<<ストーリー>>

新緑の頃。朝日印刷で刷り上げたポスターを小岩のキャバレーに届に向かった博は、街でクラブ歌手のリリーとばったり出くわした。“とらや”を最後に訪れてから五、六年経っていたが、リリーは相変わらずのどさまわりの暮らしをしているようだった。博に“とらや”に寄るようすすめられたリリーにだったが、これから大阪や九州に行くと言い残し、去っていった。
その夜、“とらや”に久しぶりに寅次郎から電話がかかってきた。今、長州にいるのだという。さくらは昼間、博がリリーと会ったことを寅次郎に知らせた。リリーが自分と会いたがっていた知り、寅次郎は、まんざらでもなさそうだった。だが、新潟へ商売に行くと言い、慌しく電話を切ってしまったのだった。
ひと月後。“とらや”の皆は、従業員慰労として、水元公園へピクニックに出かけようと張り切っていた。ところか、そこへタイミング悪く、寅次郎が帰ってきた。義兄に気を使った博は、ピクニックの計画などはじめからなかったことに。だが、皆がそわそわしているのを見た寅次郎は、自分に隠し事をしていることを見破ってしまった。すっかり拗ねた寅次郎が“とらや”を出ていことしたとき、彼宛に速達が届いた。差出人はリリーだった。リリーは沖縄の那覇までどさまわりの足をのばしたが、歌っている最中に血を吐いて、そのまま入院してしまったのだという。
リリーの危機を知って、寅次郎は血相をかけて“とらや”を飛び出したが、沖縄がどこにあるのかなど考えてもいなかった。結局、さくらに説得させ、いったん“とらや”に戻ることに。だが、沖縄までいちばん早く行くための交通手段が飛行機だと知った寅次郎は、顔色を変えた。寅次郎は大の飛行機嫌いだった。翌朝早く、寅次郎は、さくらと博に連れられ羽田に向かった。それでも往生際悪く、飛行機に乗るのを嫌がって柱にしがみ付いていた寅次郎だったが、スチュワーデスの説得でようやく折れたのだった。
こうして、寅次郎は無事に沖縄へ到着し、那覇の病院にいたリリーを見舞った。華やかな歌手の面影を失っていたリリーだったが、寅次郎が駆けつけてきてくれたことを心から喜び、笑顔を見せた。リリーは、それまでは医者の言う聞かないわがままな患者だったが、寅次郎が来てからというもの、すっかり素直になった。そのおかかげで、快復も順調で、しだいに昔のリリーに戻っていった。寅次郎も、それを励みに商売に身を入れるのだった。
やがて、リリーは退院を許された。寅次郎は地元の家の離れに部屋を借り、リリーと二人で暮し始めた。昼間、寅次郎が出かけた後、リリーは、部屋を貸してくれた国頭家の倅、高志と魚を採りに海へ出た。毎日がゆっくりとながれていった。寅次郎は、まだ完全に快復していないリリーを労わり、リリーもそれに応えるように寅次郎に優しく接した。二人の仲むつまじい姿は、国頭家の娘、富子に、夫婦だと勘違いされるほどだった。
やがて、貯金を使い果たしてしまったリリーは、生活のために仕事を探し始めていた。通院の帰りに、高志に頼んで車でキャバレーを手当たり次第にあたった。だが、不景気の時世のため、リリーの望む給金がもらえる店はなかった。高志はそんなリリーを心配し、寅次郎は結婚する相手として相応しくない、と自分の考えを率直に伝えた……。



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