父の死をきっかけに青年は生き別れた自閉症の兄と出会った。
長い旅を通して兄弟の心の交流を描くヒューマン・ドラマ。

レインマン

RAIN MAN

1988  アメリカ

133分  カラー



<<解説>>

これまで一人で生きてきた青年が、その存在を知らされていなかった自閉症の兄と再会。青年は、兄が相続した父の遺産を狙い、彼を施設から無理矢理連れ出すが……。重度の自閉症のため、コミュニケーションをとることが難しい兄との旅を通し、青年が兄弟の絆や、忘れていた家族への愛情を過程をロード・ムービー形式で描く。ベテランのダスティン・ホフマンと若手スターのトム・クルーズの競演作。
トム扮する弟は、急いでロスに帰ろうとしているはずだった。ところが、兄との旅は、妙にのんびりしたような印象を受ける。弟は、はじめは兄をやっかい者扱いし、疎ましく思っていたが、しだいにその心境が変化する。焦らず、辛抱強く、兄の相手になろうと努力をするのだ。それは、しても時間が掛かること。しかし、レイモンドとの心の距離は、ゆっくりと、確実に近づいていく。“レインマン”というキーワードが、兄弟の心をつなげるきっかけにはなるが、変化が劇的には訪れないところが本作の優れたところ。あくまで、小さなエピソードの積み重ねによって、心の交流を果たしているのである。主演二人の演技も素晴らしいが、この旅ののんびり具合が、とても心地良い作品になっている。
自閉症の兄を演じたホフマンの芝居の達者ぶりは、言わずもがなだ。しかし、彼のインパクトのおかげで影に隠れてしまっている、トムの演技も評価に値する。そもそも、物語の事実上の主人公である弟の芝居がしっかりしてこそのドラマなのである。トムの演じた弟のキャラクターは、ヒューマン・ドラマにありがちな聖人として描かれていない。弟は身勝手で軟派な青年であり、それは物語を通して変わることはない。しばしば大人の批判の対象となる若者の典型であるため、人によっては感情移入は難しいが、白々しさがあまりない人物設定は、むしろ物語に説得力を与えている。物事に対して常にクールで格好良くありたい弟は、兄を心から受け入れたいと思いながらも、チラチラと照れを見せてしまう。兄弟の距離は確実に縮んではいるものの、どこか一方通行で、すれ違っている感じを受けるのもそのせいだろう。それが、顕著にあられているのは、ベガスでの兄弟のダンスのぎこちなさや、旅の終りに弟がサングラスで表情を隠そうとする場面だ。また、それ以前に、噛み合っているのかいないのかいまいち分からない二人の芝居にも良くあらわれている。兄と弟の交流を主としながらも、その後ろで弟の心の葛藤を描いた物語は、その結末もまた、現実的なものとにっている。結局、この旅が二人にとってかけがえの無いものだったことに気付かされるラストは、理想と現実のジレンマが切なく胸に迫るものとなっている。



<<ストーリー>>

ロスで高級車ディーラをする青年チャーリー・バビッドのもとに、自分を勘当した父親の訃報が届いた。父親の愛情を受けずに育った少年時代のチャーリーの心の支えは、想像で作り出した“レインマン”が歌ってくれる歌だった。
チャーリーは恋人のスザンナと一緒に故郷シンシナシティに向かい、葬儀に出席した。だが、父親の管財人から、遺産の300万ドルが、自分ではなく、別のある人物に相続されたことを知らさせ、愕然した。納得の行かないチャーリーは、遺産の相続人が暮しているという施設に向かった。医師のブルーナーは相続人と会うことを拒否するが、偶然、その人物と会うことに。それは、今までその存在を知らされていなかった兄レイモンドだった。
重度の自閉症を持つレイモンドは、施設での定式化された生活以外を送ることが困難だった。だが、チャーリーは、レイモンドを誘拐同然に施設から連れ出してしてしまった。スザンナは、チャーリーの目的が遺産を自分のものにすることだと知ると、彼のもとから去っていった。結局、チャーリーは一人でレイモンドの世話をしながら、ロスを目指すことに。
チャーリーは飛行機でロスに向かうつもりだったが、墜落を恐れるレイモンドが暴れたため、仕方なく自動車を使うことに。だが、まともなコミュニケーションのとれないレイモンドの世話をするのは、骨の折れることであり、チャーリーは何度も投げ出したくなるのだった……。



<<キャスト>>

[レイモンド・バビット]
ダスティン・ホフマン

[チャーリー・バビット]
トム・クルーズ

[スザンナ]
ヴァレリア・ゴリノ

[ブルーナー医師]
ジェリ・モーレン

[ジョン・モーニー]
ジャック・マードック

[ヴァーン]
マイケル・D・ロバーツ

[レニー]
ラルフ・シーモア

[アイリス]
ルシンダ・ジェニー

[サリー・ディッブス]
ボニー・ハント

[スモール・タウンの医師]
キム・ロビラード

[ファーム・ハウスの母親]
ベス・グラント



<<スタッフ>>

[監督]
バリー・レヴィンソン

[製作]
マーク・ジョンソン

[製作総指揮]
ピーター・グーバー
ジョン・ピーターズ

[原案]
バリー・モロー

[脚本]
バリー・モロー
ロナルド・バス

[撮影]
ジョン・シール

[音楽]
ハンス・ジマー

[美術]
アイタ・ランダム

[装飾]
ウィリアム・A・エリオット

[装置]
リンダ・デセナ

[編集]
ステュー・リンダー

[衣装デザイン]
バーニー・ポラック

[キャスティング]
ルイス・ディジャイモ