引退したワイアット・アープとドク・ホリデイが、
トゥームストーンの町で暴れる無法者集団と壮絶な戦いを繰り広げる西部劇。
トゥームストーン
TOMBSTONE
1993
アメリカ
130分
カラー
<<解説>>
アメリカ西部開拓時代の英雄ワイアット・アープを姿を、斬新な解釈で捉えた異色の西部劇。有名な“OK牧場の決闘”のエピソードを中心に、アープ団と無法者一家との死闘を描く。監督は『ランボー 怒りの脱出』、『コブラ』など、80年代の代表的なバイオレンス・アクションを撮っていたジョージ・P・コスマトス。出演は、ワイアットにカート・ラッセル、相棒のドク・ホリデイにヴァル・キルマー。
90年代の西部劇リバイバル・ブームの中で作られた作品の中でも、本作は出色の出来ではなかっただろうか。イーストウッドの『許されざる者』の好評価で、西部劇全体への再評価が高まり、それに合わせて、過去の西部劇の焼き直しといった趣きの作品がいくつも登場した。しかし、ほとんどの作品が懐古の域を出ることはなかった。本作も、ワイアット・アープというおなじみの英雄が題材である。ストーリーにしても、スタージェスの往年の作品『OK牧場の決斗』や後日談の『墓石と決闘』で描かれていることであり、新しいものはない。しかし、本作は、アープ団についての斬新な解釈、厭世的で冷めた人物描写、リアルで迫力のあるアクションなどで、完全な現代の新作として完成させた。
アープ団の解釈に関しては、彼らをお定まりの正義のヒーローとして描くのではなく、町の平和よりも金もうけが目当ての狡猾な連中として登場させている。町の住民にとっては、肩書きが保安官というだけで、その迷惑さでいったら、無法者と大差はないだろう。主人公たちの姑息さは、そのキャラクターに人間味を与え、ドラマを面白くしている。中でもキルマー演じるドクのキャラクターが強烈である。青白い顔色からアブない魅力を発散させる彼が、ドラマの退廃ムードをしだいに色濃くし、作品全体にただならぬ影を引いていく。
キャラクター解釈による内面の工夫だけでなく、外見へのこだわりも目を引くものがある。なんだかんだ言っても、ウエスタン・スタイルのダサさは否めない。しかし、本作のアープ団のスタイルは古風でありながら徹底してオシャレである。決闘に向うため、大通りを黒ずくめの姿で闊歩するアープ団は、しびれるほどにかっこいい。アクション・シーンもリアルでありながらスタイリッシュにキマっている。“OK牧場の決闘”を事実に忠実に再現したという、ほんの一瞬の路上での決闘シーンは必見。銃口のアップなどの大胆なカットなどの演出の鋭さは、ペキンパーもかくやである。アープ団の闊歩からこの決闘までのシーケンスは、本作のすべてであるといっても過言ではない。
本作の翌年には、ケビン・コスナーが同じくワイアット・アープを題材にした『ワイアット・アープ』を公開した。コスナー版は重厚なサーガを目指していたようだが、本作はどういうスタンスだったのだろうか。はやり、西部劇の本流、すなわち娯楽作を目指していたようであるが、それ以上に、革新的な冒険をした作品のようにも思える。それも、ラッセルにキルマーというB級キャストに、コスマトスというB級の監督であったからこそ可能にした冒険だったのではないだろうか。西部劇リバイバルという保守的な運動の中で、もっとも開拓精神があったのが、B級スタッフとキャストで作り上げた本作だったというのは皮肉である。
<<ストーリー>>
保安官を引退したワイアット・アープは、兄弟のバージルとモーガンが保安官を勤める町、トゥームストーンにやって来た。ワイアットはこの町で平穏に暮らすつもりだったが、町には犯罪集団“カウボーイズ”がわがもの顔で暴れまわっていた。ある日、ワイアットは親友のドク・ホリデイと再会した。彼は肺病に冒され、その病状は重かった。
ある夜、“カウボーイズ”のリーダーのカーリー・ビルが、郡執行官を射殺するという事件が起こった。騒然となった町を取り仕切ったアープ兄弟は、カウボーイズの恨みを買い、決闘を申し込まれてしまった。ワイアットはドクの助けを借り、再び銃を手にするが、カウボーイズとの戦いは、血を血で洗う抗争へと発展していった……。
<<スタッフ>>