浮浪生活から足を洗ったチャーリーが警官となり、暴力が支配する街で大活躍。
愛と暴力をテーマにした短編コメディ。

チャップリンの
勇敢

( 勇敢 )

EASY STREET

1917  アメリカ

29分  モノクロ   サイレント



<<解説>>

ミューチュアル時代には、後年の作品の基礎となる、哀愁や人情を表現した作品がちらほらと作られはじめている。本作もそんな作品の一つ。物語は、浮浪者のチャーリーが人生の再出発を決意するところから始まる。「チャーリーの会心」というギャグなのかと思いきや、本当に改心して警官になってしまうのである。このことが示しているとおり、今回は、人情といったテーマがこれまでになく明確になっているようだ。また、愛が暴力に打ち克っていくという、物語のあまりのストレートさが、少し異色な印象を受ける作品でもある。
人情に対抗するものとして、暴力が徹底して描かれる。キャンベル扮する大男が中心となり、よってたかって、警官を袋叩き。もはや暴動である。もちろん、戯画化されているが、かなり過激な内容だ。麻薬中毒者の登場(麻薬からむギャグは後の『モダン・タイムス』でリメイクされる)など、チャップリン映画らしからぬ陰惨な場面もあり、ギャング映画でも見ているようでもある。しかし、絶対的な愛を描くためには、笑いを抑えてまで、暴力を描くのは必要で、このことは、後の『独裁者』へ通じるものがあるのかもしれない。
街とアパートという空間をフルに使ったドタバタは超必見。一階から二階、アパートの窓から外、マンホールから地下室、といったように、チャーリーとキャンベルが野次馬を巻き込みながら、縦横無尽に駆け巡る。似たようなドタバタは他の作品にも見られるが、本作は、カット割と場面転換が特に緻密に構成されていて、これまで以上に三次元的な広がりが感じられるものになっている。さらに、クライマックスでは、チャップリン流のドタバタとは一線を画す格闘アクションを披露。その姿は、現在のチャップリンと評されるジャッキー・チェンそのものである。



<<ストーリー>>

放浪生活をしているチャーリーは、ある日、伝導会の建物を見つけ、中に入ってみた。一通りの説教が終り、皆が出て行った後、チャーリーは出来心で寄付金の入った箱に手をつけてしまった。だが、伝導会で働く美しい女性エドナに見つめられ、改心。人生をやり直す決意を固めた。
イージー街は、ボスである大男ビッグ・エリックを中心とした乱暴者がはびこり、警察も恐れるスラムとなっていた。街へいった警官は、乱暴者に身包み剥がされた上に、半殺しにされた。そのため、警察は常に警官が不足していた。警察の前を通りかかったチャーリーは、警官募集の張り紙を見て迷ったが、意を決して志願した。
イージー街にやってきたチャーリーは、さっそく、ビッグ・エリックと出くわし、恐怖に戦いた。警察に救援を呼ぼうと、街灯の電話器に手を伸ばすが、エリックは怪力で街灯を曲げてしまった。チャーリーが警棒で殴りかかっても、エリックにはまったく通用しなかった。もはやこれまでと思ったが、チャーリーはエリックの隙をついて飛び掛った。そして、ちょうど曲げられて頭の位置までに来ていた街灯のガスをエリックに嗅がせた。みるみるエリックは大人しくなった。
エリックが連絡を受けた警官たちに連行されて行った後、チャーリーは、エリック夫人の万引きをしてるのを発見。だが、人の良いチャーリーは、夫人を咎めるどころか、涙にほだされて、万引きの手伝いまでする始末。そこへ、先日のエドナが通りかかった。彼女は、チャーリーの警官姿を見て、彼が更生をしたことを知った。感激したエドナは、チャーリーと一緒に、イージー街の貧しい家庭の救済に向かった。一方、警察では、ガスの効果が切れて目を覚ましたビッグ・エリックが大暴れしていた……。



<<キャスト>>

[落後者]
チャールズ・チャップリン

[伝導者]
エドナ・パーヴィアンス

[乱暴者]
エリック・キャンベル

シャーロット・ミノウ
アルバート・オースティン
ジョン・ランド
フランク・J・コールマン
ジャネット・ミラー・サリー
ジェイムズ・T・ケリー



<<スタッフ>>

[脚本/監督]
チャールズ・チャップリン

[撮影]
ロリー・トザロー (ローランド・トザロー)



<<プロダクション>>

[製作]
ミューチュアル・フィルム