007と麻薬密輸組織が地中海に沈んだミサイル誘導装置の争奪戦を繰り広げる。
シリーズ第12作。

007/ユア・アイズ・オンリー

FOR YOUR EYES ONLY

1981  イギリス/アメリカ

127分  カラー



<<解説>>

シリーズ12作目。3代目ボンドのジャー・ムーア主演作としては、5作目。監督は前作『ムーンレイカー』で編集を担当したジョン・グレン。興行が落ち込みシリーズが休止を余儀なくされた16作目『消されたライセンス』までグレンが監督を務めるとになる。ボンド・ガールはフランス出身のキャロル・ブーケであるが、その他にもリン=ホリー・ジョンソン演じる美少女、カサンドラ・ハリス演じる美熟女との関わりもあり、それぞれに魅力的である。ちなみに、題名の“アイズ・オンリー”とは、文書に極秘の意味で添えられる文言である。
内容は前作から一変し、非常にシリアスある。冒頭のシーンが亡き妻の墓参りであることは、第6作『女王陛下の007』への回帰を思わせる。また、アバンタイトルで宿敵スペクターのボスをあっさり葬ってしまったことも、コミック路線からの決別を意味しているようである。ボンドの秘密兵器の代表であるボンド・カーの仕様を封印しているとこも意図的で、ボンド・カーの代わりにカーチェイスを繰り広げるのは、ボンド・ガールの車であるシトロエンである。特殊装備に頼らず、小回り利くことを活かしたチェイスが新鮮である。
今回の007の任務は、地中海に沈んだミサイル誘導装置の回収。仮想敵国の手に渡るのを阻止するためである。東西冷戦を背景とした定番の設定であり、世界制服を企むような飛びぬけた悪党は登場しない。また、直接、東側のスパイと対決するのではなく、東側と繋がるギリシャで麻薬密輸組織との装置の争奪戦になる。人間関係はこれまでと較べてやや複雑であり、黒幕は後半に入いるまで明かされない。ボンドの活躍もいつものタンドプレイではなく、目的を同じくする民間人たちとの共闘という形で目的を達することになる。
物語の舞台はギリシャ、スペイン、イタリアなどの地中海沿岸地域。雪上、水中、断崖など様々な場所でのスタント・アクションが見どころ。これまでの特撮頼みの爆発炎上アクションのような華やかさはないが、リアリティの感じられる非常にスリリングなシーンの連続である。特に雪山でのスキー・アクションは必見。007のスキー・アクションというと、先にも挙げた『女王陛下の007』が筆頭に上げられるが、それをさらに進化させたスピード感満点の追跡アクションを見せる。



<<ストーリー>>

アルバニア沖を漁船に化けて航行していたイギリスの偵察戦セント・ジョージ号が、何者からの機雷攻撃を受けて沈没した。沈没までに自爆装置を起動する間もなかったようで、軍事機密であるミサイル誘導装置“ATAC”も無傷のまま海底に消えたと見られた。とは言え、おおっぴらに船の引き上げが出来ないため、イギリス国防省は、水没宮殿の調査をしている考古学者ハブロックに極秘裏にATACの捜索を依頼することにした。
ハブロックには美しい一人娘メリーナがいた。ある日、ハブロック夫妻が暮らしている船にメリーナが帰ってきた。久しぶりの再会に喜ぶ親子。だが、その直後、船に近づいてきた水上機が機関銃を発射。メリーナの目の前で両親は殺されてしまった。暗殺者へ復讐を誓ったメリーナだったが、裏に国家規模の陰謀があるとはまだ知らなかった。
ハブロックが殺されてしまったため、国防大臣と幕僚長は、“007”ことジェームズ・ボンドにATACの捜索を依頼した。パブロックを殺した暗殺者ゴンザレスが、今スペインにいると教えられたボンドは現地に飛んだ。ゴンザレスはすぐに見つかった。ボンドは、ゴンザレスが代理人と見られる男から報酬を受け取る様子を物陰から伺っていたが、男の仲間に見つかってしまった。ボンドは男に捕まるが、どこからか飛んできた弓矢に助けられた。弓矢を打ったのは、ゴンザレスに復讐するため、探偵を雇って彼の居場所を突き止めたメリーナだった。ボンドはメリーナと一緒に逃げた。
結局、何の成果も上げられずにロンドンに戻ったボンドだったが、Qの開発した最先端の照会システムを使い、代理人がギリシャの麻薬組織に雇われているエミール・ロックであることを突き止めた。ボンドはロックを探し出すため、スキー・リゾートで賑わうコルチナ・ダンペッツォで情報屋のフェラーラと落ち合った。フェラーラはロックの居場所を知らなかったが、代わりにロックと旧知である親英家の紳士クリスタトスを紹介した。
ボンドはフェラーラを介し、クリスタトスと彼がパロトンをしているフィギア・スケート少女のビビ、そして、そのコーチのブリンクと会った。ロックの写真を見たクリスタトスは、その男が麻薬密輸のボス、ミロス・コロンボの右腕だと言った。かつて、クリスタトスとコロンボは、一緒にコミュニスト相手に戦った仲だったという。
町に戻ったボンドは、メリーナの姿を発見。まさに、バイクの男たちに襲われるところだった。ボンドに助けられたメリーナは、ボンドからの電報で呼び出されたのだと主張。やはり彼女は命を狙われているのだ。ボンドはメリーナに復讐を考え直すよう諭すと、彼女をギリシャに返した。
ボンドにビビは気に入られたようで、盛んにモーションをかけられた。ボンドは自分にくっついてまわるビビとバイアスロンの観戦中に別れ、一人でスキーを滑らせた。すると、ヒビのボーイフレンドであるバイアスロンの選手エリックがコースをはずれ、ボンドに向けてライフルを撃ってきた。彼はロックの刺客だったのだ。ボンドはエリックとゲレンデでチェイスを繰り広げ、どうにか振り切ったのだった。
その夜、ボンドはカジノでクリスタトスと会った。クリスタトスはボンドの正体を麻薬捜査官だと考えていた。ボンドがそれを否定しないのを確認したクリスタトスは、この店にコロンボが来ていることを教えた。ボンドが自分を探っているに感づいたコロンボは店から姿を消した。ボンドはコロンボの愛人であるリスル伯爵夫人に声をかけると、彼女を家まで送っていった……。