自殺者になりかわったばかりに、売春組織つかまってしまった少女の運命。
『蜘蛛女のキス』のマヌエル・プイグにインスパイアされたドラマ。

ネイキッド・タンゴ

NAKED TANGO

1991  スイス/アルゼンチン/日本/アメリカ

90分  カラー



<<解説>>

『ザ・ヤクザ』以降、日本がらみの仕事で活躍してきた脚本家レナード・シュレイダーの監督作。親日家の脚本家とはいっても、本作は日本とは無関係。彼が脚本を手がけた『蜘蛛女のキス』の原作者であるラテンアメリカ文学の作家マヌエル・プイグの影響を受けたという、甘い悲劇に彩られドラマである。プイグは映画指向の作家であり、『蜘蛛女のキス』の中でも主人公モリーナに様々な架空の映画を劇中劇として語らせ、密室劇に無限の奥行きをもたらしていた。本作は、プイグの映画に対する強い憧れをシュレイダーが具現化したような作品であり、映画以上に映画的イメージに満ちた世界が描かれている。
物語の舞台は1920年代のブエノスアイレス。主人公の人妻は、自殺者に成り代わったために娼婦として売られ、記憶喪失になる――ドラマティックなモチーフの積み重ねのみで構成されたもの物語は、粗筋だけなぞれば、与太話以外の何ものでもない。しかし、本作は、普通の映画のように、この与太話を観客に信じこませるようなことはしない。むしろ、これが物語であることをあえて分からせるように、“いかがわしさ”や“嘘っぽさ”を強調していく。言い換えれば、本作は物語るための物語なのであり、それはまるで、モリーナが自分の観てきた映画を他人に話して聞かせるのにも似ている。観客はただ、その話に耳を傾けつつ、間接的に映画の持つ夢に浸るべきなのだろう。



<<ストーリー>>

中年の判事、トレスと結婚したばかりの少女ステファニーは、ブエノスアイレスへ向かう船の中で、海へ身を投げる女を目撃した。ステファニーは、自分を子供扱いする夫をちょっと懲らしめるつもりで、自殺した女と入れ替わった。身投げした女は、金のためにユダヤ人、ジーコのもとへ嫁ぎに行く途中であった。
ステファニーは、ブエノスアイレスに着くと、そのまま、ジーコの妻になった。だが、新婚初夜に、近所の宝石商と無理矢理に同衾させられそうになることに。実は、ジーコは売春秘密結社の一員だったのだ。ステファニー思わず宝石商を刺し殺してしまった。
ステファニーは、ジーコの仲間の殺し屋、チョーロから命を狙われることになった。だが、チョーロはステファニーを殺せなかった。ジーコの経営する酒場で娼婦として働かされることになったステファニーは、ここから逃げるために、チョーロを誘惑した。だが、彼はタンゴしか愛さない男だった……。



<<キャスト>>

[チョーロ]
ヴィンセント・ドノフリオ

[ステファニー]
マチルダ・メイ

[トレス判事]
フェルナンド・レイ

[給仕]
トニー・ペイン

[船長]
アンソニー・プラット

[ジーコ]
イーサイ・モラレス

[宝石商]
ジョッシュ・モステル

[美容師]
パトリシオ・ビッソ



<<スタッフ>>

[監督/脚本]
レナード・シュレイダー

[製作]
デイヴィッド・ワイズマン

[製作補]
ジェイムズ・W・スコッチドポール
トニー・ペイン

[撮影]
ファン・ルイス=アンシア

[音楽]
トーマス・ニューマン

[美術]
アンソニー・プラット

[編集]
デブラ・マクダーモット

[衣装デザイン]
パトリシオ・ビッソ
ビアトリス・デ・ベネデット

[キャスティング]
デイヴィッド・ルービン