クリスマスが大っ嫌いなグリンチ。
彼はある方法でクリスマスを盗み出そうとする。
アメリカの国民的童話「いじわるグリンチのクリスマス」の映画化。

グリンチ

The GRINCH

2000  アメリカ

104分  カラー



<<解説>>

『マスク』ではCGとの見事な融合を見せたジム・キャリーが、CGを使わず特殊メイクのみでクリーチャーを演じた、ファミリー・ファンタジー。原作は、日本ではほとんど馴染みがないが、アメリカでは57年に発表されて以来、ベストセラーになっているドクター・スースの名作絵本。
みんなにのけ者にされている、いじわるでヘンクツな怪人物が、クリスマスというイベントをきっかけに……という物語。どこの国や世界にもありそうな、ありふれた御伽噺だ(実際、『ナイト・メア・ビフォア・クリスマス』をダブるところが多々ある)。とは言え、ストーリー、世界観共に、正統派のファンタジーとしての完成度は高い。ジム・キャリー演じる“グリンチ”のハチャメチャなキャラに抵抗を感じことなく、また、「クリスマスの意味も分からず浮かれるのはけしからん」などと大人気ないことを言わなければ、大人から子供まで誰でも楽しめ、最後には感動も保証される作品である。
子供と一緒に劇場へ来る大人に向けてか、ギャグが適度にブラックだったり、多少の風刺をきかせているところはソツがない。このあたりの遊び心は、ジム・キャリーの趣味なのかもしれなが、いずれにしても、やはり、この映画はジム・キャリーでもっている。CGを使うのをやめた、というロン・ハワードの判断も偉いし、顔面に最小限のメイクをほどこしただけで表情を覆わなかったリック・ベイカーの仕事も素晴らしい。また、ほとんど生身の“グリンチ”に対し、その周りの世界を思いっきり作り物にしたのも面白い。ベタベタのファンタジーの世界は希にみる完璧さなのだが、そんな世界の中あってジム・キャリーがまったく浮いていないのは堂々としたもの。たしかに、ジム・キャリーはジム・キャリーにしか見えない。実際、彼のオーバーアクトのおかげで、絵本の“グリンチ”の世界観からはズレてしまっているようだが、彼自信のキャラを、“グリンチ”として見せてしまう説得力は、それだけ表現力があるということなのだろう。コメディアンとして後世に名を残すであろう彼を語る上で、重要な作品の一つになることは間違いなさそうだ。



<<ストーリー>>

ひとつの雪の結晶の中の世界の物語――フーヴィルの町の北に、町のゴミ捨て場になっているクランビットの山があった。その雪山でゴミに囲まれて暮らすグリンチは、毛に覆われた緑色の体で、人よりハートが少し小さい奇妙な男。なぜかクリスマスが大嫌いなグリンチは、しばしばフーヴィルに下りてきてはいたずらをするので、町のみんなの嫌われ者になっていた。
もうじきクリスマス。今年は千年祭で、いつも以上に盛大に祝われることになっていた。フーヴィルの町のみんなは浮かれていたが、一人の女の子シンディ・ルー・フーだけは、浮かない顔をしていた。シンディは、みんな買い物のことばかりで、クリスマスの意味を考えない風潮に疑問を持っていたのだ。そんな時、シンディは、郵便局の収集所でクリスマスカードを物色していたグリンチと出くわした。びっくりしたシンディは、収集箱の中に落ちてしまうが、危ないところをグリンチに助けてもらった。その時、シンディは、「グリンチは実は良い人ではないだろうか」と考えた。
シンディは、グリンチがクリスマスが嫌いになった理由を、グリンチの同級生であるメイ・フー市長やマーサ・メイ・フーヴィエに聞いて回った。同級生の話によれば、グリンチはマーサ・メイに恋して、クリスマスにプレゼントを贈ろうとしたが、恋敵のメイ・フーに、毛深いことを指摘されたことを気にして、ヒゲをそろうとしたのだという。パーティの当日、学校にやってきたグリンチの顔は傷だらけ。笑いものにされたグリンチは、ショックを受けて、それ以来、クランビット山に篭ってしまったのだった。
グリンチに同情した心優しいシンディは、クリスマスの王様にグリンチを推薦した。自分が王様になりたいメイ・フーは渋い顔をしたが、町のみんなが賛成したため、シンディは、クランビット山に招待状を届けた。思いがけない招待に、長い間悩んだグリンチだったが、賞品も出るというので、授与式に出席することにした。
クリスマス・イヴのパーティに、ぎりぎり間に合ったグリンチは、町のみんなの大歓迎を受けた。まんざらでもないグリンチは、やけくそで町のみんなと歌い踊った。グリンチがすっかり良い気分になったところで、賞品が授与されることになった。だが、グリンチがメイ・フーから渡されたものは、ヒゲそりだった。嫌な過去を思い出してしまったグリンチ。さらに彼に追い討ちをかけるように、メイ・フーがマーサ・メイに突然のプロポーズをした。グリンチは激怒し、パーティをめちゃくちゃにして、山に帰っていった。それでも怒りの収まらないグリンチは、この世からクリスマスなんかなくなってしまえばいい、などと考えはじめた。そして、「クリスマスを盗む」という恐ろしい名案を思いついたのだった……。



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