パリで悪徳警部の罠にはまった中国人警官の孤独な戦いを描く、
リュック・ベッソン製作・脚本、ジェット・リー原案・主演のアクション。
キス・オブ・ザ・ドラゴン
KISS OF THE DRAGON
2001
アメリカ/フランス
98分
カラー
<<解説>>
フランス映画界の奇才リュック・ベッソンとマーシャルアーツ界の風雲児ジェット・リー。二人のカリスマがまさかのコラボレーション。特に日本で熱狂的な人気のある二人だけに、日本の市場をピンポイントで狙いすぎだと勘ぐりたくもなるが、アクション映画としては文句なしの傑作である。
ジェット・リーのハリウッド主演デビューとなった『ロミオ・マスト・ダイ』では、アクションの方向性の問題で、彼本来の魅力が引き出しきれていなかった。しかし、ジェット・リー自ら原案を担当した本作では、キレのある肉体アクションの魅力が存分に発揮されている。アクション監督は『ロミオ…』と同じコリー・ユンだが、アメリカ映画で香港時代に近い形のアクションが再現されたというのは奇跡である。そこには、東洋文化への関心を見せてきたベッソンの力もあったのかもしれない。二人のコラボは成功と言えるだろう。
アクション優先であるため、ストーリーはこの手の作品にありがちな荒さがあるものの、ベッソンらしい味付けがされているのは面白い。ブリジット・フォンダ演じるヒロインに、麻薬中毒で娼婦というヨゴレ役をやさらるところは、『二キータ』を思わせるものがある。また、この手のヒーロー・アクション映画にしては、主人公とヒロインのラブシーンがなく、硬派を貫いているが、こちらはジェット・リーの意向だろう。安心してアクションに集中できる映画に仕上がってる。
主人公が思う存分暴れるためには、その相手にもそれ相応の悪役が必要だ。主人公を陥れる悪徳刑事には、『ニキータ』、『ジャンヌ・ダルク』といったベッソン映画にも出演したチェッキー・カリョ。『ドーベルマン』で強烈な印象を残した警視とほとんど同じキャラだが、本作にも見事にハマっていて、その極悪非道っぷりは拍手もの。凄惨な最期も悪役冥利に尽きるというものだ。
原案を担当したジェット・リーの意向なのかもしれないが、中国人の描き方が相変わらず偏見に満ちている。必要以上に卑下してるようにも見えるが、裏を返せば、西洋社会における東洋人の立場を良く理解しているからこそとも言える。リュウ刑事がリチャードと出会う場面で、中国名が呼びにくいから“ジョニー”というニックネームをつけられるところも、“ジェット”を名乗る李連杰(リー・リンチェイ)の自省だったりするのかも。
パリでカンフーという、西洋と東洋のミスマッチの楽しさもさることながら、アクション映画ファンのツボを心得た演出にはたまらないものがある。鍼を打ち込んで敵を倒す演出は、日本のコミック「北斗の拳」を思わせるし、また、敵の本拠地に乗り込んで強敵を少しずつ倒していくクライマックスは、『死亡遊戯』でブルース・リーの発明した手法だ。既存のアクションのおいしいところを取り入れながら、観客の期待に応えたアクションを惜しげもなく見せてくれるのである。とにかく、カッコいい!
ジェット・リーの最近の活躍を見ていると、その姿は、世界での活躍がこれからというときに死んだブルース・リーとどうしても重なるものがある。彼にはぜひとも長生きしてもらって、ハリウッドのみならず、世界中にマーシャルアーツの金字塔を打ち立ててほしいものだ。
<<ストーリー>>
バリの空港に、北京警察の誇る優秀な刑事リュウが降り立った。リュウはパリ警察のリチャード警部と合同で、中国マフィアのソンの摘発に向った。リュウがソンの入ったホテルのある一室を張り込んでいた時、二人の娼婦がやってきた。ベロニカと呼ばれる娼婦の一人は、スーザンと呼ばれる赤毛の娼婦がトイレに言っている最中に、突然、ソンを刃物で刺した。急いで部屋に飛び込んだリュウは、得意の鍼でベロニカの動きを封じ、ソンを助け起こした。だが、後から部屋に入ってきたリチャードは、ソンとベロニカを両方撃ち殺してしまった。
リチャードにはめられたと気付いたリュウは、監視カメラのビデオの一本を奪い、パリの街の人ごみの中へ消えていった。テープを取り戻そうと躍起になったリチャードは、自分の悪事の隠蔽のため、リュウをソンを殺した凶悪犯に仕立て上げ、中国のタン大使と共に捜査を開始した。リチャードの表向きの顔は優秀な刑事だったが、裏では娼婦の元締めをする極悪人だった。
リュウは、海老せんべい屋を営むおじのタイのもとでかくまってもらうことにした。彼はそこで、店にトイレを借りに来たジェシカという娼婦と出会った。ジェシカは「トイレを貸してくれたや礼をしたい」と言残して、去っていった。リチャードは、孤独な女性を騙して娼婦にしていたが、ジェシカもその一人だった。彼女は、リチャードによって人質同然に娘のイザベルを養護施設に入れられていた。さらに、麻薬を常用させられていたため、彼女はリチャードに従って体を売るほかなかった。
リュウはリチャードの犯罪を訴えるため、証拠のビデオテープをタンに渡すことにした。だが、リュウがタンと接触したその時、リチャードの部下の襲撃を受けた。テープを奪われ、怪我も負ったリュウは、ジェシカの介抱を受けることになった。ジェシカから彼女の身の上話を聞いていたリュウは、彼女がソンの殺された現場にいた娼婦スーザンであることに気付いた。リュウはジェシカにリチャード逮捕の協力を頼んだ。だが、悲惨な経験の中で人を信じられなくなっていたジェシカは返事を濁した……。
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