殺人事件を目撃したことで身辺保護対象者=マルタイとなった
女優の周辺を描くサスペンス・コメディ。
伊丹十三監督の遺作。
マルタイの女
1997
日本
131分
カラー
<<解説>>
『ミンボーの女』の公開後に暴力団関係者から襲撃を受け大怪我を負った伊丹監督。だが、彼は転んでもただでは起きなかった。本作は、障害事件後、監督自ら“マルタイ”となり警察の保護を受けた経験をヒントに作られた作品である。これまでの作品と違うところは、殺人事件や特定の宗教団体を連想させる事象を扱うなど、若干、攻撃的であることが挙げられる。また、社会に対して極めて客観的な姿勢をとり続けてきた伊丹映画の中で、個人的なメッセージが強く感じられるところも異色で、暴力に屈せず言論を行うことを改めて宣言したような内容となっている。
伊丹映画の手法的な大きな特徴というと、完璧なまでのディテールの深さと、もうひとつは、出来事を多角的に描くテクニックにあると思われる。本作は、後者がこれまで以上に洗練されているようである。物語に奥行きと弾みが生まれ、息つくひまがないほどスリリングな作品となった。また、監督自らの体験であることをあえて観客に意識させると共に、作品が世間に与えるインパクトを見越したようなラストを設けることで、現実とのシンクロニティを狙ったかのような挑戦は、社会派エンターテインメントの面目躍如と言える。さらに、アクションシーンも要所にふんだんに配されたり、伊丹映画におなじみの顔も大挙登場するなど、エンターテインメントとしても集大成的な作品に仕上がった。ただ、世間に衝撃を与えた事件が基になっていることや、期せずして遺作なったことを考えると、コメディとして笑うに笑えないのが玉に瑕だ。
<<ストーリー>>
下り坂の女優・磯野ビワコはある日、殺人事件を目撃し、犯人ともみ合いになった。犯人が逃げ出しために、どうにか助かったビワコは事件の重要証人となった。ビワコは、“マルタイ”すなわち身辺保護対象者に指定され、警察の護衛を受けることになった。ビワコを守るために送り込まれたのは、立花、近松の二人の刑事。ビワコが何をするにもどこへ行くにも、二人の刑事がぴったりと張り付くという、奇妙な生活が始まった。
やがて、ビワコの証言を基に作られたモンタージュ写真が決めてとなり、とある田舎町で犯人・大木が逮捕された。警察は大木を尋問し、自供に追いこむが、相手は立ちの悪いカルト集団”真理の羊”の信者だった。教団はビワコに証言をさせまいと、愛犬を殺したりして、プレッシャーをかけてきた。教団側の弁護士・二本松は、ビワコに直接会い、テレビマン・真行寺との不倫問題を種に証言の撤回を迫った。さらに、ビワコは、検事側からも証言の練習のためと称してこっぴどく責められてしまった……。
<<スタッフ>>