長崎の原爆で夫を失った老婆と四人の孫たちの過ごすひと夏を描くドラマ。

八月の狂詩曲

1991  日本

98分  カラー



<<解説>>

『夢』に続く、黒澤明のカラー6作目。通算29作目。長崎を山里を舞台に、そこで暮らす老婆と都会からやって来た孫たちのひと夏の交流を通し、戦争体験を語り伝えていくという物語。原作は村田喜代子の小説「鍋の中」。これまで戦争自体を描いたことがなかった黒澤が、はじめて戦争に正面から向かい合った作品となった。
前作のように豪華で壮大な作品ではなく、ささやかな小品としてタイトにまとめているが、大スターのリチャード・ギアを招いたところに、ハリウッドとの繋がりは残っている。また、原爆を扱ったところは、『夢』の中盤の核戦争の悪夢を想起させる。しかし、戦争や原爆の話だからといって辛気臭くなく、夏山の緑や老婆と子供たちの触れ合いが瑞々しく描かれた明るい作品に仕上がっているのが面白い。
戦争と向かいあった作品ということだが、ストレートな反戦映画というのとは少し違う。戦争のアイロニーとして、かけがえの無い美しい自然や人々の思慮深さを見せていくのでいる。それは、戦争の悲劇を訴えるどなん言葉よりも、雄弁に観客の言葉に響くのではなだろうか。登場する大人も子供も戦争に対し、素直な反応を見せてくれるところも嫌味なく、観る者を真摯な気持ちにさせてくれる作品である。



<<ストーリー>>

夏休み。長崎の田舎で暮らす老婆・鉦の家に、都会から縦男たち四人の孫たちが遊びにやって来た。ちょうどその頃、鉦のもとに、彼女の兄の息子だというハワイの男・クラークから手紙が届いていた。男が大金持ちだと知った鉦の息子の忠雄たちは、早速、ハワイに飛んでしまった。こうして、おいていかれた縦男は鉦と一緒に夏を過ごすことになった。
やっぱり、自分たちもハワイに行きたくなった縦男たちは、鉦がその気になるよう、どうにか説得しようとした。だか、長崎の原爆跡地を見学するうちに、複雑な気持ちになっていった。鉦も心の中にしまっていた戦争当時のことを思い出し、縦男たちに語って聞かせ始めた。鉦は夫を原爆で亡くしていた。
ハワイに電報を送って兄の名前を確認したところ、錫二郎という名前が鉦の記憶と符合した。鉦は兄に一目会いたいといと思い、ハワイに行く決意を固めた。ハワイから戻ってきた忠雄たちは、母の決心を知って、これで大金持ちに近づけると大喜び。ところが、縦男がクラークに返した手紙に、鉦の夫のことを書いていたことを知ると心配になった。アメリカ人に原爆の話はタブーだった……。