アパートの立ち退きを強制された老人愛猫と大陸横断の旅に出るロードムービ。

ハリーとトント

HARRY & TONTO

1974  アメリカ

115分  カラー



<<解説>>

ニューヨークからロサンゼルスへ。一人の老人と一匹の猫が、安住の地を求め、マイペースな旅を続ける姿を描く。旅の間に出会う様々な人々との冗談なのか本気なのか分からないような、おかしななやり取りが心地よい。不思議な魅力のある作品である。
老人の人生の総括としての旅。そこに対比的にからめられたアメリカの抱える様々な社会問題というのが第一のテーマとするなら、第二のテーマは“対話”だろうか。どことなく対象を突き放したようなカメラが印象的だが、その観察的な視点は、第一の暗いテーマをあっけらかんととらえるともに、第二のテーマをより浮き彫りにしているようである。
主人公の老人は、様々な対話の形を見せてくれる。老人は、顔見知りのポーランド人の浮浪者について、彼の初体験が十四歳だったということしか知らない。沈黙を続ける老人の孫との会話は、一方的に話し掛けるだけ。ボケてしまった昔の恋人は、自分の記憶さえあいまいだが、踊ることで心を通わせる。喧嘩して長年顔を合わせていなかった娘とは、意見が合わないながらも、いつの間にか仲直り。しかし結局、老人が唯一心を許す相棒は、もの言わぬ猫。劇中、まともに成り立っている会話は、ひとつもない。しかし、人と人のふれあいがあたたかい。コミュニケーションにおいて重要なのは、必ずしも会話ではないことを教えられようである。



<<ストーリー>>

妻のアニーを亡くした後、ニューヨークのアパートで、猫のトントとふたりきりで暮らしていた老人ハリー・コームズ。今年に入って四度も強盗に遭ったため、アパートから立ち退きを命じられた。
くつろぎの場を失ったハリーは、息子のパートの家に居候するが、嫁のエレインに煙たがられた。孫のノーマンもおかしな思想にかぶれていて、一言も口を利いてくれなかった。
ハリーは、シカゴに住む娘のシャーリーに会いにいこうと思い立った。もろちん、トントも一緒に。猫と飛行機に同乗することが許されなかったため、ハリーとトントはバスで出発した。だが、トントのトイレのため、途中下車するはめに。
バスを諦めて、中古の自動車を購入したハリーは、一路、西へとひた走った。途中、ハリーは、行きずりの男と旅をしていた家出少女ジンジャーと出会った。十六歳のジンジャーを見るうち、ハリーは昔の恋人ジェシーを思い出した。
ジンジャーは、ジェシーに会いに行くことをハリーにすすめた。ハリーはジンジャーに言われて、老人ホームに入っていたジェシーを訊ねるが……。