日本のプロ野球チームにトレードに出された
メジャー・リーガーの活躍を描くスポーツ・コメディ。
ミスター・ベースボール
MR. BASEBALL
1992
アメリカ/日本
108分
カラー
<<解説>>
アメリカ・メジャーリーグから日本のプロ野球チームにトレードされることになった白人野球選手が野球に恋に奮闘する様をコミカルに描くスポーツ映画。物語の大部分が日本を舞台としていて、撮影もナゴヤ球場を中心に大部分が日本で行われている。主演は、『スリーメン&ベビー』が代表作となるヒゲの大男トム・セレック。共演は高倉健で、厳しいが誠実なチームの監督に扮する。
今や、日本人がメジャーで活躍するのがあたりまえのことになり、ワールドカップでも世界一になれるほど実力が世界に認められている日本の野球。しかし、本作が公開された92年はというと、まだ、日本人がメジャーで活躍できようとは想像もできなかった。助っ人外国人選手の存在は、チームの強さを大きく左右するような大きな存在だったし、メジャーにもそうとう引け目を感じていたのではないだろうか。そんな時代の物語である。
主人公のメジャーリーガーが、ある日突然、日本の野球チームへのトレードに出された。愕然とする主人公の様子は、まるで左遷でも言い渡されたかのようである。野球大国のアメリカが日本の野球を低く見るのは当然だと言えるが、そんな本音をあけすけに描いているところが面白い。
主人公が日本やチームに馴染むまでの前半は、日本の野球や文化や日本人をおちょくりまくる。ただでさえガタイの良いセレックのデカさを強調するため、線の細い小柄な俳優を配されたチームメイトが、プロ・スポーツ選手というより、一律にサラリーマンにしか見えないのは、ちょっとやりすぎな気がするけど、日本に対する批判的な視点は意外と本質を捉えていたりする。日本人が語りたがらない、ガイジン差別の話題などは、痛いところ突かれた感じだ。
主人公は、ワガママで気が荒いという、日本人から見たアメリカ人のちょっとイヤな部分を集めたような人物として描かれている。そんな彼だから、仕事一筋のきわめて日本的な監督と対立しないわけはない。物語は、日本で出会った日本人女性の恋人を支えとしながら、監督との確執を乗り越えると共に、自己改革に挑んで、チームの中で自分の立ち位置を見出していく主人公の様を主軸に描いていく。
前半の日本批判からは一変、後半は、主人公が日本の野球の良いところを尊重しながら、チームにもメジャー・スタイルのプレーも受け入れてもらうという、無批判の理解や一方的な押し付けではない、歩み寄りにより事態を打開していくところは、誠実で好感が持てる。ダイナミックなファインプレーよりも、戦略的な駆け引きに面白さを見出さそうとする日本の野球に、乱闘もゲームのうちと考えるようなメジャー・スタイルは馴染まないように思えるが、主人公の言う「我々はお金を貰って野球を楽しんでいる」という言葉には、学ぶところがあるのかもしれない。
物語が予定調和すぎる割には、劇的なドラマがないは、目の覚めるファインプレーが飛び出すわけでもない。野球シーンのクライマックスの奥ゆかしさは、むしろ必見。野球映画史上に残るかもしれない。全体としてこじんまりとした印象だが、ハリウッド的なハッタリをかまさず、もしかしたら、これまでに日本にやってきた助っ人外国人選手の誰かにも、似たような出来事があったのかもしれない、などと思わせる程度のささやかな話にまとめた点は良い。何気ないラストシーンも、ほっこりとした気分にさせてくれる。
外国人が撮影した日本の風景は、毎度ながら興味深いものがある。街並や暮らしを捉えた映像にはとりたたて発見はないが、スタジアムの観客席やテレビで観戦する人々の表情などは、「はやり、こういうところを見るのか」と感心。半ば儀式化されたように傘や風船を使い、お行儀の良く応援する様は、こうして客観的は見せられると、なるほど独特だ。観客一人ひとりが盛り上がっている『メジャーリーグ』などと見比べてみると面白いかもしれない。
<<ストーリー>>
メジャーリーグのヤンキースの人気選手、ジャック・エリオットは、ここのところ調子が下向き。さらに、交通違反や女癖の悪さからイメージも落ちたこともあり、突然、チームからあるチームヘのトレードを言い渡された。トレードに応じたたった一つのチームとは、日本の中日ドラゴンズだった。
日本の野球を低く見、日本に対してもあまり良い感情を持っていなかったエリオットだが、渋々日本へ。英語の通じないチームメイトや、いかにも堅物といった監督のウチヤマに迎えられた。個人プレイよりも協調性、パワーよりもテクニックを重んじる日本式の野球に戸惑いち苛立ちを覚えるエリオット。先に助っ人外国人選手としてチームに在籍していたマックスは、「五年で慣れる」と励ました。
練習の初日、エリオットは、スタンド席にいた美女から英語で食事を誘われた。ヒロコという名のその女性の目的は、エリオットとCM出演の契約を結ぶことだった。だが、チームが自分をイメージアップに利用しようとしていることに腹を立てたエリオットは、CM出演の誘いを断るが、結局、撮影をすることに。
エリオットは試合に出るようになるが、日本の野球は、ラフプレー厳禁、引き分けもあり、という自分の知っているものとはほど遠いヤワなものだった。人気強豪チームのジャイアンツ相手に守りの野球を繰り広げるのにいたっては、エリオットはすっかり辟易。打者を進めるためとはいえ、自分の打席でバントの指示を受けたエリオットは、その指示に背いて、ウチヤマ監督と喧嘩になってしまった。
ウチヤマ監督の頭ごなしの命令は、自己主張の強いエリオットにとって我慢がならないことだった。だが、監督と馬が合わない別の理由として、監督にフォームに欠点を見極められ、プライドを傷つけられたことことも大きかった。自信を失っていたエリオットだったが、ヒロコの「自分のありのままを受け入れるべき」という言葉に勇気付けられ、自信をとり戻していった。
エリオットとヒロコはいつしか恋人の関係になっていた。ある日、エリオットはヒロコの父親と会うため、彼を実家を訪れた。だが、ヒロコから紹介された父親を見て、エリオットは仰天した。それは、ウチヤマ監督だったからだ……。