南極の氷の中から蘇った宇宙生命体と観測隊員たちの死闘を描くSFホラー。
遊星からの物体X
JOHN CARPENTER'S
THE THING
1982
アメリカ
109分
カラー
<<解説>>
「ハロウィン」シリーズなどで知られるホラーの帝王ジョン・カーペンターが、51年に製作された『遊星よりの物体X』をリメイク。原作は、アメリカSFの父ジョン・W・キャンベル・ジュニアの「影が行く」。極寒の南極を舞台とし、観測隊員たちが謎の「生きもの(the thing)」に侵食されていく恐怖と、彼らの疑心暗鬼をサスペンス・タッチで描いていく。
オリジナルの『遊星よりの物体X』は、カーペンターが映画監督を志すきっかけとなった作品だけあって、その気合の入れようはハンパではない。何より目を引くのはクリーチャーの造型だ。犬の頭がバナナの皮のようにメリっと剥けて、無数の触手で近くの犬襲いかかかるという有名なシーンをはじめ、血肉のしたたる凶暴な描写の連続。その突き抜けたグロテスクさとダイナミックなさは、エイリアン/モンスター系ホラーとして、他の追随を許さないインパクトである。エイリアンの設定が「同化した生物に変身することができる」というものであるため、クリーチャーのデザインも同化した生物の面影を残したものになっている。いかにも“怪物”といったデザインでなく、人間が変形したものであるところが余計に禍々しく、生理的にイヤな感じさせていくれる。クリーチャーだけでなく、黒焦げ死体の造型も妙に精巧に作られているところにも注目したい。火事場から身元不明の遺体を借りてきたのでは、などと勘ぐりたくなるよう生々しさだ。それらのCGでは出せない“半生感”が、オンタイムで観た子供たちにトラウマを植え付けることになった。
スプラッター色の強いハード・ホラーと見られがちだが、ミステリーや心理劇としての評価も高い。南極という外界と隔たれた密室の絶望感や、人間の猜疑心を巧みに取り入れたドラマは手に汗握るものがある。隊員たちが「生きもの」を倒すために共闘するのではなく、生き残るために互いを出し抜き傷つけ合う様は、共感を呼ぶだけのリアリティがある分、迫り来る「生きもの」の存在よりも恐ろしくもある。ラストも、すべてを決着させるのではなく、むしろ、これから“本当の人間ドラマ”の始まりを予感させるとろこが味わい深い。後の「エスケープ」シリーズでもそうだが、観客の心にひっかかりを残すのが、カーペンターは妙に上手く、これこそ彼が荒唐無稽と揶揄されながらも、多くのファンから支持を得ている理由かもしれない。
本作はカーペンター渾身の作品にもかかわらず、興行的にはコケて、一時は監督生命も危ぶまれたという。だが、時を経た現在の冷静な評価としては、メジャーなSFホラーの名作『エイリアン』に対する“裏の名作”に位置付けることも可能かもしれない。ちなみに、カーペンターは本作を、後に製作された『パラダイム』、『マウス・オブ・マッドネス』と合わせて“黙示録三部作”と呼んでいる。
<<ストーリー>>
1982冬の南極。アメリカ観測隊第4基地に一機のヘリが飛来してきた。ヘリを操縦するのはノルウェーの観測隊員で、その男は氷原を走る一匹の犬をライフルで仕留めようとしていた。着陸したヘリから降りて来た男は、様子を見に来たアメリカの観測隊員たちにノルウェー語で何事かを喚き散らしながら銃を乱射。隊員の一人ベニングスが足を撃たれたため、基地内で騒ぎを見守っていた隊長ゲーリーが男を射殺した。男に追いまわされていた犬は基地に引き取られた。隊員たちは、なぜ男が犬を殺そうとしていたのかまったく分からなかった。
今回の騒動を他の基地に報せようとしたものの、なぜか無線はかれこれ二週間も音信不通だった。向こうで何かが起こっていることを察したヘリ操縦士のマクレディは、医師のコッパーと共にノルウェーの基地へ向かった。そこで二人が見たものは、何かを掘り起こしたと思われる氷塊と、人間とも獣ともつかない生物の焼死体だった。マクレディとコッパーは生物の死体を基地に持ち帰り、ブレア医師によりその正体の調査が始められた。その頃、例の犬が檻の中で異様な姿に変身し、長い触手で他の犬に襲い掛かった。犬の檻の異変に気付いたマクレディは飼育係のクラークと共に、火焔放射器で生物を焼き払った。
ブレア医師による死体の解剖の結果、その謎の「生きもの」は、他の生物を吸収することでその生物そっくりに姿を変える性質を持っていることが判明した。一方、マクレディたちは、ノルウェーの基地から持ち帰ったビデオから、ノルウェー隊たちが「生きもの」を掘り出した地点を突き止めた。現地を確認に向かうと、そこには巨大な宇宙船が地表に姿を見せていた。十万年前にUFOが地球に墜落し、それに乗っていた「生きもの」が冬眠状態のまま生き長らえていたらしい。「生きもの」は人間たちに同化していき、ノルウェー隊を全滅させたのだ。このまま「生きもの」を放っておけば、アメリカ隊も同じ運命となっただろう。そして、もし「生きもの」が南極から出て行けば、恐るべき勢いで増殖し、2万7千時間後には全世界が同化されたはずだ。
だが、「生きもの」は滅びていなかった。死体からしたたる血液に生命が保たれていたのだ。次の犠牲者はベニングスだった。ウインドウスは、「生きもの」触手にまとわりつかれたベニングスを発見。報せを受けて駆けつけたマクレディたちは、基地の外に飛び出していく「生きもの」を追った。そして、ベニングスに変身しようとする「生きもの」をためらいなく焼き払った。その頃、ブレアは、誰もが「生きもの」に同化されている可能性に気付き、パニックに陥っていた。マクレディたちたは、大暴れするブレアを取り押さえ、倉庫に閉じ込めた。その時、なぜかヘリが破壊されていて、マクレディたちがここから脱出する手段は失われてしまった。
混乱に陥ったのはブレアだけでない。今や隊員全員が互いを疑い始めていた。マクレディたちは、「生きもの」に同化されているのが誰であるかを明らかにするため、血清テストを行なうことを決意した。だが、輸血用の血液を取りに行くと、保管庫が荒らされ、血液が床に撒き散らされていた。保管庫の鍵を盗んだのは犯人は誰か? 隊員たちは口論になり、ついにウインドウスが刃物を取り出した。ウインドウズはゲーリーに銃を突きつけられると、すぐに大人しくなったが、このことがきっかけで隊員たちの結束が完全に崩れた……。
クレジットはこちら