アメリカへ向かう移民船の中、チャーリーが金を盗まれた母娘を助ける。
貧しさの中の人情を描いた短編コメディ。

チャップリンの
移民

THE IMMIGRANT

1917  アメリカ

32分  モノクロ   サイレント



<<解説>>

アメリカへの移民を題材にした作品。イギリスから渡ってきたチャップリン自身の思い出が反映されているのかもしれず、当時の移民から見たアメリカの姿が興味深い。前半は、移民船でのチャーリーとエドナの出会いが描かれ、後半は、上陸後、街のレストランで二人が再開する場面が描かれる。同時期の他の作品よりドタバタは抑えられ、その分、人情喜劇やロマンス的要素が出ている。
移民船の場面の撮影は実際の船の上で行なわれている。ただでさえかなり揺れているようだが、さらにカメラの水平をかたむけることで、激しい揺れを表現。『船乗り生活』でも試みられた手法だ。画面がぐらぐらと揺れまくるので、乗り物酔い体質の人は注意。賭けに講じる場面では、銃で人を脅すというチャーリーにしては珍しい場面がある。しかし、それが、困っている母娘に金を渡す場面を際立たせることになった。チャーリーの情けある行動は、後の作品では珍しくもない場面だが、当時はまだ、チャップリンにも照れがあったのか、全を出し惜しみ、結局、少ししか挙げられない(スリに間違えられるためのフリでもあるが)ところが面白い。
船がアメリカに到着し、自由の女神が見えてくる場面が感動的。しかし、そこを境にして雰囲気が一変。入国管理の役人たちが船に上がり込んできて、移民たちを乱暴に扱う様は、自由の国アメリカの理想と現実を表しているようだ。また、レストランの場面で、勘定を払えない客に対する店員の過剰な暴力からも、夢を打ち砕かれた無常さが伝えられる。しかし、アメリカ社会に対する皮肉だけでは終わらず、厳しい現実の中での小さな希望を表現した結末は清々しい。



<<ストーリー>>

大西洋を行く移民船。荒波の中での長い航海が銃き、乗客は皆、疲労と船酔いでぐったり。チャーリーも船酔いに苦しんでいるのかと思いきや、暢気に魚釣りを楽しんでいた。やがて、お待ちかねの食事の時刻。皆より一足早く食事を終えたチャーリーは、満席で困っていた娘エドナに席を譲ってあげるのだった。
食後、チャーリーは男たちとサイコロに講じていた。親のチャーリーは総取りで大儲けするが、それが気に食わないひとり一人の男が大暴れ。男は、デッキで眠っていたエドナの母から金を盗み、それを再び賭けにつぎ込んだ。だが、何度やってもチャーリーの勝ち。チャーリーは短銃をちらつかせて男を制し、儲けた金を回収した。一方、食事を終えたエドナは、母の財布の金がなくなっていることに気付いた。
銭勘定していたチャーリーは、隣りに座っているエドナとその母に気付いた。悲観に暮れていたエドナは、事情をチャーリーに話した。気の毒に思ったチャーリーは、こっそり、エドナのポケットに儲けた金をしのばせた。チャーリーは、その様子を見ていた船員にスリと勘違いされ捕まるが、すぐに誤解が晴れ、エドナに感謝されるのだった。
やがて、船は自由の国アメリカに到着。だが、入国の際に、チャーリーはエドナと離れ離れに。それから時がたち、金をすべて使い果たしてしまったチャーリーは、文無しで街をフラついていた。レストランの前で一枚の硬貨を拾ったチャーリーは、幸いにも食事にありつけることに。そして、店に入ったチャーリーは、そこで偶然にもエドナと再開した……。



<<キャスト>>

[移民者]
チャーリー・チャップリン (チャールズ・チャップリン)
エドナ・パーヴィアンス

[給仕長]
エリック・キャンベル

[レストランの客]
アルバート・オースティン

[芸術家]
ヘンリー・バーグマン

スタンリー・サンフォード
ジェイムズ・T・ケリー
ジョン・ランド
フランク・J・コールマン



<<スタッフ>>

[脚本/監督]
チャールズ・チャップリン

[撮影]
ロリー・トザロー (ローランド・トザロー)



<<プロダクション>>

[製作]
ミューチュアル・フィルム