クリスマス・パーティ最中の高層ビルがテロリストに占拠。
果敢にもたった一人でテロに挑んだ刑事の活躍を描く。
人気シリーズの記念すべき第1作。

ダイ・ハード

HIE HARD

1988  アメリカ

131分  カラー



<<解説>>

テロリスト相手に刑事の孤立奮闘する様をハードなアクションで描き、主演のブルース・ウィリスを一気にスターダムに押し上げた作品。多数の敵を相手に主人公が孤立奮闘するアクション映画というのは、もちろん、これまでに幾つも作られていた(劇中の台詞にもあるが、「ランボー」シリーズとか)。しかし、本作は、大ヒットしたおかげでこの手の作品の代名詞となり、90年代のアクション映画のほとんどに影響を及ぼしたといっても過言ではい。明らかな亜流作も無数に作られ、“なとんかのダイ・ハード”という消極的な評価がうたい文句になる様は、あたかも“ダイ・ハード”というジャンルが生まれたかのようであった。本家も2007年までに続編が3編が作られている。
見た目は派手な作品だが、実は製作会社FOXの資金不足のため、低予算で仕上げられたことは有名である。物語の舞台となる“ナカトミ・プラザ・ビル”は、完成直後のFOXの自社ビルであり、撮影の大部分はその中で行なわれたと言われている。ロケーションに予算を使わなかっただけでなく、キャスティングにもそれなりに抑えられていたようだ。いまでこそスターであるブルース・ウィリスも、当時はテレビで人気者だったが、映画界では無名に近かった。印象的な悪役を演じたアラン・リックマンも、舞台が本業であり、本作が映画デビューだったという。また、事件に巻き込まれる人間はそれほど多くはなく、大規模なエキストラも存在していない。おそらく、見せ場である正味二回の大爆発シーンの火薬以外には、予算を割いていなかったのだろう。
低予算でありながら、エンターテインメントとして面白く、大ヒットしたのには、ひとえに脚本の巧みさと主人公のキャラクターの面白さのためである。まず、撮影の都合で、ビルの中だけで物語が展開するように書かれた脚本が、密室劇の緊張感を出すことになった。主人公に逃げ場がなく、ただ立ち向かっていくことしか出来ないというシチューションは、主人公がしぶしぶながら成行きで戦わざるを得ないという必然性を生むことになり、それはものぐさな主人公のキャラクターを魅力を生かすことになっている。この密室性は、本作を続編よりも優れた作品と評価する理由にもなっている。また、『タワーリング・インフェルノ』のようなパニック映画の要素も少しだけ見せているが、これに関しては、次作以降で発展していくことになる。
後のあまたの亜流作が真似できなかったは、ブルース・ウィリスの演じた主人公マクレーン刑事の人間臭くユーモラスなキャラクターである。彼の登場は、これまでの映画のヒーロー像に一石を投じると共に、ありきたりなヒーロー・アクションに食傷していた観客にもアピールすことととなった。ヒーローと言えば、精悍な二枚目か筋肉隆々のワイルド・ガイと相場が決まっていた。ところが、マクレーンはどこにでもいそうなちょっとくたびれたおじさんなのである。そのおじさんが持ち前の強運とまぐれの力だけで、テロリストを壊滅させてしまうのであるから、痛快でないわけがないのである。
マクレーンが往年の西部劇スターのロイ・ロジャースを気取っていたり、テロリストのボスと『真昼の決闘』について話してみたり、クライマックスは早撃ち対決だったりと、西部劇の引用を行なうことで、マクレーンと西部劇とヒーローを対比させる場面が多く見られる。例えば、マクレーンは西部劇のヒーローのように寡黙ではない。戦っている最中にたえず不満をぶつぶつつぶやき、時には汚い言葉で罵ることもあれば、情けない泣き言も飛び出す。また、完全無欠のヒーローではないから、無茶をすれば怪我する。もしも、西部劇ならば、次のシーンでは怪我が直っているものだが、マクレーンはその怪我を最後まで引きずる。ラストシーンのマクレーンは、汗とホコリにまみれ、さながらぼろ雑巾のようだ。本作を象徴するものと言えば、ライターのわずかな明かりをたよりに窮屈な通気用ダクトの中をゴキブリのように這い回るシーン。こんな姿、これまでものヒーローにあっただろうか。
本作は一種のアンチ・ヒーロー映画と言えるかもしれない。つまり、ヒーロー・アクションが見せなかったヒーローの裏側を見せているのである。「ヒーローも実は裏ではこんなことやってるんですよ」みたいな舞台裏を、はたして観客が見たかったかどうかは分からない。しかし、ブルース・ウィリスの見せた裏舞台は、これまでのヒーロー・アクションにはなかった圧倒的なリアリティがあるのである。



<<ストーリー>>

クリスマスのロサンゼルスにニューヨークから一人の刑事ジョン・マクレーンが降り立った。彼は妻のホリーと別居中だった。キャリアウーマンであるホリーと結婚観が合わないことが原因だった。ホリーは、ここカリフォルニアに支社を構えるナカトミ商社に引き抜かれ、幹部の職に就いていた。彼女は仕事の上では旧姓のジェネロを名乗っていた。マクレーンがはるばるニューヨークからやってきたのは、ホリーに会うためである。マクレーンは陽気な黒人アーガイルの運転する迎えの車に乗せられ、完成間近の“ナカトミ・プラザ”に向かった。クリスマスパーティの会場である30階に上がったマクレーンは、社長のジョー・タカギや、ホリーの同僚ある国際開発部長のエリスから紹介を受けた後、ホリーと会った。だが、顔を合わせた途端、ホリーと喧嘩を始めてしまったマクレーンは、パーティに顔を出さず、そのままホリーのオフィスにこもることに。
クリスマス・パーティが始まった頃、エントランスに二人組みの男が現われ、突然、受付係を射殺した。続いて、エントランスにトレーラが付けられ、中からハンス・グルーバーをリーダーとした10人の男たちが降りてきた。ハンスの部下たちは手際よくビルのコンピュータを操作し、エントランスから29階までを閉鎖すると共に電話回線を切断した。ハンスたちは30階に上がると、発砲で威嚇しながら、パーティ客たちに対して、ビルの乗っとりを宣言。会場での異変に気付いたマクレーンは、すばやく部屋を飛び出し、非常階段で31階へ駆け上がった。
ハンスたちは「利潤追求のみに走るナカトミ商社への鉄槌」だと自分たちの目的を述べるが、本当の狙いは、金庫の中にある額面6億4千万ドル相当の債権だった。ハンスは金庫を開けるためのアクセスコードをタカギに聞き出そうとしたが、答えないため射殺した。アクセスコードの解除は部下のテオに任せることにした。ただ、7つあるアクセスコードのうち7番目は電子ロックであり、東京本社の許可がなければ解除不能だった。
マクレーンは物陰からハンスにタカギが殺害しされる瞬間を目撃していた。マクレーンは外部にビルの異変を気付かせるため、32階に上がり、ライターを使って火災警報機を作動させた。窓外の通りにこちらへ向かってくる消防車の列を見つけ、マクレーンは期待に胸を膨らませた。だが、無慈悲にも消防車は引き返していった。警報機が作動したことに気付いたハンスが、消防に機械の故障を報告していたのだ。マクレーンは様子を見に来たハンスの部下のトニーと出くわし、取っ組み合いに。トニーは階段から転げ落ちて死亡。マクレーンはトニーの持っていたマシンガンを手に入れることとなった。
ハンスは、32階から降りてたエレベータの中にトニーの死体を見つけ、どこかに反抗者が一人、それもプロがいることに気付いた。屋上に上がったマクレーンは、緊急用無線を使い、警察にビルが何者かに占拠されたことを伝えようとしたが、いたずらと思われ取り合ってもらえなかった。無線の向こうで銃声のような音を耳にした警察は、念のため、ナカトミ・プラザの近所にいるパトロールに様子を見に行かせることにした。警察から指示を受けたのは、過去に誤って子供を売ってしまったことをきっかけに銃を抜けなくなり、以来、デスクワークに徹しいるアル・パウエル巡査だった。
緊急用無線を聴いていたハンスは、部下に屋上に向かうよう指示。死んだトニーの兄であるカールは、弟の復讐を誓っていたため、屋上は激しい銃撃戦の場となった。ビル内に戻ったマクレーンはエレベータシャフトに逃げ込み、さらにシャフトから通気用ダクトに潜り込んだ。マクレーンの行動に気付いたカールは、先回りをして通気ダクトを外から調べ始めた。マクレーンのもぐりこんでいたダクトの下にカールが立った時、ちょうどアルがビルに到着。カールがハンスに呼び戻されたため、マクレーンは命拾いをすることになった。
殺した受付係に代わりエントランスで見張りをしていたハンスの部下エディは、パトロールにやってきたアルに、異変は何事も起こっていないように振る舞った。アルはエントランスをしばらく見て回ったが、エディの言うことを信じて、ビルを出て行った。一方、マクレーンはハンスの部下のマルコとハインリッヒに見つかり銃撃戦に。マクレーンが二人を倒した時、アルはパトカーで去っていくところだった。マクレーンはアルにビルの異変を気付かせようと、マルコの死体を窓から放り投げた。さらに、外に向けてマシンガンを乱射。アルは警察にビルで異常事態が起きていることを通報した。
警察無線を傍受していたテレビレポーターのソーンバーグは、スクープの匂いを嗅ぎつけ、さっそくナカトミ・プラザに向けて出発。その頃、マクレーンはマルコたちから取り上げた無線を使ってハンスに話しかけ、彼らに揺さ振りをかけた。続いて、マクレーンはアルと緊急用無線で連絡をとり、犯人グループが9人でヨーロッパ系であることを伝えたが、自分の素性はまだ明かさず、“ロイ”と名乗った……。





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