海で溺れている令嬢とその母親を助けた脱獄囚。
彼は令嬢の家で歓迎を受けるが、運悪く令嬢の父親は自分を裁いた判事だった。
チャップリンの
冒険
THE ADVENTURER
1917
アメリカ
29分
モノクロ
サイレント
<<解説>>
起承転結がはっきりしたドタバタを描くようになり、安定した面白さを見せたミューチュアル時代の最後の作品。この作品では、いつもの山高帽のチャーリーは見られず、縞模様の囚人服で登場。通常は終盤から追いかけっこが始まるものだが、本作では登場からすでに追いかけられているのが面白い。海岸でロケを敢行し、崖や砂浜という広い空間を使って、追いかけっこをしているのも新鮮だ。
起承転結の“承”に当たる、チャーリーが令嬢と母親を救出するくだりでは、令嬢の運転手の役で、チャップリンの運転手で後に彼の秘書となる日本人・高野虎市氏が出演。チョイ役ではあるが、溺れたチャーリーを海から救い上げるなど、チャップリンと積極的に絡んでいる。
“転”に当たる、パーティの場面では、チャーリーはパリっとした礼服姿で登場。普段のチャップリンを思わせるなかなかの男前だ。ここではまだ脱獄囚であることに気付かれていないので、チャーリーは故意に騒動を起こしたりしない。いかにして危機を乗り越えるかがギャグになっている。お尋ねものの記事の顔写真に鬚を描き加え、キャンベルに「あんた鬚剃ったほうがいいよ」と言うなど、理知的なギャグが珍しい。
結局、正体がバレたチャーリーは看守から追いかけられるはめに。一階と二階の間をめまぐるしく行き来するチャーリー。冒頭の広い範囲での追いかけっこと違い、今度は、邸の中という限定された空間でドタバタが繰り広げられる。邸は東洋風の造りになっているため、チャーリーが傘を被って照明に化けたり、追っ手を引戸に挟み込んでやり過ごすなど、家具調度を活用したギャグが楽しめる。
<<ストーリー>>
ある朝。刑務所を脱獄した囚人のチャーリーが、看守たちに追われて海岸を逃げ回っていた。ついに、看守たちに追い込まれ、袋の鼠となったチャーリー。彼は背後の海に飛び込み泳ぎ去った。
近くの海水浴場では、若い娘が、荒々しい鬚を蓄えた許婚に迫られ、嫌な顔をしていた。と、その時、娘は、母が海に落ちて溺れていることに気付いた。無我夢中で海に飛び込む娘。それに続いて許婚も飛び込むが、母共々溺れてしまった。その騒動を、海水浴場に泳ぎ着いたチャーリーが発見。三人を放っておけないチャーリーは、娘、母、許婚の順番で救い出し、彼らの運転手のもとへ運んだ。だが、自分だけぞんざいに扱われた許婚が怒りを出し、チャーリーは海に突き落されてしまった。チャーリーはそのまま気を失った。
娘の家のベッドで目を覚ましたチャーリーは、着ていたパジャマの縞模様を見て、刑務所に逆戻りしたのかと思った。だが、客間に執事が入ってきたの見て、状況を飲み込んだ。チャーリーは命の恩人として、お金持ちである娘の邸に招待されていたのだ。礼服に着替えさせられたチャーリーは、自分を歓待するパーティに出席することに。チャーリーが娘たちからチヤホヤされるのを見て、面白くなくなった許婚は、新聞に目を落とした。すると、そこには刑務所から逃げたお尋ね者の記事が。記事の写真はチャーリーそのものだった。
娘から紹介された彼女の父を見て、チャーリーは驚いた。それは自分を裁いたブラウン判事だった。「どこかで会った気がする」と言う判事に、焦るチャーリー。さらに、許婚が新聞の記事のことを判事に告げ口したため、チャーリーは絶対絶命に……。
<<キャスト>>
[囚人]
チャールズ・チャップリン
[娘]
エドナ・パーヴィアンス
[許婚]
エリック・キャンベル
[父]
ヘンリー・バーグマン
[執事]
アルバート・オースティン
[看守]
フランク・J・コールマン
[運転手]
コーノ
(高野虎市)
<<スタッフ>>
[脚本/監督]
チャールズ・チャップリン
[撮影]
ロリー・トザロー
(ローランド・トザロー)
<<プロダクション>>
[提供]
ミューチュアル・フィルム