<<ストーリー>>

大学受験に失敗した満男は予備校通をしていた。これから定年まで続くであろう社会での競争を憂う満男が“社会に否定された”寅次郎のことに思いをはせたいた頃、その本人はみちのくを旅していた。寅次郎の乗っていた列車が急ブレーキをかけて停止。線路の上にはサラリーマン風の男が横たわっていたが、間一髪、轢かれずに済んでいた。事故の目撃者ということで警察に同行した寅次郎は、あわや死にかけた無表情で顔色の悪い男のことが心配になり、今晩は彼の面倒を見てやることにした。
男は坂口といった。彼は、行きずりの他人である自分に気にかけ、親切にしてくれた寅次郎にいたく感激した。大企業に勤める彼は、仕事での緊張と疲れのせいで心身症か神経症にかかってしまい、衝動的に自殺を図ったようだった。その晩、宴会で歌い踊り、リラックスした坂口は、すっかり寅次郎になついてしまった。「ふるいつきたくなるようないい女と出会うこと」を生きがいをする“渡世人”へ羨望の目を向けた坂口は、そのまま寅次郎の旅についていくことに。寅次郎から、何処か行きたいところがあるかと尋ねられた坂口は、「ウィーン」と答えた。
“くるまや”に旅行代理店の男が訪ねて来た。まったく心当たりのなかったさくらたちは、旅行代理店の男の目的が、寅次郎がウィーンへ旅行するための手続きだと知ってびっくり。その夜の団欒。さくらたちが寅次郎の海外旅行の件を相談しているところに、本人がひょっこり帰ってきた。寅次郎は、ウィーンへいく羽目になってしまったいきさつを皆に説明するが、ウィーンがどこにあってどんなところかも良く分かっていない様だった。出発は明日だった。さくらたちに煽られて不安になった寅次郎は、旅行を取りやめて、坂口にひとりで言ってもらうことに決めた。
翌日、“くるまや”に坂口が寅次郎を迎えに来た。寅次郎が同行を断ると、坂口はひどく落ち込み、「寅さんもぼくを裏切るんだ」と呟いた。そして、青白い顔をよりいっそう白くし、店を出ていった。坂口がただならぬ様だったので、寅次郎は仕方なく彼の後を追い、タクシーに同乗した。寅次郎は坂口を成田で説得して帰るつもりだった。さくらは寅次郎からの連絡を待ったが、一向にその気配はなかった。翌朝、諏訪家に寅次郎から電話がかかってきた。寅次郎は「説得に失敗した」と告げ、現在、空港にいることをさくらに教えた。その空港とは、オランダのスキポール空港だった。
寅次郎が出発してから四日が経ったが、その間、彼からの連絡はいっさいなかった。さくらたちが寅次郎のことを心配していると、“くるまや”の店先に旅行鞄を携えた男が現れた。男は、ヨーロッパ周遊から帰ってきたばかりの福士という旅行者で、ウィーンの街で出会ったヘンな男から手紙を預かっているのだという。男がさくらに渡したしわくちゃのトイレットペーパーの切れ端には、「さくら心配するな おれは生きている 寅」とヘタクソな字で書かれていた。寅次郎は本当にウィーンに行ってしまったのだ。
ウィーンに着いて以来、寅次郎はホテルに閉じこもりきりだった。だが、あまりに退屈してしまったため、坂口について外に出てみることに。二人がやってきたのは、モーツァルト像の建つブルク公園。坂口は感激して観光を楽しんでいたが、芸術になど興味のない寅次郎はベンチに腰掛けてぼんやり。坂口は自分が無理やり引っ張ってきたことも忘れ、「連れてくるんじゃなかった」と呆れ果てた。一人で美術館に行くことにした坂口は、寅次郎に、そこでじっとしているように言いつけた。だが、寅次郎は、ちょうど通りかかった美人のツアーコンダクターの声につられて、彼女の後についていってしまった。
ツアコンの久美子は、バスの前をうろうろしている寅次郎に気づき、声をかけた。彼が連れとはぐれていることを知った久美子は、とりあえず、バスに乗るようすすめた。久美子は寅次郎を宿泊先のホテルに帰そうとするが、彼はホテルの名前も通りの名前も覚えていない様子だった。困り果てた久美子は、ウィーンで暮らし始めてからずっと世話になっているマダムを頼ることに。マダムとの出会いは、久美子が金に困って炊いた三年前だった。マダムは日本人女性で、亡くなった貿易商の夫の遺産で暮らしていた。久美子にとってマダムは良き相談相手だった……。



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