イタリア・アドレア海の大空と海を舞台に、
魔法で豚の姿に変わった飛行艇乗りの姿を描くファンタジー。
宮崎駿の劇場版長編アニメーション6作目。

紅の豚

1992  日本

91分  カラー



<<解説>>

『魔女の宅急便』に続く宮崎駿の6作目(短編含まず)。少年少女を主人公にしてきたこれまでの多くの作品と異なり、主人公はオッサン。しかもブタ。テーマも未来への希望に満ちたものとは若干違い、消極的ではないまでも、どちらかというと目線は過去に向かっている。過去を引きずりながらも自らのロマンと美学を貫く男の姿を通し、外見の良さではなく、内面からにじみ出るダンディズムを謳いあげた異色作となった。また、飛行機を題材にしたところは、飛行シーンに拘りをみせてきた宮崎アニメのひとつの集大成とも言える。
物語の舞台と背景がはっきりしているのも、そのあたりがぼかされていたこれまでの少年向けファンタジーと異なるところである。20年代のイタリアを舞台とし、ファシスト台頭や世界恐慌という背景が物語に関わってくるところは、やはり、大人の観客を意識しているようだ。そんなシリアスな世界の中で、魔法でブタになったという主人公一人だけが非日常である。本作は、そんな奇妙な設定で、主人公と彼を取り巻くライバルと友人、そして、二人の女性といった“気持ちの良い人たち”の姿を描いた大人のファンタジーなのである。
(ジブリでは『おもいでぽろぽろ』の前例はあるが、)本作では、キャストに職業俳優ではなく、森山周一郎、加藤登紀子、桂三枝といったちテレビや映画で活躍する俳優や歌手やタレントを起用したことも話題となった。このこのとは、後の宮崎=ジブリ製作アニメの特長にもなっていく。このように様々な新たな試みに挑み、かつ、監督の作家性(というか趣味)を押し出したところは、宮崎アニメのターニングポイントとも思える。しかし、あえて挑戦したのは、これから野心作へ挑むための試金石だったのかもしれない。結果的に、賛否がありながらもヒットし、次回作『もののけ姫』へ着手することになった。ただし、主人公がブタなのはあんまりだと思ったのか、以降、少女を主人公にすることに徹しているようだ。



<<ストーリー>>

アドリア海を荒らす空中海賊を相手に、真っ赤な戦闘艇を駆り、賞金稼ぎをするポルコ・ロッソという飛行艇乗りがいた。ポルコは、かつてはマルコ・パゴットという名であり、第一次大戦中にはイタリア空軍の英雄的なパイロットだった。だが、今は軍を辞めた上、自分自身に魔法をかけ、豚の姿になっていた。
間抜けな空賊、マンマユート団をやっつけた後、ポルコは、いつものようにホテル・アドリアーナに向かった。アドリアーナは飛行艇乗りたちの憩いの場所であり、男たちの目当てのマダム・ジーナはポルコの昔染みだった。名うてのポルコを倒すことで、名をあげようとする飛行艇たちは少なくなく、アメリからやってきたミスター・カーティスもその一人だった。ジーナに関しても、ライバル心剥き出しのカーティスは、空賊の用心棒をしながら、ポルコとの決闘のチャンスを待っていた。
ポルコは銀行から下ろした賞金で銃弾を調達し、次の戦闘のためにアジトで鋭気を養っていた。一方その頃、マンマユート団は仲間の空賊を連合を組み、さらに、カーティスという強い味方を得た上、客船“地中海の女王”を襲撃。強奪を成功させたマンマユート団はラジオを通じて、ポルコを挑発した。
いよいよエンジンの調子が悪くなったため、ポルコは愛機を馴染みの整備士ピッコロのいるミラノへ運ぶことを決心した。ところが、ミラノへ向かう途中にカーティスと鉢合わせてしまった。カーティスはポルコを倒そうと躍起になって撃ちまくった。エンジンを撃たれたポルコは、墜落したように見せて、小島の影に潜んだ。カーティスはポルコを倒したと重い、彼の愛機の破片を持ち帰った。ほとぼりが冷めたところで、ポルコはジーナに電話をして、自分の無事を報せた。だが、ジーナは人の気も知らずに心配をかけてばかりいる身勝手なポルコに腹を立てていた。
ミラノにやってきたポルコはピッコロの工場を訪ねた。ピッコロの息子たちは出稼ぎに出ていたため、アメリカ帰りの十七歳の孫娘フィオが手伝っていた。ボロボロになった愛機の翼は造り直すことになり、フィオが設計を担当することになった。はじめは、女性であることを理由に反対していたポルコだったが、フィオの熱意を買い、設計を一任することにした。町には世界恐慌のために男手がなかったが、近所の女たちが総出で働き、ポルコの愛機の修理は完了した。エンジンには、かつて、整備不良のためにカーティスに負けたというエンジンが積まれることになった。
ある日、ポルコは町のさびれた映画館で、空軍時代の友人、フェラーリンと会い、彼から忠告を受けた。ポルコに空軍に戻そうと、軍事警察が彼を追っているのだという。ポルコは軍事警察から逃れるため、愛機のテスト飛行を待たず、深夜に出発することを決意した。工場の外で軍事警察が張り込んでいる中、ポルコが出発の準備をすすめていた時、フィオが一緒に行くと言い出した。理由は、はじめて完成させた飛行艇の整備のため。それに、自分がポルコの人質となれば、軍事警察を欺けると考えたためだった……。



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