東京でフリーターをする息子と、田舎に暮す年老いた父親の関係を描く感動作。

息子

1991  日本

121分  カラー



<<解説>>

市井の人々の生活や問題を鋭く、しかし、あたたかい眼差しで描くことを得意とする山田監督が、椎名誠の小説「倉庫作業員」(短編集「ハマボウフウの花や風」所載)をモチーフとし、親子の物語として映画化した作品。田舎の過疎化の問題と、都会のフリーターの問題を取り上げ、現代によくある親子関係を描いていく。スタッフは、「男はつらいよ」シリーズなどでおなじみのメンバー。キャストは実力ある俳優を贅沢な揃えているが、主人公の若者とその恋人を演じた永瀬と和久井など、若手の好演が光っている。
定職にもつかない根無し草の次男を悲観する父。次男も父に期待をかけられていないと知り、父と距離を置いてしまう。意識せずに深まる確執。だが、父は上京したときに、次男が真面目に暮しているのを確認する……。父親が上京しくるくだりは、小津安二郎の名作『東京物語』が思い起こされるが、そこに描かれているのは完全に現代の物語。“フリーター”である次男を色眼鏡で見ていた父が、息子と向かい合うことにより、信頼関係で結ばれていく様が感動的だ。
本作では、家族の問題を解決するヒントとし、コミュニケーションの重要性が示唆される。FAXや手話などの登場が象徴的だ。昨今も、家族の間で会話が減っていることが社会問題とされているが、だからと言って、おしゃべりであれば良いというのではない。その反証として、説明的な言葉を少なめにし、あくまで日常的な台詞のみで、親子の和解を導いてみせる。親子のかすがいとなった息子の恋人が、言葉をしゃべれないというのも、家族というのが本来、言葉の要らない関係であることを暗示しているようだ。



<<ストーリー>>

岩手出身の青年・浅間哲夫は、数年前に上京したものの職を失い、今はアルバイトで生活をしていた。ある日、哲夫は、母の一周忌の法事に出るため、故郷の岩手に呼び戻された。浅間家の年老いた父・昭男は、東京で堅実にサラリーマンをしている長男・忠司には満足していたが、定職にも就こうとしない次男の哲夫には何の期待もかけていないのだった。
東京へ帰った哲夫は、新たに鉄工所でバイトを始めた。重い金属を運ぶ仕事は辛かったが、運送先の倉庫で働く若い女性に恋をしたため、懸命に働いた。哲夫は、征子というその女性に思いを伝えたかったが、彼女はあまりにも無口だった。そこで、哲夫は征子に想いをつづった手紙を渡すが、数日後、征子の同僚の女性から、征子が聾唖であることを知らされた。事実を告げた時の女性の態度が気に入らなかった哲夫は、腹を立てて周囲の人に当り散らした。そんなある日、戦友会に出席するために昭男が上京してきて……。



<<キャスト>>

[浅野昭男]
三國連太郎

[浅野哲夫]
永瀬正敏

[川島征子]
和久井映見

[浅野玲子]
原田美枝子

[浅野忠司]
田中隆三

[とし子]
浅田美代子

[徹]
山口良一

[哲夫の叔母・綾子]
浅利香津代

[哲夫の叔父・守]
ケーシー高峰

[おっさん]
いかりや長介

[主任]
佐藤B作

[きぬ江]
音無美紀子

[昭男の隣人]
奈良岡朋子

[田舎の老人]
浜村純

[女事務員]
中村メイコ

[昭男の戦友・寺尾]
松村達雄

[三沢]
梅津栄

[社長]
レオナルド熊

[バイト先の板長]
中本賢

[哲夫の隣人]
小倉一郎

[昭男の戦友・藤田]
村田正雄

[タキさん]
田中邦衛



<<スタッフ>>

[監督]
山田洋次

[製作総指揮]
大谷信義

[プロデューサー]
中川滋弘
深澤宏

[助監督]
五十嵐敬司

[脚本]
山田洋次
朝間義隆

[原作]
椎名誠 「倉庫作業員」

[撮影]
高羽哲夫

[音楽]
松村禎三

[美術]
出川三男

[録音]
鈴木功

[調音]
松本隆司

[照明]
青木好文

[編集]
石井巌

[スチール]
金田正



<<プロダクション>>

[製作]
松竹