消火スペシャリストの男が環境破壊を繰り返す石油会社に怒り爆発。
セガールの環境保護三部作第1編。
沈黙の要塞
ON DEADLY GROUND
1994
アメリカ
102分
カラー
<<解説>>
『沈黙の戦艦』に続く沈黙シリーズ第2弾として公開されたが、『沈黙の断崖』、『沈黙の陰謀』と続く環境保護三部作の一作目。主演のセガール自身が初のメガホンをとっているため、残念ながら前作より完成度は落ちるが、イヌイットとの交流や主人公が啓示を受けるイメージ的なシーンなどに本人の異文化趣味が出ている。その一方で意外なのは、いつもの武道を使った流麗なアクションよりも、ガン・アクションや爆破を中心とした派手なシーンが多いこと。セガールが銃や爆薬を楽しそうにいじりまわす様は、合気道よりもそっちの方が好きなのかもと思わせたりもする。マイケル・ケインが武闘派ではないが、セガール相手に最後まで根性のある悪役を生き生きと演じてるのも見どころ。
主人公の設定は、具体的な組織名こそはっきりしないが、元CIAとかNSAとかの過去を持つというセガール映画では定番のもの。そして、物語は、そのいつもの設定の主人公が、利益追及のためなら環境破壊も気にかけないという大企業を叩き潰すというものである。環境保護をテーマとしたことは意欲的だが、バイオレンス・アクションとの相性はあまり良くないようだ。それは、三部作の他の二編も見ても明らかである。というのも、環境保護という訴えが前面に出すぎていると、そのために暴力や破壊が行なわれるということが元も子もないように思え、ヒーロー・アクション映画として気持ちよくないのである。さらに本作では、わざわざ主人公に「暴力に訴えたくはないが他に手段がない」とか「現実を見ろ」とか言わせているのも逆効果。同様に、ラストの主人公の演説の説得力も白々しく聴こえてしまう。善悪の立場を引っくり返し、環境保護という大義のために殺人や破壊を繰り返す狂信的なテロリストと、それと戦わざるを得なくなった不運な傭兵という図式でも成立してしまうのも、困ってしまうところである。
主人公の暴力を正当付けるための説得力にかける上、環境保護というテーマを盾にした、いつも以上に独善的な脚本は批判されるところなのかもしれない。だがしかし、そうでなくては面白くないのが、セガール映画なのである。本作は、セガール本人が監督しただけあり、一連のセガール映画の中でも、特に俺様主義が貫かれているようである。俺様主義が貫かれているのは脚本だけでなく、アクション・シーンにしても同様。今回は、セガール・アクション本来のキレや美しさとは遠い、凶暴なバイオレンスの連続なのである。目を覆いたくなるような残虐なシーンも少なくなく、もはや、主人公は正義の味方というより、ホラー映画のモンスターとそう大差がない。節度を失った暴走気味のアクシションを見るにつけ、本作は、セガールが好き勝手に撮ったもので、その暴走を誰も止める人が周囲にいなかったのでは、と訝れるほど。しかし、セガール映画の極北という意味では、本作は重要な作品であり、これを観ずしてセガールを語ることは出来ないと言っても良いのである。
<<ストーリー>>
石油会社の大手エイジス社が運営するアラスカのプラントで火災が発生した。エイジス社の社長ジェニングスとその部下マッグルーダーと共に、火災現場にひとりの男が駆けつけた。その男、フォレスト・タフトは爆破のスペシャリストである。今はエイジス社のために働いているが、過去の経歴は謎に包まれていた。フォレストは燃え盛るプラントを爆破し、火災を止めたが、爆破の直前、亀裂の入った安全バルブを目撃した。
現場監督の老人ヒュー・パーマーは、安全バルブに欠陥があった可能性を友人のフォレストに打ち明けた。だが、ジェニングスはヒューだけに責任を押し付けることで、事件をうやむやにしようとしていた。それというのも、エイジス社がアラスカに新たに建設しているプラント“エイジス・ワン”の操業開始が間近に迫っているからである。もし、十三日以内に操業を始められなければ、イヌイットに採掘権を変換するという規定があったため、ジェニングスは焦っていた。
フォレストはヒューに頼まれ、深夜のエイジス社でコンピューターの部品購入ファイルを調べた。その結果、エイジス・ワンに使われる部品の多くが、検査を禄に通っていない欠陥品であることが分かった。一方、ヒューも独自に内部告発を計画し、プラントの圧力データをディスクに保存していた。だが、その動きに気付いたマッグルーダーに自宅の山小屋に押しかけられ、激しい拷問を受けることに。
ジェニングスは秘書のライレスと共に火災事故の影響について会見を開いた。環境への影響は“容認できる範囲”とするエイジス社側の説明に、イヌイットの民族委員会は激しく反発。その時、委員会の中からひとりの女性が進み出て、ジェニングスのスーツに石油をかけた。会見に立ち合っていたフォレストは、環境問題について話し合わなければならないと考え、ジェニングスに詰め寄った。だか、ジェニングスは話を逸らし、フォレストに新たな消火の依頼をした。
フォレストはジェニングスに指定された火災現場のプラントにやって来たが、それは多くを知りすぎた彼を抹殺するための罠だった。フォレストはプラントの内部でヒューの傷だらけの遺体を発見。次の瞬間、プラントが爆発した。ジェニングスは、一連の火災が反乱分子であるフォレストの仕業であったと会見で発表。だが、プラントの瓦礫の中を捜しても、フォレストの遺体は見つからなかった。その頃、奇跡的に一命を取り留めていたフォレストは、会見でジェニングスに挑んだ女性マスウの父親のシルックに助けられ、彼が長老を務める村に連れてこられていた。
ジェニングスに命じられてフォレストを探し続けていたマッグルーダーは、シルックの村を発見。マッグルーダーは、ここにフォレストが匿われていると睨み、村人を追及した。だが、村人の反発を受けて興奮したマッグルーダーは、銃をシルックを撃ってしまった。ジェニングスはマッグルーダーから報告を受け、フォレストが生きていると確信した。それは、彼らとって悪夢が現実になることに等しかった……。
クレジットはこちら