<<ストーリー>>
初秋。相変わらずの旅暮らしの寅次郎は信州小諸に来ていた。停留所でバス停を待っていた寅次郎は、キクエという名の老婆と知り合った。キクエは、子供たちに東京へ行かれてしまい、夫とも死に別れてしまったという。孤独な身の上に同情を寄せた寅次郎は、キクエの誘いを断れず、奥深い田舎にある彼女の家に泊めてもらうことに。その夜、寅次郎はキクエと酒を飲みながら、彼女を慰めたのだった。
翌朝、キクエの家に美しい女医の原田真知子が訪ねてきた。真知子は何度もキクエの家を訪れては、彼女に病院で検査を受けることをすすめていた。だが、真知子の必死の説得にもかかわらず、キクエは自分の家で死にたいと願い、病院に行くことを拒み続けていた。困り果てた様子の真知子を見た寅次郎は、自分がキクエに付き添うことを申し出た。すると、キクエは真知子に素直に従い、病院へ行くことにした。出発直前前、キクエは見納めになるかもしれない家を名残惜しそうにしばらく目つめていた。
おとなしく病院のベッドについたキクエは、こっそり、寅次郎に耳打ちした。真知子も夫と死に別れて寂しい思いをしているから、慰めてやって欲しい。昨晩、自分にしてくれたように――と。真知子はキクエの付き添いをしてくれた感謝の印に、寅次郎を夕食に誘った。真知子が間借りしている親戚の家に向かう途中、東京から訪ねてきた真知子の姪の由紀と合流した。由紀は早稲田の国文で短歌の勉強をしている大学生だった。寅次郎と真知子は由紀を交えて、愉快な夜を過ごしたのだった。
寅次郎が帰っていった後、真知子はどこなく彼が死んだ夫に似ていることに気づいて、懐かしい気持ちになった。彼女は、登山好きの夫の都合で小諸にやってきたが、病院で自分が必要されているため、帰るチャンスがなかなかつかめないでいた。東京には一人息子を置いたままだった。由紀がわざわざ小諸までやってきたのは、祖母から預かった見合いの話を真知子に知らせるためだった。再婚は東京へ帰る良い機会となるはずだったが、真知子は、「夫は私にとってたった一人の男だもの」などと言って、見合いの話をはぐらかしてしまうのだった。
寅次郎は思うところあり、翌朝、小諸を発った。真知子は、寅次郎が自分に何も告げず入ってしまったことを知ると、つまらなくなった。柴又に帰ってきた寅次郎は、遠慮がちに“くるまや”ののれんをくぐると、迎えてくれたさくらたちに、「大事な話がある」ともったいぶった。だが、さくらたちの予想に反して、その夜、寅次郎は茶の間で皆に話したのは、小諸でかわいそうな老婆を慰めたことだけだった。ただ、寅次郎が早稲田大学への行き方を訪ねたことについては、ひっかかるものがあった。
翌朝、寅次郎は由紀に会うため、都電荒川線のちんちん電車で早稲田大学に出かけた。寅次郎は、ちょうど通りかかったジョギング中の男子学生二人組みに声をかけ、由紀の居場所を尋ねた。だが、早稲田には数万人の学生がいるため、そう簡単には見つかるはずもなかった。二人組みの学生は面倒臭そうにしながらも、学籍簿をあさって国文の由紀を確認した。そして、次の西洋史の授業の行われる講堂に寅次郎を案内した。ところが、寅次郎は待ちくたびれて眠りこけてしまい、目覚めたときには授業が始まっていた。一方その頃、由紀はキャンパスで、先ほどの二人組の一人、露文の尾崎茂と出会っていた。
茂に寅次郎に探されていることを教えられた由紀は、急いで講堂へ。すると、いつもは静かなはずの講堂が笑いに包まれていた。教授の授業を横取りした寅次郎が、馬鹿話で学生たちを盛り上げていたのだ。授業が終わった後、まだ授業があった由紀は、「電話してあげてほしい」と言い、真知子の電話番号を寅次郎に渡してから、彼と別れた。だが、その時、真知子は東京に帰っていた。真知子は久しぶりに息子とあうが、すぐに遊びに出かれられてしまい、寂しい思いをした。そんな娘を見た母の八重子は、再婚問題のことを持ち出した。かつては、医者を目指す娘を誇らしく思っていた八重子。だが、今は、平凡な生活でも子供と一緒に暮らすことにこそ、女の幸せがあると思っていた……。
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