組長亡き後、引退を考える極道の妻と、跡目に立候補した息子との確執を描く。
シリーズ第5作。

新 極道の妻(おんな)たち

1991  日本

104分  カラー



<<解説>>

「極妻」シリーズの5作目。主演は1作目と前作で極妻を演じた岩下志麻。以降、10作目まで続投し、シリーズの顔となる。今回は主人公が極道の妻であることに加えて、極道の母という一面が強調されていて、極妻とその息子との関係を中心にした物語になっている。極妻の息子役は高嶋政宏で、ドスのきいた迫力の芝居を見せる。その他、物語の鍵を握る幹部に桑名正博、極妻の寡黙な腹心に本田博太郎、敵役のインテリヤクザに夏八木勲、顧問弁護士役にシリーズのほとんどに出演するかたせ梨乃など、キャストも充実。監督の中島貞夫は、以降、何度もシリーズに関わることになる立役者の一人である。
ノンフィクションを原作とした本シリーズの特色としては、女性の立場という新しい視点から男社会であるヤクザ社会を描いたことがある。観る人を選びそうなヤクザ映画で、一般観客の共感を得ることに成功した。また、保守的なイメージのあるヤクザ映画で、時代の流れの中で変化するヤクザの現実を描いたり、ヤクザを取り巻く社会問題などを扱ったところも特徴的だ。時代に即した新鮮な内容であることとが、シリーズの今も続いている理由かもしれない。本作は、女性の立場とヤクザ社会の変化という二つの革新的な要素がうまくからみあった物語が楽しめる。
極妻が束ねるのが任侠道を重んじる昔かたぎのヤクザであるのことは、シリーズの定番の設定であり、本作でも変わらない。彼らの生き方は時代の流れにそぐわず、シノギの手段も株操作といった近代的なものに移っていくというのが現実である。極妻が現実と折り合いをつけながら代紋を守ろうとする一方、男たちが跡目争いや対抗組織との抗争に走り、破滅に向かっていくというのもシリーズ定番の展開だが、本作は、そこに家族の絆というテーマが加わり、内容的に深みのある作品となった。劇中、極妻は息子に向かって、「極道とは親子の縁を切ること」だと言う。しかし、形の上で縁を切ったといっても、親子の絆はそう簡単になくなるものではない。極妻が組を束ねる霊代とひとりの母親との間で葛藤し苦悩するという、シリーズの中でも特に人間味溢れる脚本が見事だ。
母子愛を前面に出したドラマ性、サスペンスフルなストリーリー展開、さらに、過激な銃撃戦を含むアクションも良好な本作は、エンターテインメント的にバランスのとれた快心作である。



<<ストーリー>>

尼崎の昔かたぎの極道・藤波組は、二代目の死去の後、霊代の加奈江により束ねられていた。藤波組は加奈江の家族を中心に構成されていて、傘下の藤竜会を取り仕切っているのは、加奈江の息子の直也だった。極道の世界か知らず、先代に甘やかされてわがままに育ってしまった直也ことは、加奈江の悩みの種だった。
加奈江の妹・頼子の夫である若頭・松岡は現在、服役中だった。加奈江は、松岡が出所したら、彼に跡目を継がせると共に、頼子に自分の後を任せ、その後は、直也と一緒に極道を引退しようと考えていた。ところが、松岡は出所直後に香港で何者かに殺されてしまった。すぐに逮捕された容疑者は、単独の犯行だと自供していたが、藤波組の顧問弁護士の桐島美佐子は、事件が藤波組に対抗する極道・神原組の陰謀であると睨んでいた。それを裏付けるかのように、身内だけで行なわれるはずだった松岡の葬式には、神原組の若頭補佐の角谷が藤波組の動揺を探りにやってきた。
松岡亡き後、三代目候補には、加奈江や多数の幹部の推薦により、シノギの近代化を図る理性派で、加奈江の娘・雅美の婿である本部長・宗田の名が挙がった。だが、それに直也が猛反発した。神原組との対決をぶちあげる血気盛んな直也は、幹部・国井の後押しを受けて三代目に立候補した。その頃、頼子は加奈江より先に極道から縁を切り、東京で人生をやり直そうとしていた。そこへ来て、直也の起こした騒動が起こったため、加奈江が密かにあためていた引退の計画が危ぶまれた。加奈江は、三代目の件から手を引くよう直也に忠告するが、彼が引き下がる気配はなかった。
直也はロックフェスティバルの会場で偶然に出会った堅気の女子大生・氏家葉子に恋をしていた。直也は極道であるこを隠し、会社社長を名乗って葉子と付き合い始めた。だが、ある日、直也は体の刺青を目撃した葉子に悲鳴をあげられ、それ依頼、避けられるようになってしまった。むしゃくしゃした直也は、風俗関係でシノぐ弱小極道・前田組へカチコミをかけた。前田組は藤波組との戦争が割に合わないと考え、藤竜会と杯を交わす約束を交わした。
前田組との交渉成立で気をよくした直也は葉子の実家に押しかけ、やってきた彼女に突然、結婚を申し込んだ。だが、葉子は極道である直也のことを「恐い」と言い、結婚の申し出を断わられてしまった。その後、加奈江のもとに葉子が訪ねてきた。葉子はいったん結婚をことわったものの、直也のことを好きでいた。葉子は直也に三代目を継がせないで欲しいと加奈江に頼んだ。加奈江は葉子に完成間近のホテルを見せ、極道を辞めさせたら直也にここを任せるつもりでいることを打ち明けた。
前田組は藤竜会を裏切り、角谷組と杯を交わしてしまった。激怒した直也は、先代からの目付け役の殿山が止めるのも耳を貸さず、鉄砲玉の保を使って前田を殺させた。事件後、すぐに藤竜会の事務所へ刑事の若原がやってきて、直也は公職選挙法違反という別件で任意同行を求められた。直也は警察に伴なわれての同行中、前田組の組員に撃たれた。直也襲撃の報せを受けた加奈江は、幹部の前では平静を装っていたが、心中、穏やかではなかった。幸いかすり傷で済んだ直也は、ほとぼりが冷めるまでは、病院から出ることを禁じられ、美佐子や殿山の監視を受けることになった。だが、直也が入院している間、藤波組と神原組の間で戦争が勃発してしまった……。



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