画家ロートレックの数奇な半生を描く伝記映画。
赤い風車
MOULIN ROUGE
1952
イギリス
119分
カラー
<<解説>>
ポスターを芸術の域に高め、現代のグラフィック・デザインに多大な影響を与えた後印象派の画家ロートレックの半生を描く。ロートレックの絵からそのまま抜け出したような“ムーラン・ルージュ”と、それとは対照的に不潔な貧民街の様子など、当時のパリの明暗を作品を象徴である赤を中心に鮮烈な色彩で再現されている。また、ロートレックの下宿の部屋に壁に東洋風の絵がかかっている(ロートレックは親交のあったゴッホと同様に日本の絵画からの影響もあったという)などのディーテルにも注目。主演のホセ・ファーラーが下肢に障害のあるロートレックを膝を折り曲げて演じていたという話は有名だ。
キャバレー入り浸り、気心の知れる仲間と語り合うロートレック。しかし、一歩、店の外に出れば、周囲の彼に対する扱いはまるで珍獣。寒々しいくらいに孤独な男をファーラーが憂いを帯びた表情で熱演(父親の伯爵も彼が演じる)。画家としての自信から普段は毅然とふるまっていても、愛する人の前ではコンプレックスのために卑屈になってしまうという、微妙な心理描写が見事だ。障害を持った画家の伝記映画という看板だが、要は、失恋の痛手で恋に臆病になってしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまった人の話。痛々しいほどに不幸なロマンスが丁寧に描かれているので、どうにもモテない人、失恋癖のついている人のカタルシスに触れること間違いなしの作品だ。
ロートレックの伝記映画としては他に『葡萄酒色の人生 ロートレック』(1988)がありるが、本特とは異なる奔放なロートレック像を描いている。原題の同じ『ムーラン・ルージュ』(2001)にもロートレックは登場するが、伝記映画ではない。
<<ストーリー>>
1890年のパリ。キャバレー“ムーラン・ルージュ”で、テーブルクロスに踊り子の絵を描き続ける男がいた。男は画家を志すアンリ・ドゥ・ツールーズで、彼の先祖が収めていた土地の名からロートレックと呼ばれていた。彼は、子供の頃に階段から転落して足を骨折したことにより足の成長が止まってしまった。伯爵である父親から見捨てられたアンリは、由緒ある家を出てバリに移り住み、自活を始めたのだった。店の踊り子からは親しまれてアンリだったが、醜い姿をした彼を本当に愛してくれる女性は一人もいなかった。
ある夜、“ムーラン・ルージュ”から下宿への帰り道で、アンリは通りかかった若い女性マリー・シャルレーから助けを求められた。貧しいマリーは盗みをして警部から追われていたのだ。アンリは警部を追い払い、宿に困っていたマリーを下宿に泊まることも許したのだった。マリーはアンリの足の障害ことは気にせず、気難しいが心の優しい彼に好意を持ったようだった。一度は下宿を出て行ったマリーだったが、すぐに戻ってきて、下宿に居つくようになった。マリーが自分を愛していると信じたアンリも彼女に入れ込んでいった。
ある日、アンリがマリーの肖像画を描いていた時、マリーはモデル料を要求してきた。育ちの違う二人の間には価値観にも違いがあり、しばしば喧嘩となった。それを決定付けたのは、アンリがを誘って高級レストランに出かけたことだった。堅苦しい雰囲気に耐え切れなかったマリーは、アンリに侮辱的なことを言って店を出て行った。夜遅く、マリーは下宿に戻ってきたが、アンリは決して許さず、彼女を部屋に入れなかった。アンリを三つ数えると、下宿を後にしてどこかへ消えていった。
それからアンリの後悔の日々が始まった。部屋に閉じこもったアンリは、絵も描かず、酒ばかり飲んでいた。ある日、アンリの下宿を訪ねてきた母親は、息子が恋に苦悩していることを知ると、マリーを呼び戻すことを強くすすめた。貧民街の酒場を訪ね回ったアンリは、ついにある一軒の店でマリーを発見した。酔い潰れていたマリーはアンリを一瞥すると、恋人のベベールに貢ぐため、金を当てにして付き合っていたことを明かし、「本当は触るのも嫌だった」とまで言った。大きなショックを受けたアンリは呆然としたまま酒場を後にした。下宿に帰ったアンリは、窓を締め切りガスの栓を全開にした。椅子に腰掛け死を待つだけだった……。
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