大阪の旧家の四姉妹の一年を四季折々を背景に描いたドラマ。
谷崎潤一郎の小説三度目の映画化。
細雪
1983
日本
140分
カラー
<<解説>>
谷崎潤一郎の名作小説の三度目の映画化。昭和十三年の大阪を舞台に、しきたりにこわ拘り本家を守る長女、本家に対抗意識を持つ次女、大人しい性格のため結婚できない三女、奔放な性格で恋多き四女の四姉妹の一年を時に厳しく、時にユーモラスに描く。四姉妹を個性的な四人の女優の競演の他、四季折々の美しい情景、「ラルゴ」を主題曲に採用するなどの監督の自由な発想による演出もも見どころ。
大正から昭和に変わって久しく、新しい価値観の台頭に伴ない伝統やしきたりといった考えが薄れてきたそんな時代の物語。大阪の旧家・蒔岡家は、先代の死によって四姉妹が残され、女系家族である。蒔岡家の男は婿としてやってきたサラリーンであり、「家」へのこだわりよりも仕事といった現代的な考えの持ち主。一方の四姉妹は「家」へのこだわりが未だ根強く、いわば「家」こそがアイデンティティの拠り所である。
三女・雪子の縁談話を軸とし、蒔岡家の女衆と男衆の考え方の相違から起こる騒動を描いていく。巻き起こる騒動というのが、四女・妙子の駆け落ち騒動であったり、婿の東京への転勤騒動だったり大小様々。金田一シリーズで古式ゆかしい「家」を描いてきた市川監督の「家」ものの集大成とも思える作品だが、守られるべき伝統を描きつつも、伝統への依存からの脱却も描くことで、原作を現代的な女性たちの自立の物語としている。
<<ストーリー>>
昭和十三年の春。京都嵯峨の料亭での花見の席に旧家・蒔岡家の面々があった。大阪・上本町の本家を守るのは長女・鶴子。芦屋の分家を守る次女・幸子は本家から三女・雪子と末娘・妙子を預かっていた。幸子は本家に対して引け目と対抗意識を抱いていた。話を切り出したのは妙子で、趣味の人形作りのために結婚資金の前借りを訴え、幸子を困らせた。たが、蒔岡家の一番の悩みの種は雪子の結婚のこと。彼女はおとなし過ぎて、縁談がなかなかまとまらないのだった。
妙子はその奔放な性格で、五年前にぼんぼんの奥畑啓三と駆け落ち未遂を起こしたことがあった。事件はすぐに新聞に書き立てられるが、妙子と雪子とを取り違えて記事が掲載されてしまった。鶴子の夫である銀行員の辰雄が記事を訂正させるが、かえって不祥事が事実だということを認めてしまうことになった。
現在でも妙子は奥畑と交際があったが、べたぼれなのは奥畑の方だった。奥畑は一人で妙子との結婚を決め、その旨を幸子に報告に行った。突然の事に驚いた幸子だったが、その直後、夫の貞之助が雪子を抱擁している場面に出くわしてし、二度仰天。貞之助は「着付けを直していた」と言い訳するが、妹達の勝手な振る舞いに対する幸子の苛立ちはおさまらなかった。
奥畑を見限った妙子は、人形作りの仕事仲間の板倉に乗り換えた。板倉は昔、奥畑家の丁稚であったが、写真家に転身し、今は妙子の人形を撮影していた。妙子は板倉の才能に惚れていたが、彼と婚約することで結婚資金を手に入れようという算段もあった。だが、妙子と板倉の仲を知った奥畑は激怒。丁稚風情に恋人を取られたことで頭に血が上った奥畑は、板倉の商売道具であるカメラを叩き壊した。その後、突然の中耳炎に倒れ板倉は、手術の甲斐なく帰らぬ人となり、妙子は生来の明るさを失ってしまうのだった……。
<<スタッフ>>