肉体と精神が徹底して管理される未来社会からの逃走を描く未来SF。
ジョージ・ルーカスの本邦未公開のデビュー作。
THX−1138
(
ジョージ・ルーカスのTHX−1138
)
THX-1138
1971
アメリカ
86分
カラー
日本劇場未公開
<<解説>>
『スターウォーズ』のジョージ・ルーカスの商業デビュー作。彼が学生の時に作製した『電子的迷宮 THX−1138:4EB』という短編映画のセルフリメイクである。同作は映像作家としてはじめて評価された作品であり、その才能に目を留めたフランシス・F・コッポラの支援により長編としてリメイク化された。コッポラのプロダクション「アメリカン・ゾエトロープ」の第一作でもある。哲学的なSFドラマとしては秀作であるが、残念ながら興行的に失敗に終わり、日本では劇場公開されなかった。
本作は、同じSFである『スター・ウォーズ』とはまったく異なり、ディストピア的な未来観を持った作品である。ここで描かれる未来は、現代社会を風刺したような徹底した管理社会。(すベてではないと思うが、)人間たちは地下に建設された巨大な施設の中で、コンピュータの管理の下、身体は清潔、精神は安定に保たれている。彼らの作業風景を見る限りでは、どうやら原子力関係の危険な仕事に従事させられているようだ。ここで管理される人々の拠り所となっているのは、経済という名の宗教。彼らは大衆に奉仕し、幸福は購買によって得られるのだと信じ込まされている。
物語は、品行方正だった主人公のTHX1138が、リビドー抑制剤を摂るのを辞めたルームメイトが愛に目覚めたことをきっかけに、この世界からの脱出を試みるというもの。しかし、主人公の逃亡劇にはエンターテインメント性は低く、この手の映画に期待されるアクションシーンも無し。これが工業的失敗の大きな理由だと思われるが、この反省がなければ、『スター・ウォーズ』は生まれなかったかもしれない。本作はエンターテインメントとしては及ばずながら、偏執的なまでのディテールで描かれる管理の様子には圧倒されるものがあり、そこは充分に楽しむことができる。前衛アートを思わせる世界観やデザインも面白く、主人公が数々の違反を犯したために投獄される真っ白で広大な牢獄のシーンは非常にシュールだ。
ところで、主人公たち人間が“いかなる目的”で“何者”によって管理されているのかは明らかにされない。そのへんがぼやけているのは実社会と同じであるが、説明が省かれているところはハリウッド映画では珍しいことである(おかげで、ルーカスは作品を映画会社に勝手に編集されるという目に遭うことになるが)。また、主人公がこの世界から逃げる理由や、逃げる意志を明確に表明するという場面もない。しかし、主人公は必死で逃走するのである。彼は自由を本当に求めていたのだろうか? 彼は逃走という手段に生きがい見出していたのではないだろうか? それは、自分の生きる証のため? 観客は、意志を表さずただひたすら走り続ける主人公に自分の心を投影させながら観ることになるだろ。生きることとは何か、自由とは何かについて考えされる作品である。
<<ストーリー>>
25世紀。地下に築かれた広大な空間に、コンピューターにより管理されている人間たちがいた。登録番号で呼ばれる彼らの生活はすべては監視され、精神状態も抑制剤により安定に保たれていた。そして、完全分業で割り当てられた様々な作業を淡々とこなすだけという単調な日々を送っていた。
THX1138。この徹底された管理社会の中で暮らす一人の男性の登録番号である。ある日、THXのルームメイトの女性LUH3417が、しばらく精神抑制剤をとらずにいたため、抑制されていた愛情に目覚めた。LUHにこっそり薬を抜かれたTHXも心が解放されていった。やがて、THXはLUHの誘惑に負け、この世界では御法度である性的関係を結んでしまうのだった。
ある日、LUHは別の部屋の男SEN5241に突然呼び出され、彼と同居人を交代することになった。それからというもの、THXはLUHのことが心配で精神が不安定になっていった。日々の作業に支障をきたし始めたTHXはコンピュータに目をつけられることに。裁判にかけられたTHXは、不正性行為と投薬拒否の罪に問われ、更正の目的で投獄されてしまった……。
<<スタッフ>>