中年黒人刑事と自殺志願の白人刑事のタッグが麻薬密輸組織の壊滅に挑む。
人気アクションのシリーズ第一作。

リーサル・ウェポン

LETHAL WEAPON

1987  アメリカ

110分  カラー



<<解説>>

白人と黒人のバディ・ムービーでは、もっともポピュラーで、もっとも成功した作品と言えるかもしれない。好評を得た本作は、現在までに四作目まで作られ、「ダイ・ハード」と並び賞される80〜90年代を代表するアクション映画の代表シリーズとなった。
作品のイメージは、ウォルター・ヒルの『48時間』の設定をやわらかくし、演出もユーモアをまじえて分かりやすくしたものといったところである。主人公は、保守的で事なかれ主義の黒人のおじさんと、無鉄砲でちょっと何を考えているか分からない白人の兄ちゃんという取り合わせ。共にベトナム帰りという以外は共通点は無し。はじめは相手が信用できず、組んで仕事をするのに消極的だったが、次第に互いを理解しあい、友情のような絆で結ばれていくという定番の展開である。
主人公二人の対立の描き方について、『48時間』などの白人と黒人のバディ・ムービーとの違いは、人種の違いをほとんど意識していないところである。人種の違いによる対立ははじめからクリアされているため、メル・ギブソン演じるリッグス刑事の性質による対立が中心となって描かれていく。対立は個々人の信条や性格への不信感に基づくものとなっている。人種問題を無視し、それについて観客に考えさせなかったことは、それがテーマでなかったこともあるが、本作をとっつきやすくし、万人に受け入れられた理由のひとつと言えるだろう。
人種の違いを無視すれば、マータフ(ダニー・グローバー)刑事とリッグス刑事の最大の違いは、一方は家庭という守るべきものがあり、一方は妻に死なれて失うものがないという点である。シリーズを重ねる上で、その設定はほとんど忘れられていくが、リッグスは自殺志願の持ち主であり、いつでも捨て身になれるがゆえに、“最終兵器”と呼ばれることになる。生きる希望を失っていた彼が、家族を必死で守ろうとするマータフ刑事を見て、人のために戦おうとする姿が感動的だ。一方、マータフもリッグスの英雄的な活躍を見て、巨悪に果敢に挑むようななっていく。
二作目三作目と続くうちに、ストーリーよりはアクションのアイデアや派手さを追及するようになった。それにつれて、マータフとリッグスのキャラクターも凡庸化していった。それは人気シリーズの宿命であるため、とやかく言うべきではないが、本作ではまだキャラクターはシリアスで、影もある。監督のリチャード・ドナーといえば、これまではファンタジー系の作品を多く撮って来たが、『スーパーマン』、『レディホーク』といった佳作で見せた哀愁が、本作のようなアクションものでも少なからず生かされているようである。場違いなデカい銃を担いだリッグスが、砂漠や街中を駆け回る様の悲壮感と滑稽さの同居が見事だ。
アクションは当時としてはハードではあるものの、もちろん後の作品に比べると華やかさや迫力は劣る。ただ、その分、ベトナム戦争の記憶がストーリーに絡む70年代のポリス・サスペンスばりの湿った雰囲気が良く、刑事ものとしても悪くない出来である。また、ゲイリー・ビューシーの悪役ぶりも申し分無く、主人公が窮地からの一発逆転して終わるのではなく、メルとビューシーとの果し合いの決闘というクライマックスに持ち込んでいくところが痛快だ。



<<ストーリー>>

ロス市警の黒人部長刑事ロジャー・マータフが、五十歳の誕生日を迎えた朝のことだった。女がビルから転落した事件の現場に向ったマータフは、死んだアマンダという女の親が、銀行家のマイケル・ハンサカーだと知り、愕然とした。ハンサカーは、ベトナムの戦友であり、自分の命を救ってくれた恩人だった。
アマンダの泊まっていた部屋には、他に人がいた形跡と、麻薬を使っていた形跡があった。目撃者の娼婦ディキシーの話によると、アマンダは麻薬で酩酊状態になった後、ホテルのベランダから飛び降りてしまったようだった。だが、麻薬を分析した結果、致死量の農薬が含まれていたことが分かった。アマンダは飛び降りていなくても死んでいた、つまり、殺された可能性が出てきた。
マータフがこの事件を捜査する上で、薬物課の刑事と組むことになった。上司が寄越した新しい相棒は、自殺志向を持つマーティン・リッグスという白人の若い刑事だった。リッグスは妻を事故で亡くして以来、自暴的になり、何度も自殺を計ろうとするが、死にきれずにいた。ベトナムでは特殊部隊に属していたリッグスに、マータフは“最終兵器”というニックネームをつけた。だが、マータフはリッグスと組んで仕事をする気にはならず、自分の運命を呪った。リッグスもマータフと同じ気持ちのようだった。
マータフとリッグスは、まず、アマンダが殺された可能性があることを、ハンサカーに話に行った。知らせを受けたハンサカーは激しく怒り、アマンダがポルノ映画の出演させられていたことや、事件の裏には大きな組織が絡んでいる可能性を示唆し、マータフに「必ず犯人を殺してほしいと」と懇願した。
マータフとリッグスがアマンダのパトロンの邸へ向おうとした時、男がビルから飛び降りようとしてるという通報を受け、現場に急行した。マータフの心配を他所に、リッグスが男の説得を買って出た。だが、リッグスは、マータフに銃を使わないことを約束して屋上に上がるが、自殺志願の男を説得せず、あろうことすか彼と一緒に緩衝マットの上に飛び降りてしまった。マータフは、平然としているリッグスにあきれ返るのだった。
マータフとリッグスはアマンダのパトロンの邸を訪ねた。二人が庭から邸の中を覗くと、女たちが麻薬を袋詰にしている最中だった。女たちがマータフとリッグスが警察であることに気付いたその時、邸の中にいた男が発砲してきた。すかさず、マータフは男の足を撃った。男から詳しい事情を訊くつもりだったが、彼は不意をついて、マータフたちに銃で抵抗。リッグスは咄撃に男を撃ち殺してしまった。
マータフはリッグスを家族に紹介するため、その夜、彼を家での夕食に招待した。リッグスはマータフのあたたかい家庭に触れ、穏やかな気持ちになった。食後にマータフはリッグスと語り合ったが、それでもまだ完全に彼を信頼したわけではなかった。マータフは、帰り際のリッグスに、「明日、誰も殺そうとしなければ、君を信用しよう」と言った。
アマンダの殺害は、邸で撃ち殺されたパトロンの仕業だったとして、カタがつきそうだったが、マータフとリッグスにはひっかかるものがあった。もしかしたら、アマンダとホテルの部屋に一緒にいたのは男ではなく、女だったのではないだろうか。例えば、アマンダを突き落としたのはディキシーであり、彼女は容疑がかかるのを恐れて、目撃者を装ったのかもしれない。
ディキシー真犯人説の線は細かったが、翌日、マータフとリッグスは念のため、本人に事情を訊くことに。だが、二人はディキシーの家の前まで来たその時、家は轟音と共に爆発してしまった。焼け跡から発見されたのは、水銀スイッチの高性能爆弾の残骸。犯人はプロに違いなかった。さらに、今朝、家のガスメーターに細工をしていた男を目撃していた近所の少年の話によれば、男はブロンドの白人で、リッグスの腕にあるのと同じナイフの刺青をしていたという。ナイフの刺青は特殊部隊の証しだった。
マータフは、ハンサカーのいう組織に彼自身が関わっていると考えた。おそらく、アマンダが殺されたのはハンサカーへの警告だったのだろう。マータフから厳しく問いただされたハンサカーは、組織からの報復に怯えながらも、ようやく口を開いた。ベトナムでハンサカーは、CIAと外人兵士による秘密部隊に属していた。終戦から数年後、部隊の仲間たちが再び集まり、ベトナムで作ったコネでヘロインの密輸をはじめたのだ……。





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