<<ストーリー>>

1978年。ソユーズ試験計画で宇宙飛行士イェーンが飛び立ち、東ドイツが栄光に包まれたその年、ケルナー家にも大きな変化が訪れた。一家の主ローベルトが女性と共に西側に亡命したのだ。残された妻のクリスティアーネはショックで口を利かなくなり、精神病院に収容された。数週間後、退院して子供たちのもとへ帰ってきたクリスティアーネは、社会主義の祖国と結婚。世の理不尽を正すと称し、日々、陳情書をしたためるようになった。
十年後の1989年。イェーンに憧れ宇宙飛行士を目指していたケルナー家の長男アレックスは、テレビ修理の仕事につくようになっていた。姉のアリアーネは夫と離婚した後、娘のポーラを連れてアパートに戻ってきていた。母は相変わらず、社会主義に高い理想を求め続けていた。年頃の男としてエネルギーを持て余していたアレックスは、十月七日、東ドイツ建国四十周年の夜、母には秘密で反体制デモに参加。アレックスがデモ隊の中に気になる女性を見つけたその時、デモ隊と警官隊の間で衝突が起きた。偶然、デモの脇を通りかかったクリスティアーネは、警官に取り押さえられていたアレックスを見て、倒れてしまった。
警官から報せを受けアレックスは病院に向かった。医師の説明では母は心臓発作を起こし、昏睡状態に陥ったのだという。病院でアレックスは、デモで出会ったあの女性と再会した。それは、ソ連から来た看護婦ララで、アレックスは彼女に恋をした。一方、母は眠りつづけた。その間、東ドイツは激変した。国家評議会議長のホーネッカー書記長の退陣。ベルリンの壁の崩壊。国境の消滅。通貨の流通。そのすべてを母は見逃した。
アリアーネは経済の勉強を辞めて、バーガーショップの店員になった。マネージャのライナーと良い仲になり、姉の部屋で一緒に暮らし始めた。家の中は急激に西洋化し、古い家具は廃品として処分され、代わりに西側の家具が運び込まれた。アレックスは病院に通い詰めるうちにララと付き合うようになり、デートを繰り返した。いったんは失業したアレックスだったが、東西統一事業の一環で、衛星アンテナのセールスという新しい仕事にもありつけた。職場では、映画監督を夢見る西側出身のデニス・ドマシュケという友人も出来た。
母が昏睡状態になってから八ヵ月。彼女は突然、目を覚ました。だが、医師は、母の命があと数週間しか持たないとアレックスとアリアーネに先刻した。医師は「ショックは与えないように」と警告したが、東西統一を知らない母にとって、その現実と触れることが大きなショックになることは分かっていた。アレックスは医師を説得し、母を自宅に連れ帰る許可を得た。部屋を母が入院する前の状態に戻し、東ドイツが八ヶ月前と変わらぬ社会主義の国であることを母に信じさせることがアレックスの計画だった。
退院してアパートに帰ってきた母は、ベッドに着くと、十年前振りに父のことを口にした。父がいなくなったことで、抜け殻のようになってしまったことや、自殺も考えたことを、はじめて、アレックスとアリアーネに話したのだ。アレックスは、母に外の変化を悟られないよう、故意にラジオを故障させたり、スーパーで買ってきた西側の商品をわざわざ東側の商品の空き瓶に入れ替えたりした。だが、母が所望するピクルスの空き瓶は見つからなかった。そのうち、母が退屈しのぎにテレビを置いて欲しいと言い出したため、アレックスはさらに頭を痛めるのだった。
旧東マルク紙幣のドイツマルクへの換金の期限が近づいていた。アレックスとアリアーネは、通帳を探していたが見つからなかったため、車を購入するためと嘘をついて、母に在り処を訪ねた。母は金を銀行には預けておらず、ヘソクリをしていたらしいが、どこに隠したか忘れてしまっていた。アレックスは、記憶が混乱していることを気している母を慰めるため、近所の人や教員だった母の生徒たちを集めて誕生日祝いを開くことを提案した。
母の誕生日が近づいた頃、寝室にテレビがやって来た。母に現実を知られないよう、苦肉の策で、デニスの調達してきた古いニュース番組のビデオを見せることしたのだ。誕生祝いには、母を学校から追い出したクラプラト校長も罪滅ぼしのために参加させた。寝室で開かれた母のささやかな誕生祝い最中、近所の住民、校長、ライナー、ララには、東西統一前と変わらぬ生活を送っているよう装わせた。危なげながらも大きなトラブルもなく会は終わるかに見えたが、母が窓の外にビルの壁にコカ・コーラの垂れ幕を見つけてしまった……。



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