美人の助手に悩まされる芸術家。高級ホテル暮らし少女。
エディプス・コンプレックスの中年男。
ニューヨークを舞台とした3話オムニバス。
ニューヨーク・ストーリー
NEW YORK STORIES
1989
アメリカ
124分
カラー
<<解説>>
ウディ・アレンの呼びかけにより、三人の巨匠監督の揃い踏みが実現したオムニバス。ニューヨークを舞台にした三つのエピソードで構成されている。作品に参加したスコセッシ、コッポラ、アレンは、三人ともニューヨーク育ちであり、特にスコセッシとアレンはニューヨーク派と呼ばれているが、故郷への特別な思いなどはとか別段込められている風ではない。また、人種の坩堝、世界経済の中心といったニューヨークを批評するようなところ見られず、そもそも、どのエピソードもニューヨークを舞台とすることにあまり必然性がないが、それぞれに制約に捕らわれない自由な発想で撮っているようだ。ニューヨークに対して何か思うことがあったり、何かを得たいという考えている人の期待には答えられないかもしれないが、これほどのメンツの個性的な短編がいっぺんに楽しめるという意味では、お徳用の映画である。
最初のエピソードはスコセッシの監督。三つのエピソードはそれぞれ異なるフィルムで撮影されているようで、舞台となるホコリっぽいアトリエを粗い映像と捉えている。創作に行き詰まった芸術家の苦悩を描いた作品で、しばしばアーティストのインスピレーションとなる“リビドーの昇華”の瞬間を描いているが、それは表面的なもののようだ。本質的には、ストレートなラブストーリーであり、『タクシードライバー』の主人公と少女娼婦の関係を思わせるような不器用な恋愛模様を描いていく。二十歳そこそこの娘の気まぐれに翻弄させ悶絶するニック・ノルティの熱演が光っている。しつこく繰り返しかかるプロコル・ハルムの「青い影」も、この主人公の暑苦しさを増幅させ、異常に熱のこもった作品に仕上がっている。
真ん中のエピソードは、コッポラ監督。映像は三つのエピソードの中でももっともクリアで、高級ホテル暮らしのお金持ちの少女の華麗な生活を鮮やかに描いていく。コッポラが本格的なジュブナイルへ挑戦した作品である。今でこそ、この手の作品をいくつか監督や製作をしているが、当時としてはかなり意外性があったと思われる。脚本は現在監督して活躍しているコッポラの娘ソフィア。これまでにいくつかの映画にドミノというの芸名で子役出演をしていたが、製作面にかかわったのが本作が始めて。当時18歳だった。娘がかかわったこと以外にも、コッポラの身内を中心にしたプライベートな本作という意味合いが強いようだ。主人公の父親がフルート奏者であるという設定も、コッポラの父親カーマイン(辻音楽家として出演)がフルート奏者のだったからだろうし、主人公の"Zoe"という名も、おそらくはコッポラのスタジオ"American Zoetrope"から付けられているのだろう。
最後のエピソードはアレンの監督。映像はモノクロの雰囲気のあるセピアがかった映像で、内容も得意の自作自演コメディ。母親に行動を支配され大人になりきれない中年の姿をアレンがオロオロしながら演じる。いつものアレン節だが、特徴的なのは大胆なSFXの導入。アレンはどの作品にも、物語の脱線として多少のファンタジー的要素を含ませているが、時々、『カイロの紫のバラ』のようにファンタジーを話の軸をした作品を撮っている。本作もその手の作品で、「巨大な母親がニューヨークの空に出現して、あれこれと世話を焼いてくる」という悪夢のようなシチュエーションが爆笑を誘う。見る人を選ぶアレン映画の中でも分かりやすい展開をみせるため、アレン・ファンでなくても十分楽しめる作品だろう。
<<ライフ・レッスン(人生のレッスン)>>
改造した倉庫をアトリエとする中年の画家のライオネル・ドビー。個展まであと3週間だというのに作品の進み具合が芳しくなく、その上、画商のフィリップスにも急かされて、苛立っていた。
その日、ライオネルは、旅行から帰って来る助手のポーレットを空港に迎えに出かけた。ポーレットは22歳は、画家を目指してライオネルの下で働き始めたが、自分に特別な感情を抱く彼と関係をこじらせ、もうアトリエを去ろうと考えていた。今、彼女はグレゴリーというパフォーマンス・アーティストーにフラれたばかり。ポーレットは助手の仕事を続ける条件として、ライオネルに「寝ないこと」を約束させた。
ポーレットはアトリエの二階で住み込むことになった。ライオネルは、若く美しいポーレットへの妄想で頭がいっぱいになり、仕事どころではなくなった。ライオネルはポーレット本人に対して、明け透けに恋慕を訴えるが、相手にしてもらえなかった。というのも、ポーレットは自分の絵の才能がないことに気付いていたが、それをはっきり指摘してくれないライオネルに苛立ちを覚えていたのだ。
ある夜、ライオネルは画家や画商が集まるパーティに出かけることになり、ポーレットも付き合わせた。ライオネルはポーレットとを同伴させたことで満足していたが、彼女に近付いてきたひとりの男を見て顔色を変えた。男は女垂らしで有名な若い画家リューベンだった。ライオネルがポーレットをリューベンから無理矢理に引き離したことで、彼女との溝は深くなる一方、彼女への愛おしさも募っていったのだった……。
<<ゾイのいない人生(ゾーイのいない人生)>>
世界中を飛び回っているフルート奏者の父クラウディオと写真家の母シャーロットを持つ12歳の少女ゾイ・モンテスは、世話係の執事ヘクターと高級ホテルの一室で暮していた。ある朝、ゾイが父に宛てられたたくさんの手紙をチェックしていると、その中にシャラズ大使館からの招待状が見つかった。
小学校で雑誌クラブに所属しているゾイは、今日は転校生の男の子アブーの取材。アブーは世界一の金持ちと言われる家の御曹司だったが、大人ばかりの付き合いが多く、同年代の友達がいないのが悩み。ゾイはアブーの友達になることにした。
放課後にアブーとショッピングを楽しんだ後、夜遅くにホテルに帰ってきたゾイは、ロビーで強盗事件に遭遇。床に伏せていたゾイは、父の貸し金庫を物色していた強盗から、封筒だけをとりかえすことができた。封筒を開けると中からイヤリングの片方が出てきて、シャラズ国のソロヤ妃からのパーティへの招待状が添えられていた。
イヤリングは、クラウディオの演奏に感激したソロヤ妃が片方を外して渡したもののようだ。パーティまでにイヤリングを戻さなければ、クラウディオとソロヤ妃の仲が皆に疑われてしまうだろう……。
<<エディプス・コンプレックス(ぼろぼろオイディプス)>>
50歳の弁護士シェルドン・ミルズの悩みは母のこと。母はシェルドンのことをいつまでも子ども扱いし、やることなすことに口を出してくるのだ。シェルドンそんな母のおせっかいを許せないでいた。シェルドンは相談相手のカウンセラーに、「母が消えてくれたら」などともらしていた。
シェルドンはリサというフィアンセがいて、母に紹介することになった。だが、母は、リサが金髪で三人の子持ちだということが気に入らず、本人に聞こえるところでも構わず結婚に反対し、シェルドンを悩ませた。
ある日、シェルドンと母とリサの三人は、一緒に食事をした帰りに、手品のショーを観た。人間消失マジックの助手として、観客から選ばれたのは母だった。母は手品師の言われたとおりに箱に入り、見事その中から消えたが、ショーが終わっても、母は消えたまま箱の中から再び現われることはなかった。
シェルドンは手品師や興行主に抗議するが、相手にしてもこんなことははじめてでどうして良いか分からない様子だった。新聞沙汰になるのは職業柄まずいので、シェルドンは私立探偵に母の捜索を依頼した。
母が見つからないまま3日が経過した。いつしか、いなくなった母のことは気にならなくなり、シェルドンはストレスから解放された。仕事もバリバリこなすようになり、リサとの関係も順調そのものだった……。
<<スタッフ>>