、まさか自分のこととは思わず、戸惑うモリーに部屋から追い出されてしまった。去り際、ロイは、USオープンでシムズを叩きのめすと宣言し、予選会を観に来るようモリーに行った。
ロイは予選会で順調にスコアを伸ばしていくが、途中で、キャディのロミオとクラブの選択で喧嘩になってしまった。意地を張って、7番アイアン以外のクラブをへし折ったロイに、ロミオは愛想を着かしてキャディを放棄した。ロイは7番アイアン一本で残りのコースを余裕で周り、第二次予選に進むが、プレイを観ていたモリーは、ロイの幼稚さにあきれてしまうのだった。
ロイは第二次予選をギャラリー専門だった友人のアールをキャディにつけて回り、本選への出場権をつかんだ。だが、やっぱりキャディにはロミオに必要だった。ロミオと和解したロイは、二人でUSオープンへ乗り込んだ。だが、本番前日の練習で、ロイはシャンクを連発してしまった。モリーと出会ったことで、今まで感覚だけに頼っていたロイも考えるようになってきたのだ。だが、それはまだ雑念でしかなかった。
USオープンの初日。ロイは持ち前の強気なゴルフをせず、小さく安全に刻むゴルフを繰り返した。さらに、昨晩、景気付けにロミオに飲まされた酒が体から抜けきれなかったため、その日の結果は賛嘆たるものだった。そんな彼らを尻目に、本日のトップを取ったシムズは、自信たっぷりにインタビューに答えていた。
シムズにスコアの悪さを揶揄され、さすがのロイも自信を失い、弱音を吐いた。最近のシムズの思い上がりに辟易し、ロイへと心が傾きつつあったモリーは、ロイに自信を取り戻させようと、池の中の一本の杭にボールを当てるという難解なショットの賭けを提案した……。