平和維持のために活動する国連の国際保安エキスパートのエージェントが、
中国国連大使暗殺にからむ巨大な陰謀に挑む。

アート・オブ・ウォー

THE ART OF WAR

2000  アメリカ/カナダ

117分  カラー



<<解説>>

タイトルの"The Art of War"とは、「孫子の兵法」の英題名。劇中の台詞で「孫子の兵法」について語られる場面が実際にあるが、内容とはあまり関係がない。原案と脚本は、スナイプスが主演した『ホワイトハウスの陰謀』のウェイン・ビーチ。前作と同じく政府を舞台にした陰謀を描いていくが、平たく言えば、男女の逃避行という定番フォーマットに基いたアクションものである。この手の映画は、それなりに話をヒネってるとか、アクションが突出しているとかしない限りは、価値が存在しないと思われるが、相変わらず作り続けられている。おそらく、アクションとロマンスの相乗効果が娯楽性十分で万人に受けいられるから、いつの時代にも需要があるのだろう。
さて、本作はというと、設定にもアクションにも面白いものがあるが、決して派手な作品ではない。「孫子の兵法」というやや難いタイトルから窺わせる通り、ストイックな拘りを見せているのである。まず、シチュエーションとしては、黒人の主人公が中米国間の外交問題にからむ陰謀に中国人女性と挑むというもの。『ラッシュアワー』や『ロミオ・マスト・ダイ』など、黒人と中国人(演じるのは日系人)が善玉で、白人が悪玉というのが、昨今のハリウッドではトレンドのようだ。演出も、黒人や中国人の文化を意識したものが目に付く。
スナイプスがいつもの仏頂面で演じる主人公は、身体能力に優れている上に頭もキレる男だが、寡黙で荒っぽいという古いタイプのヒーローである。ヒロインから硬派な態度を批判されながらも、最後までそのポリシーを崩さないところが、軟派な主人公の多い昨今のアクション映画の中では新鮮だ。一方のヒロインは自由奔放な女性。それゆえに、自己中心的な主人公に振り回されるのがイヤでたまらないらしいのだが、反目し合いながらも彼に協力。通常ならここで、逃走中の二人の間にロマンスが描かれることになる。本作でも、ロマンスは匂わせているが、明示的な描写はいっさいされない。
アクションに関してもストイシズムが感じられ、迫力よりもキレに重きを置いているようだ。いちばん派手なアクションは、物語の中盤、食堂の前で車が大爆発する場面だが、爆発炎上を売り物にする作品でないことは、最後まで見れば分かるだろう。アクションの最大の見せ場は、深夜のビルで主人公が宿敵と対決する場面なのである。銃と拳での一対一の激闘は、現在、アクション映画界でにわかに注目を集めている“ガン=カタ”の走りと言ったところだろう。そして、『ブレイド』に続き、突進してくる弾丸をよけるシーンも燃える。
その他、気になる演出としては、重要な局面になると降り出す、どしゃ降りの雨。また、常套ではあるが、主人公が過去の記憶を辿る際に、プレイバックされるモノクロ映像。雨とプレイバッグを頻繁に繰り返すことにより、十把一絡げになりそうな作品に独自の雰囲気とリズムを持ち込んでいる。



<<ストーリー>>

平和維持のために活動する国連の極秘組織、国際保安エキスパートのチームリーダー、ニール・ショー。彼は、ミレニアムを迎える香港でのミッションの最中に銃弾を受け、全治半年の重傷を負ってしまった。
ショーの療養中、米国と中国の間で貿易協定の締結への動きが見え始め、中国の国際経済への参加の道が開かれようとした。そんな時、国連所有の大型船から、大量のベトナム難民の死体が発見されるという事件が発生し、国連事務総長ダグラス・トーマスが窮地に立たされた。ショーの上司にあたる国連幹部エレノア・フックスは、協定の締結に尽力をそそぐ中国の国連大使ウーと難民の事件を結び付けた。
職務に復帰したショーは、フックスの命令を受け、ウーが出席するバンケット会場にもぐり込んだ。だが、その時、ウーが凶弾を受けて死亡した。ショーは、会場から逃走した狙撃犯を追跡するが、ある工場に入った直後に見失い、また、同僚のエージェント、ブライとの通信は、彼の悲鳴と共に途切れてしまった。
遅れてやってきた警察に、狙撃犯と見誤られて逮捕されたショーは、護送中に中国系の男たちの襲撃を受けた。男たちは拉致したショーを暗殺者に仕立て、抹殺しようと企んでいた。辛くも男たち手から逃れたショーは、同僚の恋人のもとを訪ねるが、彼女は既に何者かによって殺された後だった。
恋人の残した暗号を手がかりにして、ウーが死ぬ直前に何者かと交わした会話の音声を入手したショーは、その翻訳のため、狙撃の時、会場にいた同時通訳ジュリアに協力を求めた。だが、ショーがジュリアに買出しを頼んだ時に、思わぬ事件が起こった。ジュリアの入った食堂が何者かに爆破されそうになったのだ。なぜ、敵に自分たちの居場所が知られたのか? ショーは、ジュリアの衣服に盗聴器が仕掛けられていると疑った。
ショーは、自分を拉致した男たちのうちの一人がかけていた電話番号を突き止め、ジュリアと共に現場に向かった。そこは、表向きは普通の商店であったが、実は中国の要人が利用する秘密売春クラブだった。クラブに潜入したショーは、地下で働くベトナム人難民を発見すると共に、ウーの側近であるチャンの姿も確認した。ショーは、中国の財界を牛耳るチャンが貿易協定に反対し、ウーを暗殺したものだと考えた。
ショーとジュリアは、国防省のコンピュータに進入し、狙撃の瞬間を記録した映像を入手した。その映像は、ショーの推理を裏付けられることになった……。



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