しだいに視力を失う難病にかかった青年と彼を支える恋人の姿を描く。
シンガーソングライター・さだまさし原作の感動作。

解夏

2003  日本

113分  カラー



<<解説>>

さだまさしの小説二作目となる短編集『解夏』より表題作を映像化した作品。一作目『精霊流し』もほぼ同時期に映画化され、本作の直前に公開されている。また、同原作「解夏」は、映画公開後まもなく、「愛し君へ」というタイトルでテレビシリーズ化もされた。
仏教の暦で修行の終り指す「解夏」をモチーフに、しだいに視力が失なわれる恐怖と苦しみと、それらが終りを告げた後の心の解放がテーマ。物語大半は、主人公の故郷である長崎で展開され、外的な要因が遮断された環境の中で、家族と過ごしながら難病と闘う主人公の心の葛藤が集中して描かれていく。
美しい風景の中、つとめてやしさい語り口で、ゆったりと描かれたのは、難病と恋人の絆という王道の内容だからこそ、メロドラマに陥いることを避けたいという意志なのかもしれない。その反面、登場人物たちの底なしのやさしさと気の遣いように人間臭さが足りず、やや浮世離れしていた印象となっている。その中で、これが遺作となった松村達雄の出演シーンは、そこだけが別の映画のように画面ぴしっと引き締まっている。
同テーマのあまたのメロドラマに比べれば、物語としての手ごたえに物足りなさが感じられるが、そこは、さだが小説家である前に、詩人であるということを踏まえるべきところかもしれない。刺激な表現が抑えられている代わりに、詩的な表現が映像に表れているため、映像から物語を読むのではなく、詩を感じるたい作品だ。「主人公が最後に見たもの」を見せたラストシーンもさだの美学の真骨頂と言えるだろう。
ささやかながらツボを的確に押さえるシーンや台詞が随所にちりばめられ、テーマ的にも純愛映画の要素は満たしているが、公開されたのは、同じく大沢たかお主演の『世界の中心で、愛をさけぶ』より少し前。あと、半年公開が後だったならば、ブームに乗って大ヒットした可能性もあったかもしれない。



<<ストーリー>>

東京で小学校の教員を務める高野隆之は、ある夜、悪夢に教われ目覚めると、眼の周りに奇妙な縁取りと口内炎が出来ていた。幼馴染の眼科医・清水博信に相談した隆之は、“ベーチェット病”という耳慣れない病名の宣告を受けた。それは、体の様々な場所に炎症が起こる難病だった。眼窩のぶどう膜に炎症の起きた隆之のケースでは、進行に従い徐々に視力が失われていくという。
隆之は清水と一緒に、同病で失明した黒田寿夫と会い、詳しい話を聞いた。数年をかけて失明するか、突然の発作で失明するか、症状は人それぞれだという黒田の言葉に、隆之の不安は募っていった。
隆之には大学で助手を務める恋人・朝村陽子がいた。隆之は、夢を持つ陽子の将来のために、自分が足でまといになってはいけないと考えた。そして、隆之は、研究のため初夏までモンゴルに行っている彼女には病気のことを報せず、恩師でもある陽子の父・健吉にだけ告白した。
父を通して病気のことを知った陽子は、研究を途中で投げ出して東京に帰って来た。陽子は、大切なことを自分に話してくれなかった隆之を責めた。だが、教師を辞めた隆之は、陽子を東京に残して、ひとりで故郷である長崎に帰っていったのだった。
隆之は長崎で母・聡子と暮らしながら、故郷の風景を目に焼き付けていった。そんなある日、東京からやってきた陽子がやってきた。ベーチェット病について研究していた陽子は隆之の眼になることを決意していたのだ。論文を書くという口実で、陽子は聡子にすすめられるまま、隆之の実家に居候することになった。
隆之はまだ聡子に自分の病気のことを打ち明けていなかった。だが、隆之が病気であることに気付いていた聡子は、本人に問いただす代わりに、陽子に尋ねた。聡子は、病気のことを教えてくれた陽子を気に入り、自分の娘のように可愛がった。だが、陽子を可愛く思えばこそ、隆之と一緒になることが彼女の幸せにつながるのかどうか、悩むことになるのだった……。



<<キャスト>>

[高野隆之]
大沢たかお

[朝村陽子]
石田ゆり子

[高野聡子]
富司純子

[松尾輝彦]
田辺誠一

[清水博信]
古田新太

[安田]
鴻上尚史

[高野玲子]
石野真子

[克子]
渡辺えり子

[黒田寿夫]
柄本明

[朝村健吉]
林隆三

[林茂太郎]
松村達雄



<<スタッフ>>

[監督/脚本]
磯村一路

[製作]
亀山千広
見城徹
島谷能成
遠谷信幸
桝井省志

[エクゼクティブプロデューサー]
関一由
小玉圭太
館野晴彦
千野毅彦

[助監督]
山口晃二

[原作]
さだまさし 「解夏」 (幻冬舎刊)

[撮影]
柴主高秀

[音楽]
渡辺俊幸

[主題歌]
さだまさし 「たいせつなひと」

[美術]
小澤秀高

[録音]
横溝正俊

[照明]
豊見山明長

[編集]
菊池純一



<<プロダクション>>

[提供]
東宝

[製作]
アルタミラピクチャーズ