パラレルワールドに存在する自分を倒し唯一の最強の存在になろうとする男と
彼に狙われた別の本人自身の戦いを描くSFアクション。

ザ・ワン

( ザ・ワン 特別編 )

THE ONE

2001  アメリカ

87分  カラー



<<解説>>

ジェット・リーが『マトリックス』の続編へのオファーを蹴ってまで出演したといわれる、ハリウッド進出後の主演第3弾となる作品。パラレルワールドという設定のもと、多数存在する自分自身との戦いを描くSFアクションである。「125人のジェット・リー」というコピーが紛らわしいが、ジェット・リーが125役を演じているわけではない。映画がはじまると、すでに残り3人で、そのうちの一人もすぐにやられてしまうので、実質、2人の対決なのである。コピーとのギャップからB級感は否めないが、既にやられている他の122人のうちの何人かが写真で紹介される場面では、それらをジェット・リーが演じているので、全員演じようという意志はあったようだ。
パラレルワールドという設定ではあるが、SFの常識と考え方がだいぶ異なっているので、はじめの方は少し混乱するかもしれない。普通、パラレルワールドと言ったら、「可能性によって無数に存在する宇宙」のことを指す。ここで言う可能性とは、「事象」についてのことなのだが、本作では「人間の性格や社会的立場」についてのことになっている。つまり、どの宇宙でもほとんど同じよう「事象」が起こっているだけど、そこに暮している人間たちの役割が宇宙によって違うという世界観なのだ。最初の宇宙のジェット・リーは囚人なのだが、次の世界のジェット・リーは囚人を護送する立場の警官といった具合である。しかし、ジェット・リーが人間離れして強いことを、「エネルギーの共有と移動」という概念により、効率よく説明しているのは良くしたものだ。
上のような世界観や、125という数字がどこから出てきたものなのか分からないことも含め、SF的にいい加減で強引なところがあるが、結局のところ、ジェット・リーとジェット・リーの一騎打ちを見せたかった映画なのだ。性格の違うジェト・リーの対決というのは、シチュエーション的に悪くないとは思われるものの、物語に力を入れるより、ジェット・リーのアクションを前面に出した作りになっている。必見は、クライマックスの珍しい一人二役の格闘。ただし、どうしても吹き替えで演じなければならない部分が出てくるため、本気のカンフーを期待はせず、あくまで、ジェット・リー対ジェット・リーというファンサービスを楽しみたい場面だ。ファンサービスと言えば、最終決戦の地が工場であるという香港アクションのお約束をやってくれるのも嬉しい。
ちなみに、一人二役を得意とするアクション俳優というと、『ダブル・インパクト』、『マキシマム・リスク』のヴァンダムが思い起こされるが、奇しくも同年に製作された『レプリカント』では、ヴァンダムVSヴァンダムが実現されている。



<<ストーリー>>

宇宙は唯一ではなく、125のパラレルワールドが存在していた。マルチバース(多次元宇宙)のバランスわ保つために、それぞれの宇宙の間を行き来することは禁止されていたが、一人の男がある目的のためにその規則を破っていた。
アメリカの大統領をゴアが務める宇宙。ロスゼルスの刑務所で護送されようとしていた囚人ロウレスが殺された。犯人はロウレスとそっくりの男だった。ロス市警の他に犯人を追う二人組みの男がいた。その二人、ローデッカーとその部下ファンチは、マルチバースを管轄とする犯罪捜査局“MVA”の捜査官で、殺人容疑のかけられているガブリエル・ユーロウを追っていた。ローデッカーたちはワームホールで待ち伏せ、別の宇宙へ逃げようとしていたユーロウを捉えた。
裁判にかけられたユーロウは、別の宇宙にて123人の自分を殺害した罪で有罪となり、デスユニバースにある終身刑コロニーへ送られることとなった。だが、異次元トンネルが開いた瞬間、仲間のマシーが刑の執行を妨害し、ユーロウは脱走した。ローデッカーたちはユーロウを見失うが、彼の行き先はわかっていた。最後の自分が生存している、アメリカの大統領をブッシュが務める宇宙である。
刑務所から囚人を護送しようとしていたたロス市警の警官ケイブは、ユーロウの襲撃を受けた。相手が自分とそっくりなことに驚くまま、胸を銃で撃たれたケイブだったが、防弾チョッキのおかげで無傷で済んだ。家に帰り着いたケイブは、妻のTKの強いすすめで、念のため大学病院で検査を受けることに。だが、ケイブは先ほどの男のことが気にかかり、鏡に映る自分の姿にも警戒していた。
ケイブの不安は的中し、MRIルームにユーロウが現れた。医師たちを次々に殺害するユーロウの姿を防犯カメラを見た同僚たちは、ケイブが血迷ったと思い込んだ。ケイブは、混乱するTKに自分の無実を説明すると、逃げていった、一方、騒動を目撃したローデッカーとファンチは、二手に分かれてユーロウとケイブを追うことにした。血気盛んなファンチは、直ぐにでも凶悪犯ユーロウを殺したかったが、ある理由によりそれは危険な行為だった。殺すのなら、ユーロウとケイブを両方同時に殺さなければならず、ローデッカーがユーロウを殺したときにファンチへ合図を送ることなった。
病院から脱出したケイブは、待ち受けていたファンチに助けられ、ユーロウの正体と彼の目的を知らされた。マルチバースに125人いる自分の分身同士はエネルギーでつながっていた。誰か一人が死ねば、そのエネルギーが他の分身たちに移るという。その事実を知ったユーロウは、自分以外の分身を殺すことですべてのエネルギーを獲得し、全宇宙で唯一の存在になろうとしていたのだ。最近、自分の運動能力が格段に向上していることを意識していたケイブは、ファンチの説明を信じることにした。
ファンチの持つ発信機が点灯した。つまり、ユーロウが死に、ファンチの目の前にいるケイブが宇宙最強の人間になったということである。ファンチはケイブを殺すため、彼に銃を向けた……。



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