夜ごとの夢に現れる美女のとりこになる男。
荒唐無稽な夢の世界を描くファンタジー・コメディ。

夜ごとの美女

LES BELLES DU NUIT

1952  フランス/イタリア

87分  モノクロ



<<解説>>

現実逃避から夢に依存するようになった美青年(G・フィリップ)の姿を、美女とのロマンスをからめつつ、スラップスティックなギャグ満載で描いた作品。フランスの下町のおおらかさを感じさせる人間模様の楽しさもさることながら、見どころはなんといっても、軽妙かつ鮮やかに繰り広げられる夢と現実の交錯。三人の美女(M・キャロル、G・ロロブリジーダ、M・ヴァンドイユ)をはじめ、主人公の友人や近所の人々が、夢と現実で別の役で登場させるという仕掛けだけでなく、現実と夢の間の連続的な推移を、カメラのパンによりワンカットで行うという意欲的な手法にも挑戦。夢と現実の境界が判然としない様を見事に表現している。SFXはほとんど使用していないが(夢の場面に移る時に画面に靄がかかる程度)、夢のシーンになると背景がチープな書割になったり、突然ミュージカルになったりすることで、夢の取り留めのなさや捉えどころのなさの表現にも成功。夢を題材とした作品の中でも、夢の世界の再現が突出していて、夢に出てきてしまいそうなほどだ。単純に夢の曖昧さを楽しみたい作品であるが、SFXが発達してしまった現在では再現不可能な情緒のある映像表現も必見。また、「昔は良かった」を口癖とする老人を繰り返す登場させることで、夢への憧れでだけでなく、過去への郷愁を同時に描いてみせている。クライマックスは夢と現と時空を超越した、かつてないハチャメチャな冒険に発展。



<<ストーリー>>

下町の安アパートにクラス音楽教師の青年クロードは、ピアノを弾けば近所から怒鳴られ、友人たちからも馬鹿にされていた。そんな彼が唯一、安らぎを得られるのは夢の中。そこではクロードは、1900年のオペラの大作曲家で、貴婦人エドメに愛されていたのだ。夢の中での幸せに満足していたクロードだったが、夢に割って入ってきた老人に「こんな時代が美しいだと。昔はもっと良かった」と言われ、1830年のアルジェリア侵攻の兵士に変身。そこでは、アルジェリアの姫レイラと禁断の恋に落ちた。再び現れた老人に、さっきと同じことを言われたクロードは、今度は中世に向かい、フランス革命の指導者となった。そして、そこでもクロードは令嬢シュザンヌと愛し合うのだった。
クロードは夢の中の三つの時代に現れる美女たちと夜ごと会うことが楽しみだったが、彼の安眠はしばしば人に邪魔された。家賃の催促に来る大家。自分を慰めに来た友人ロジェ。書留の預かり通知を持って来た便夫。夢の良いところで起こされたクロードは、イライラしながら書留を受け取りに郵便局に向かった。ところが、身分証明がずいぶん前から無効になっていたため、手紙は受け取れなかった。怒ったクロードは郵便局で暴れ。腹の虫がおさまらないまま帰宅すると、ちょうど大家が家賃の担保に商売道具のピアノを差し押さえようとしているところだった。クロードは大家を追い払うが、それを見咎めた幼馴染みの警官レオンに逮捕されてしまうのだった。
留置所に入れられたクロードは、誰にも邪魔されることなく眠りについた。夢の中でクロードは、三つの世界の美女たちとそれぞれと今夜、密会する約束を取り付けた。ところが、夢は再び中断されてしまった。クロードのことを心配したロジェとレオンの助けによって、あっけなく釈放されたのだ。晴れて帰宅できる出来ることになったクロードだったが、夢の邪魔をされたことですっかり元気をなくしてしまった。ロジェたちは、しきりに眠りたがるクロードが、自殺を考えているのではないかと誤解。クロードを寝かせないよう飲みに連れ出したり、部屋の前で一晩中見張ったりしたのだが……。



<<キャスト>>

ジェラール・フィリップ
マルティーヌ・キャロル
ジーナ・ロロブリジーダ
マガリ・ヴァンドイユ
マリリン・ビュフェル
レイモン・ビュシェール
レイモン・コルディ
ベルナール・ラジャリジュ
アルベール・ミシェル
ピエール・パロー
ジャン・パレデス
パオロ・ストッパ



<<スタッフ>>

[監督/原案/台詞]
ルネ・クレール

[製作]
ルネ・クレール
アンジェロ・リッゾリ

[脚色]
ルネ・クレール
ピエール・バリレ
ジャン・ピエール・グレディ

[撮影]
アルマン・ティラール

[音楽]
ジョルジュ・ヴァン・パリス

[美術]
レオン・バルザック