一儲けを狙いビバリーヒルズへ向かっていた青年医師が田舎町で足止めを食う。
町で奉仕活動をするうちに忘れていた何かを掴んでいく医師の姿を描く
ハートフル・コメディ。
ドク・ハリウッド
DOC HOLLYWOOD
1991
アメリカ
104分
カラー
<<解説>>
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』がなまら面白かっただけに、他の作品では何をやってもイマイチに見えてしまうマイケル・J・フォックスは損な俳優である。数あるマイケル主演の中でも、本作はもっとも割に合わなかった作品と言えるかもしれない。しか本作に対する低い評価は、作品の出来そのものよりも、マイケル主演作に抱いていた観客の期待に応えていなかったことがいちばん大きいようだ。それは、コメディをにおわせる雰囲気でありながら、シリアスなヒューマンドラマ路線に向かったことである。『バック・トゥ…』以外の代表作と言えば、『摩天楼はバラ色に』ということになると思われるが、あれにはドタバタの要素があり、十分に笑える作品だった。だが、本作には、ユーモアたっぷりだが、笑わせる決定的な要素がないのである。したがって、本作はマイケル・J・フォックス主演のコメディではなく、ハートフルなヒューマン・ドラマであることを了解して観る方が懸命かもしれない。
物語の舞台は湖畔にある田舎町。やや誇張はあるだろうが、都会と田舎のギャップを描くことが主眼の作品ではないので、ド田舎ではない。おそらくアメリカのいたるところにある典型的な町なのだろう。むしろ、都会のシーンの方がリアリティがなく見える。主人公の青年医師は都会の喧騒から離れ、ひょんなことからこの田舎町で医師として働くことになる。物語は、主人公が素朴な人々とふれあい、人間的な生活を送るうちに、どこかへ捨ててきな大切なものに気付いていく様を描いていく。ここまではよくある話しのようだが、田舎を美化することなく、プライバシーのない田舎暮らしやデリカシーのない住民などのめんどくさい部分も見せているところが面白い。また、田舎至上を貫くだけではなく、都会的な暮らしも否定せずに尊重しているところもある。物語は予定調和的なラストを迎えるものの、いくつかの可能性と示したものであり、別の可能性はヒロインの友人によって示されることになる。
本作で特に印象深いのは、ヒロインが非常にユニークであること。いきなり全裸で登場するという気取りのなさ。また、自然を愛するゆえに密猟者を許さないという男勝りの正義感を見せたりする。色気が無いのはヒロインとしてビミョーではある(低評価の一因かも)が、田舎町の持つ気恥ずかしさやコンプレックスを象徴とするような複雑な人物であることは興味深い。一見すると超然とした女性に見えるが、その内には、出戻りということに負い目をかかえているようだ。男性に対するひねくれた感態度も、傷ついた心を守るために殻をかぶっているために他ならない。つまり、本作は、主人公の心の模索を描いたドラマである一方、傷ついたヒロインを都会からやってきた主人公が救い出すドラマにもなっているのである。さらに言えば、単に田舎への回帰を訴えるのでなく、むしろ、都会と田舎が相互に補完できる可能性も示した作品と言えるかもしれない。
<<ストーリー>>
ワシントンのERで働いていた外科医のベン・ストーン。彼は儲からないこの病院に見切りをつけ、ビバリーヒルズで美容整形医になることを決意。同僚の嫌味を無視しながら、ベンは愛車のポルシェでロスに向けて出発した。渋滞を避けて田舎道を走っていったベンの目の前に突然、牛の列が現れた。牛を避けようとハンドルを切ったベンは、ポルシェを路肩の柵に突っ込ませて壊してしまった。美容整形医院の面接の約束まで時間がなかったベンは、どうにかごまかして先を急ごうとするが、その柵の持ち主は運悪くこの町の判事だった。
さっそく裁判にかけられたベンはも罰として32時間、医師として奉仕することを言い渡された。グレイディという名のこのこじんまりとした町は医師も不足で、ホーグという気難しい老医師が一人いるだけだった。ベンはポルシェは事故で故障して身動きがとれなくなった上、診療所の手術室に泊る羽目に。早くもうんざりたベンだったが、翌朝、湖畔で素っ裸で水浴びをする美女と鉢合わせ。彼女はルーという名で診療所の助手だった。ベンはこの町を出るまでに彼女を口説くことを心に決めた。
診療所には新しくやってきたベンの診察を受けるために町の人々が押しかけてきた。ベンは患者たちの診察と治療を手際よく行うだけでなく、字の読めない住民の変わりに手紙を読むなどの雑用も受けていった。こうしてベンは医師として町の人々の信頼を得るだげでなく、町の住人としても受け入れられていった。そんなある夜、診療所に呼吸困難に陥った少年が運び込まれてきた。少年を診察したベンは心臓病だと判断。大病院で手術するため救急車を呼ばせるが、その時、報せを受けたホーグ医師が診療所にやってきた。少年のことをよく知るホーグはすぐにただの下痢だと判断。そして、重大な診療ミスほ犯しそうになったベンの過信を非難したのだった。
ベンはさかんにルーに言い寄るが、簡単にはいかないようだった。都会に憧れていないルーは、都会から来たベンの話に興味を示さなかった。また、彼女のそばには、彼女のことを好いている保険屋のハンクが張り付いているため、下手に手出しができなかった。おまけに、ベンはハンクの友達のナンシー・リーという女に好かれてしまうのだった。
ルーはどこか訳のありそうな女性だった。市長のホームパーティに呼ばれたベンは、ルーを誘うため彼女の家を訪ねた。そこでベンはルーにエマという幼い娘がいることを知った。ルーもかつてはニューヨークで暮らしていたが、ダンサーだった恋人別れてこの町に戻ってきたのだという。ベンはどうにかルーをパーティに誘うことに成功。パーティの後、ベンはルーに家を訪ねて二人きりで飲もうとするが、考えが見透かされて失敗してしまうのだった……。
<<スタッフ>>