移民たちの暮す架空の街“円都”を舞台に
歌手を夢見る娼婦とその仲間たちの繰り広げる青春ストーリー。

スワロウテイル

SWALLOWTAIL BUTTERFLY

1996  日本

149分  カラー



<<解説>>

若者にカリスマ的人気を誇る映像作家と岩井俊二と、Jポップを牽引する音楽プロデューサー小林武史がタッグを組んだ新感覚の青春もの。日本円の流通する無国籍の街“円都”を舞台に、そこに暮す若者たちの青春を描いていく。主演を務めたChara、三上博史、江口洋介をはじめ、ミュージシャンや人気俳優など他で揃わない豪華なゲストが話題に。劇中の登場する架空のバンド"YEN TOWN BAND"の主題歌も大ヒットした。
この作品は、テーマやドラマが前提にある普通の映画とは少し違うようだ。実際の製作過程がそのようなものものであったかどうかは定かでないが、まず、音楽というものが全体のイメージとして存在し、その詞の世界を映像として表現した、いわゆるミュージック・ビデオの手段と文法で成り立った作品と言えば、そう間違ってもいないだろう。映画の既成概念に拘らず、独自のアートを追及した作品であるため、芝居がどうとかテーマがどうとかいう観方で楽しむのは難しそうだ。要は、岩井と小林のセンスを好むかどうかにかかってくるのである。センスが合わない人には忌み嫌われる作品だが、ユニークな映画して記憶されてもいい作品だ。
物語の舞台となる“円都”には、娼婦や殺し屋などといった人々が行き交っていて、退廃的な印象を与える。そこから期待されるのは不徳で危険な物語だが、実際は青少年の教育にも優しい健全な物語である。凄惨な描写は不快にならないレベルに抑えられ、登場人物の言動も妙に拍子抜けするほど常識的だったりするのである。本作は、過激な内容で観客の感情を不用意に揺らしたりしない。危険な香りはほのかに漂せる程度であり、あくまで、作品の核となるのは詞的なイメージなのである。このあたりが、普通の映画を観る感覚でいると戸惑ってしまうところなのかもしれない。さらに、積み重ねられるイメージには、Jポップの詞と同じように、受け手が自由に発想できるような曖昧さが残されている。おそらく、観る人によって十人十色の感想が出てきそうだ。
定評のある岩井の映像はさすがで、要所要所で素晴らしい切れ味を見せてくれる。そして、その映像には、詞的で感動的な台詞が添えられることもある。しかし、それら素晴らしいシーンの間を埋めるエピソードは、まるで無邪気なおとぎ話のようだ。聴かせるところは聴かせる、そうでもないところは流す、というように、サビと間奏をうまく使い分けているところは、はやりJポップ的だ。もうひとつ面白いのは、この物語が“円都”という街だけで完結していないところだ。“円都”という街自体が完結した世界観を有しているのは確か。しかし、その一方で、我々が今暮しているのとほとんど変わらない現実世界が存在している。物語の登場人物たちが、その二つの世界を行き来し、夢(あるいは逃避)と現実のバランスを取ろうとしているところは、とてもイマドキと言えるかもしれない。



<<ストーリー>>

母親を亡くした名無しの少女は、移民たちが集まって暮す“円都”の娼婦グリコに拾われ、アゲハと名付けられた。ある夜、アゲハはグリコの客の須藤に襲われたところを、グリコの仲間のアーロウに助けられるが、誤って須藤を殺してしまった。須藤の腹から出てきたカセットテープの中には、一万円札の磁器データが隠されていた。
グリコたちは偽札作りで一儲けし、稼いだ金でライブハウスたちを建てた。グリコは念願歌手デビューを果たし、彼女がボーカルをとるバンドとともに一躍人気者になった。例のテープの元の持ち主である流民リャンキは、グリコと生き別れに兄だった。彼は歌手として活躍するグリコを発見した……。



<<キャスト>>

[ヒオ・フェイホン]
三上博史

[グリコ]
Chara

[アゲハ]
伊藤歩

[リョウ・リャンキ(劉梁魁)]
江口洋介

[マオフウ(猫浮)]
アンディ・ホイ

[ラン(狼朗)]
渡部篤郎

[シェンメイ(春梅)]
山口智子

[レイコ]
大塚寧々

[鈴木野]
桃井かおり

[星野]
洞口依子

[医者]
ミッキー・カーチス

[葛飾組 組長]
渡辺哲

[須藤寛治]
塩見三省

[浅川]
武発史郎

[アーロウ]
シーク・マハメッド・ベイ

[ホァン]
小橋賢児

[ワン]
翁華栄

[ユリコ]
藤井かほり

[デイブ]
ケント・フリック

[金髪男]
ローリー寺西

[本田]
田口トモロヲ

[楠木]
鈴木慶一

[監査官]
山崎一

[亀和田]
北見敏之

[パンク男]
光石研

[ロリータ店長]
酒井敏也

[インタビュアー]
クリス・ペプラー

[藤田]
陰山泰

[ツェン]
顧暁東

[クラブの客]
浅野忠信



<<スタッフ>>

[監督]
岩井俊二

[プロデュース]
河井真也

[ラインプロデューサー]
和田倉和利

[アソシエイト・プロデューサー]
久保田修
前田浩子

[助監督]
桧垣雄二
行定勲
小野寺昭洋
田部宏太郎

[脚本]
岩井俊二

[原作]
岩井俊二

[撮影]
篠田昇

[音楽]
小林武史

[主題歌]
YEN TOWN BAND 「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」

[美術]
種田陽平

[録音]
滝澤修

[照明]
中村裕樹

[編集]
岩井俊二

[CGディレクター]
原田大三郎

[スクリプター]
黒河由美

[特撮]
三沢源太郎