伝説の空中都市ラピュタをめぐる大冒険を描くアドベンチャー。
宮崎駿監督の長編アニメーションの第3作。

天空の城ラピュタ

1986  日本

124分  カラー



<<解説>>

『風の谷のナウシカ』に続く宮崎駿の劇場長編アニメーションの3作目。ラピュタと呼ばれる空中都市をめぐり、その秘密の鍵となる石を持つ少女と、彼女と出会った少年の冒険を描く活劇。産業革命時代のヨーロッパをモデルに、航空技術が著しく進歩した架空の文明を舞台にしたSFアドベンチャー。いわゆるスチームパンクの一種である。ラピュタのモデルは、「ガリバー旅行記」に登場する空飛ぶ島ラピュータであり、そのことは、劇中でも言及がある(その時の台詞によれば、スフィフトの書いたものは空想なんだそうだ)。
よく言われることだが、宮崎駿の原点と言われる「未来少年コナン」と、設定やストーリーに似たところがある。類似が顕著なのは物語終盤で、超高度文明の描写や、主人公の少年の超人的な運動神経を発揮した活躍などは、「コナン」そのもの。しかし、そもそも、本作は「未来少年コナン2」としして企画された物であると言われている。
中味に関しては、前作『ナウシカ』よりも格段に分かりやすくなっている。自然への回帰というテーマは同様だが、前作のようにテーマを思想的に追及するのではなく、冒険活劇に徹したようだ。ラピュタを守ろうとする主人公と、ラピュタを悪用しようとする悪役との勧善懲悪的な対立。二度の山場が用意することでメリハリのついたハイテンポなストーリー展開。架空の文明を的確に表現した秀逸なデザイン。そして、飛行船での空中戦を中心とした迫力のあるアクション・シーン。そこに描かれるスケールの大きな冒険は、子供ならずとも心の踊るものであり、特に男性ファンからの熱心な支持は未だに衰えていない。
また、登場するキャラクターが活き活きと描かれている点も、本作の人気の理由のようだ。キャラクターが活きているとは言っても、昨今の宮崎作品のように異形の物の魅力を引き出すのではない。本作では、生身の人間が人間らしく描かれているのである。主人公たちは類型的過ぎたため影が薄くなってしまっているが、その分、主人公に協力することになる女海賊ドーラや、ラピュタによって世界を支配しようとする男ムスカなど、個性的な魅力が溢れている。特に、後者は宮崎作品には珍しく冷酷で冷淡な悪役だが、欲望に屈する人間の弱さを一身で表現した彼は、ある意味、主人公よりも人間味のある人物と言えるかもしれない。俳優・寺田農のアテレコも素晴らしく、彼の平淡な口調で発させられた名台詞の数々は未だにパロディにされること絶えない。



<<ストーリー>>

夜空を航海する一隻の飛行船。その中には一人で少女が囚われていた。飛行船は、少女の持つ石を狙う海賊、ドーラ一味の襲撃を受けた。少女はこの機を利用して、窓から外に出た。ドーラ一味から逃げるためではなく、自分を捕らえた男たちから逃げるためだった。ドーラ一味は少女を捕まえようとした。だが、少女は手を滑らせ、飛行船から転落してしまった。
鉱山で働く少年パズーは、今夜の残業のために弁当を買って仕事場に戻る途中、思いがけないものを見た。空から光に包まれた少女がゆっくりと降りてきたのだ。パズーが少女を受け止めると、少女のペンダントから発していた光が消え、少女を支えていた浮力も消えた。パズーは、気絶していた少女をその場に寝かせ、仕事に戻った。
翌朝、少女はパズーの暮す小屋のベッドで目を覚ました。少女は自分を助けてくれたパズーと対面し、彼にシータと名乗った。シータは部屋の壁に不思議な一枚の写真を見つけた。それは、雲の切れ間に、空に浮かんだ城のようなものがのぞいている写真だった。パズーはシータに、その写真は父が伝説の空飛ぶ城“ラピュタ”を撮ったものだと説明した。志半ばで死んだ父の意志を継いで、ラピュタを見つけることがパズーの夢だった。
パズーの小屋の前に一台のオートモービルが停まった。シータはすぐにそれがドーラ一味だと気付いた。パズーはシータが追われていることを知ると、彼女を男の子に変装させて小屋を脱出した。町に向かったパズーは、親方を助けを求めるが、ドーラ一味に先回りされていた。パズーの慌てた様子に気付いた親方はドーラ一味と対決。その隙に、パズーは谷に向かい、そこを走る汽車を捕まえた。そして、顔見知りの機関士に、警察まで乗せて行ってくれるよう頼んだ。
ドーラ一味をまいた汽車の前に、軍隊の装甲列車が現われた。パズーはシータを保護してもらおうとした。だが、列車から降りてきた男の顔を見て、シータの顔色が変わった。それは、シータをさらった男たちの一人だった。シータは慌てて複線に逃げ込むが、追ってきたドーラ一味のオートモービルの重みで線路が崩壊。シータとパズーと谷の底へ落ちてしまった。だが、その時、ペンダントが光り、二人の体を持ち上げるように包みこんだ。二人はゆっくりと谷の底へ降りていった。
パズーとシータは、谷の底にある古い鉱山の横穴に降り立った。シータはパズーに軍隊から逃げた訳を話した。彼女は両親を亡くした後、北の村、ゴンドアで一人で暮していたが、ある日、軍隊がやってきて彼らに連れ去られたのだった。軍隊やドーラ一味の狙うペンダントは、シータの家に代々伝わるものだった。
パズーとシータは横穴の中で、鉱山を知り尽くすポムじいさんと会った。ポムじいさんはランプを消し、周囲の石が光っているのをパズーたちに見せた。このあたりの石には、飛行石が含まれていて、昨日あたりからそれが反応しているのだという。ポムじいさんは、シータのペンダントが光っているのを見て、石が騒ぐ理由を知った。ペンダントの石は飛行石の結晶だった。だが、飛行石を結晶化する技術を持っているのは、ラピュタ人以外にいないはずだった。
ポムじいさんと別れて穴から外に出た後、シータは家に伝わる秘密の名前を持っていることをパズーに打ち明けた。その名前とは、“リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ”。パズーは、シータがラピュタとなんらかの関係があることを知り、驚いた。その時、パズーとシータは軍隊に見つかり取り囲まれた。パズーはシータを守るために抵抗しようとするが、頭を殴られて気絶してしまった。
パズーが目を覚ますと、そこは牢屋の中だった。パズーとシータは軍隊の要塞に連れてこられていたのだ。シータの誘拐を指揮したムスカ大佐は、政府から密命受け、軍隊と共にラピュタの探索を行っていた。ムスカはシータを要塞の北の塔の地下に連れて行き、そこに保管されていたあるものを見せた。それは、巨大なロボットの兵隊だった。このロボットが空から降って来たことが、ラピュタ探索のきっかけとなったのだという。ムスカはロボットの胸についた紋章をシータに見せた。それは、ペンダントの飛行石についた紋章と同じものだった。
ムスカは、驚くシータに追い討ちをかけるように、秘密の名前が彼女がラピュタの王女の証拠であることを突きつけた。さらに、ムスカは、ラピュタは恐るべき科学力を持つ恐怖の帝国であり、そんなものが今でも頭の上を飛びつづけていることの危険性を強調した。そして、飛行石にラピュタへの道しるべを示させるための言葉を教えるようシータに迫った。シータはパズーを自由にするため、ラピュタ捜索に協力することを決意した。
パズーは再会したシータから別れを告げられた。突然のことに戸惑うパズーは、シータの言葉の真意を確かめられないまま、ムスカから謝礼の金貨を握らされた。パズーは自分の無力に苛まれながら、肩を落として帰路についた。小屋に帰り着いたパズーは、待ち受けていたドーラ一味につかまり、柱に括りつけられた。女親分のドーラから、娘一人を救えなかったことを馬鹿にされたパズーは、シータを救出に向かうことを決意。要塞の襲撃に向かうドーラに、自分も一緒に連れて行って欲しいと頼んだ。
その頃、要塞の一室にいたシータは、窓から夜空を眺めながら、母親から教わったまじないのことを思い出していた。それは、困ったときに唱えるという言葉だった。シータが何気なくその言葉を口に出してみると、ペンダントの飛行石が光り始めた。その光と呼応し、塔の地下のロボットの兵隊が動き出していた。ロボットは恐るべき破壊力の光線で行く手を遮るものを破壊しながら、シータのもとへ向かっていった。兵士たちはロボットを押し止めようとするが、いかなる攻撃もそれには通用しなかった。ロボットが自分を追っていることに気付いたシータは、塔の天辺に逃げた。その時、飛行石は真っ直ぐな光を発し、東の空を指した……。





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