パソコン通信を通じて出会った男女の恋を描く新時代のラブ・ストーリー。
(ハル)
1996
日本
118分
カラー
<<解説>>
映画が始まるとタイトル登場と共に鳴り響く、ダイヤルアップの起動音。ナローバンドのころからパソコン通信(もしくはネット)をはじめた人にとっては、胸がキュンとなる音だ。映画の内容も、当時のメールやチャット事情を知る人にとって、胸キュンの内容となっている。公開されたのは、現在と比べたらネットがまだまだ不便だった時代である。メールを介した恋愛を描いた本作は、結果的には時代を先取りしたことになるが、実は、ネットが不便だったこそ、理想が描けたといっても良いのかもしれない。メールというコミュニケーション・ツールが電話を追い越してしまった今では、古き良き時代のファンタジーとして観ることが出来きそうだ。
主人公は、恋人に死なれたOL“ほし”(深津)と、現実の恋愛がどうもうまくいかない会社員“ハル”(内野)。この孤独な二人が慰めを求めて、パソコン通信のフォーラム(会議室)に参加したことから物語が始まる。二人は、相手の顔の見えないメールだから、気軽に心のうちを話していく。しだいに、互いの悩みを二人で解決していくような仲になるが、二人は相手の顔を知らない。やがて、二人が一瞬だけ出会うシーンは、最高の盛り上がりを見せる。しかし、本作の肝は、その後の衝撃的な展開。あえて、“ほし”どころか、観客までも白けさせる展開にすることで、“メールのやり取りをすること”と“直接で会うこと”の間にある本質的な距離感の違いを上手く教えているところが秀逸だ。
本作でいちばん目を引くのは、大胆な字幕処理だろう。劇中でチャットやメールが紹介されるのだが、モノローグを用いるのではなく、打ち込まれたテキストをコンピュータ・ディスプレイを模したスクリーンに表示するという、書簡体小説を思わせる実験が行なわれているのである。物語の大部分をチャットやメールのやり取りで占められているので、映画を観るというより、読む作業が多くなってくる。従って、俳優が登場したりセリフを喋るシーンが通常の映画と比べて極端に少なっているので、非常に静かで淡々とした映画になっている。単調な作品を好むかどうかで、評価が別れそうな異色作だが、この独特の雰囲気(覚えたての顔文字を連発するシーンとか)にハマれば、クセになって何度も繰り返して観たくなる不思議な魅力のある作品だ。
<<ストーリー>>
過去に恋人を亡くして以来、思い出を消したいと願っているOL、藤間美津江。(ほし)というハンドル・ネームでパソコン通信をしている彼女は、あるフォーラムで(ハル)という男と出会い、それをきっかけにメールの交換が始まった。それから直ぐに、(ほし)と(ハル)は、互いの生活のことや、恋人のことをなんでも打ち明けるようになっていった。
その頃、(ほし)は昔の友人からのつきまといに悩んでいた。そのうちにつきまといは収まったが、別の悩みが持ち上がってきた。職場で知り合った山上という男から結婚をせられたのだ。山上も恋人を亡くした過去があり、彼に共感を寄せたが、愛のない結婚であることは分かっていた。一方、(ハル)は現在の恋人と別れ、別のフォーラムで知り合った(ローズ)という女性と付き合うようになっていた。(ほし)は(ハル)の反対で、山上の申し出を断わった。(ハル)も(ローズ)と本気になれなれず、彼女が別の男と結婚するこになったのを期に別れたのだった。
そんな時、(ハル)が出張で(ほし)の住む盛岡を新幹線で通りかかることになった。(ほし)は(ハル)と約束した場所で待ち、互いの姿をビデオカメラで撮ることにした……。
<<キャスト>>
[ほし(藤間美津江)]
深津絵里
[ハル(速見昇)]
内野聖陽
[ローズ]
戸田菜穂
[山上博幸]
宮沢和史
[戸部正午]
竹下宏太郎
[ローズの婚約者]
鶴久政治
[ハルのもと彼女]
山崎直子
[ほしの父]
平泉成
[スーパーの社長]
潮哲也
<<スタッフ>>
[監督/脚本]
森田芳光
[企画/製作]
鈴木光
[プロデューサー]
青木勝彦
三沢和子
[助監督]
杉山泰一
[撮影]
高瀬比呂志
[音楽]
野力奏一
佐橋俊彦
[美術]
小澤秀高
[装飾]
田畑照政
岩井健志
西沢信行
新井綱嘉
[録音]
橋本文雄
柴山申広
[音響効果]
伊藤進一
[照明]
小野晃
[編集]
田中慎二
[記録]
森永恭子
[キャスティング]
網中洋子
[製作主任]
氏家英樹
[製作担当]
坂本忠久
[スタイリスト]
宮本まさ江
[スチール]
安保隆