<<ストーリー>>

例年ならそろそろ寅次郎が帰ってくる頃。寅次郎の噂をしていた“とらや”に、信州にいる本人から葉書が届いた。寅次郎はこれから新緑の京都の葵祭に向かうという。京都にやってきた寅次郎は、加茂川沿いで、下駄の鼻緒が切れて困っていた老人を助けた。ちびた下駄を履いているその相手の風体を見て、寅次郎は、かわいそうな老人だと一人合点。老人を昼飯に誘うが、実はその人物は人間国宝として名高い陶芸家・加納作次郎だった。
加納は、よくしてもらった礼に、寅次郎を料亭へ案内した。料亭でビールを飲んだ寅次郎は、そのままぐっすり眠ってしまった。翌朝、目を覚ました寅次郎は、枕もとで衣類を整えていた品の良い美人を見た。自分がどこかの宿にいると勘違いした寅次郎は、慌てて部屋を出て行こうとした。だがそこは加納の自宅兼窯元だった。寅次郎が朝に出会った女性は、加納宅で女中をしている未亡人・かがりだった。かがりは丹後半島出身であり、夫を病気で亡くしてから、加納のもとで働いているのだという。
ある日のこと、加納の弟子で東京に住む蒲原が窯元を訪ねてきた。折り入って話のあるという蒲原は、自分のところで働いている長野出身の娘と結婚することを打ち明けた。それだけなら、めでたい話だったが、問題は蒲原とかがりが恋仲であったということ。その夜、加納はかがりを自室に呼びつけ、「後のこと考えずに体ごとぶつかっ行かなきゃいかん。人生にそういう時がある」と、蒲原を引き止めなかった彼女を叱りつけた。
翌朝、失意のかがりは、暇をもらって丹後に帰ってしまった。かがりと入れ替わりに、彼女を訪ねて窯元にやってきた寅次郎は、ことの次第を知ると、失恋したばかりの女性をなぐさめてやらなかった加納をたしなめた。加納も、かがりに対してきつく言い過ぎてしまったこと反省し、旅に出る寅次郎に、丹後に行ってくれるよう頼んだ。そして、いままでの礼の気持ちとして、気に入っていた茶碗を寅次郎に渡したのだった。
加納の頼み通り、寅次郎は丹後に向かい、母親とまだ小さい娘と暮らすかがりを訪ねた。さっそく、慰めのことばをかけようとした寅次郎だったが、かがりは、「すんでしまったことはくよくよ考えない」とし、失恋を割り切ってしまっていた。また、幼少の時に漁師の家にもらわれたというかがりは、「苦労が身について臆病になってしまった」とこれまでの人生を振り返るのだった。
最終の連絡船に乗り損ねた寅次郎は、その夜、かがりの家に泊めてもらうことになった。晩酌の最中、娘を寝かしつけるかがりの後ろ姿に目を留めた寅次郎。我に返ると、慌てて離れにあてがわれた部屋に向かい、床に着いた。すっかり目がさめてしまい眠れなくなった寅次郎の部屋にかがりが入ってきた。寅次郎は寝た振りをした。翌朝、寅次郎は、「もう会えないのね」とさみしそうに言うかがりに後ろ髪を惹かれるようにして、丹後を発ったのだった……。



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