物体転送装置の事故で蝿と融合してしまった男が遺した子が誕生。
その子もまた父親と同じ運命をたどる。

ザ・フライ2
二世誕生

THE FLY II

1989  アメリカ

105分  カラー



<<解説>>

クローネンバーグが『蝿男の恐怖』をリメイクした『ザ・フライ』の続編。監督は、前作や『グレムリン』で特殊効果や特殊メイクを担当した技術畑のクリス・ウェイラス。脚本には『ショーシャンクの空に』以前のフランク・ダラボンが参加している。
物語の主人公は、前作で蝿と融合してしまった男の恋人が産み落とした男の子。父親から特異な遺伝子を受け継いだ彼は、天才的な頭脳と持ち、驚異的なスピードで成長するが、やがて、父親と同じ運命をたどっていくという物語。前作が、主人公の中にフランケンシュタインの怪物的な悲哀を描いたのに対し、本作は若い主人公が自分の運命に苦悩する様を描いた青春ものの趣きが強い。クライマックスに向けて、苦悩が自分の周辺への怒りという形で爆発していくところも、若い主人公ならではではないだろうか。また、ヒロインの主人公への献身的な振る舞いが印象的で、恋人が身も心も自分の愛したものとは別のものに変わっていくことへの彼女の悲しみがせつなく描かれていく。蝿化することによる悲劇が、途中から、当事者である主人公のものではなくなり、ヒロインのものへと変えていくことで、前作とは違ったアプローチで悲劇を描いているところが興味深い。
時系列的にも設定的にも正式な続編だが、クローネンバーグの悪趣味さが抑えられてた分、前作と雰囲気ががらりと異なっている。クライマックスの直前まで、不気味なほどに清潔感のある徹底された管理世界が舞台。原作が怪奇映画だっととは思えないほど、雰囲気だけはホラーと言うより洗練された近未来SFになっている。ただ、この清潔な世界観と蝿の怪物のグロテスクさのミスマッチは効果的だ。クライマックスでは、研究所の密室を利用した緊張感のあるものとなっている。どこから襲ってくるとも分からない蝿の怪物と警備隊との戦いは、怪物の造形もどことなく似ているせいか「エイリアン」シリーズのクライマックスを観ているように錯覚させられる。特筆すべきは、残酷でグロテスクなラスト。クローネンバーグの遺した悪趣味がここで一気に噴出されたかのようだ。この後味の悪さはホラー映画の面目躍如だが、良い意味でも悪い意味でも気色の悪い結末として語り草となっている。



<<ストーリー>>

バルトーク産業の研究所の手術室で、一人の女が昆虫のさなぎのようなものを産み落としたあと、ショック死した。その女ロニーは、物体転送装置“テレポッド”の事故で蝿と融合してしまった男セス・ブランドルの恋人だった。ロニーの生んださなぎの中からあらわれた人間の赤ん坊はマーチンと名づけられ、研究所内で育てられた。彼の遺伝子には、父親から受け継いだ異常な遺伝子が含まれていたが、まだそれは目覚めてはいなった。
マーチンは学習能力にすぐれた天才児だったが、その分、成長もおそろしく早かった。マーチンは父親の事故のことは知らされず、自分が過成長の病気だと信じ込まされて育っていった。父親のいないマーチンにとって、バルトーク産業の社長バルトークが父親の代わりで、彼を慕っていた。たが、バルトークとってマーチンは、自社が地上の生物の制御を独占するための研究材料に過ぎなかった。
マーチンは、いつもバルトークか第4区と呼ばれる研究所の区間で仕事をしていることが気になっていた。研究所のコンピュータ・システムに進入することで、不正に第4区への通行許可を得たマーチンは、第4区の倉庫の檻で飼われていた犬と出あった。それからマーチンは自分の残した食べ物を持って、犬のもとへ通うようになった。
ある日、いつものようにマーチンが倉庫に行く犬がいなくなっていた。犬を探してマーチンが機械室にやってくると、そこではバルトークの立会いでテレポッドの実験が行われているところだった。実験の材料はあの犬だった。犬はポッドに入れられるが、転送の失敗で体が醜く変形してしまった。一部始終を目撃したマーチンは悲鳴をあげた。
それから数年後、五歳になったマーチンはすっかり青年の姿に成長していた。バルトークは誕生プレゼントとして、マーチンに“自由”をプレゼントした。それは研究所内に作られた彼だけの住まいだった。マーチンはバルトークからのプレゼントを素直に喜んだ。パルトークは住まいに加え、マーチンに仕事を与えた。それはテレポッドの研究だった。
テレポッドはセスによって完成されていたが、バルトークら会社の人間はそれを使いこなせないでいたため、天才であるマーチンに託すことにしたのだという。バルトークは、犬のことを気にしてポッドを避けようとするマーチンに、ある気の毒な犬はすぐに楽にしたと告げた。さらにバルトークは、ポッドを完成させることが人類のためになるとマーチンを説得。マーチンはポッドを研究することに決心した。
ほとんど睡眠をとらないマーチンは、昼夜問わずテレポッドの研究に没頭した。無機物の転送を成功させたマーチンは、実験に使う有機物を探すうちに、夜勤の女性ベス・ローガンと出会った。友達のいないマーチンの申し出で、ベスは機械室で研究の手伝いをするようになった。
ある日、ベスは友達が研究所内で開いたパーティにマーチンを誘った。パーティで皆と打ち解けられずに立ち尽くしていたマーチンは、気になる話を耳にした。数年前から研究所内である怪物を飼い続けているのだという。パーティ会場を飛び出したマーチンは怪物の飼育場を発見。そこでマーチンが見たものは、あの日、転送の失敗で変形してしまった犬が苦しそうに地面を這いつくばる姿だった。バルトークが始末したという話は嘘だったのだ。マーチンはバルトークに対して疑念を持ち、さらに、この会社のことすべてが信じられなくなった。そして、マーチンは、彼を気にして追ってきたベスまで追い払ってしまうのだった。
マーチンが一人で機械室に閉じこもってから数日後、ベスのもとにマーチンから手紙が届いた。ベスが機械室を訪ねると、マーチンは彼女に先日のことを謝る共にこれまでの研究の成果を披露した。マーチンはついに有機物の転送を成功させたのだった。その日、マーチンとベスは結ばれた。翌日、ベッドで目覚めたマーチンは、ベスに言われて、腕の注射跡が化膿していることに気付いた。だが、それは只の化膿ではなく、傷口の膿は異様に粘ついていた……。





<<スタッフ>>