ひょんなことから社交ダンスに熱中するようになった中年サラリーマンの姿を描くコメディ。

Shall we ダンス?

1996  日本

136分  カラー



<<解説>>

『ファンシイダンス』、『シコふんじゃった。』の周防正行が、“僧侶”、“相撲”に続いて選んだ題材は“社交ダンス”。「かっこ悪い」「ダサい」といったイメージのあるものに脚光を浴びせ、それに取り組む愛すべき日本人たちの姿を面白可笑しく描いているところは、前作までと同じ。しかし、本作は、主人公が能天気な若者から、しがらみを持つ中年サラリーマンに変わっていることで、語られるべきテーマが変化。全体的に中年の哀愁の漂ってはいるが、一種の現実逃避だったダンスが、しだいに“生きる張り合い”に変わっていく様が感動的に描かれている。中年の奮闘を見せるコメディに留まらず、前作にも増して未来への夢や希望が感じられる爽やかな作品に仕上がった。
仕事中はデスクの下でステップを踏み、仕事が終われば矯正器具をつけての猛特訓。日本人に不似合いな社交ダンスに講じる中年サラリーマンたちの姿は、時に卑屈で滑稽である。しかし、だからと言って、そんな彼ら姿を、決してあげつらって馬鹿にしているのではない。役所広司演じる主人公・杉山は、あくまで真面目に熱心にダンスに取り組むのであり、その真剣な姿が観客の心を打つのである。そんな役所に代わってギャグを飛ばすのは、主人公周辺の竹中や渡辺といったの面々。竹中は、全二作でも似たような役回りだったが、今回は特にコメディ・リリーフとしての役割が明確にされているようだ。しっかり笑え、しっかり泣けるだけでなく、それぞれの人物のキャラクターを明確し、人物配置も的確にすることにより、散漫になりがちな群像劇の中で主人公のドラマを際立させた。そして、結果として、等身大の主人公への共感を呼ぶことに成功しているのである。
大ヒットを記録した本作は、メディアが煽ったほどには社会現象を巻き起こしたりはしなかったようだが、社交ダンスへの注目とイメージアップに貢献したということでは、意義深い作品である。日本でのヒットでの波に乗り、アメリカでも公開され、その甲斐があってか、2004年に、リチャード・ギア、ジェニファー・ロペスという豪華キャストのハリウッド・リメイク『シャル・ウィ・ダンス?』が製作された。



<<ストーリー>>

二十代で結婚し、四十代でマイホームを手に入れ、今はローンの返済のために働く平凡で真面目な中年サラリーマン杉山。ある日、彼は、会社帰りの電車の窓から見えるダンス教室の窓を見上げ、その窓辺にに立つ物憂げな若い女性に釘付けになった。教室の女性に憧れるようになった杉山は、その思いが募っていくうち、ついにダンス教室を訪ねた。そして、生徒にダンスを教えているたま子にすすめれるまま、教室に入会することになった。
杉山と一緒にダンスを習うのは、初心者の田中と服部、ダンスに入れ込む主婦・豊子といった個性的な面々。そして、会社では大人しい同僚の青木も偶然、同じ教室に通っていた。あの窓辺の女性は、教室の持ち主の娘の舞で、たま子と一緒に生徒を指導していた。杉山の舞への憧れは変わらず、教室に慣れて来たある日、レッスンの帰りに思い切って舞を食事に誘ってみた。だが、彼の下心を見透かした舞に、「不純な気持ちでダンスを習ってほしくない」とはっきりと言われ、ショックを受けることに。
ある日、青木の誘いでダンスホールに顔を出してみた杉山は、そこで舞の姿を見かけた。彼女は、パートナーと別れたばかりのダンサーの木本と一緒だった。実は、舞も、ダンス・コンテストの最高峰であるイギリスのブラックプールでパートナーと別れていた。だが、舞のペア解消の原因は誰も知らなかった。夢破れて日本に戻ってきた舞は、ダンサーだった父に強いられる形で、教室で生徒の指導にあたることになったのだ。
杉山は、先日の舞の言葉に反発すかのるように、熱心にダンスに打ち込むようになった。一方、妻の昌子は、最近、ウキウキとしている夫の様子に不信を抱き、探偵に調査を依頼していた。探偵の三輪は、杉山の身辺を調べた結果、浮気の線を完全否定し、昌子にダンス教室のことを説明した。だが、昌子にとって、あの真面目で地味な夫が社交ダンスに熱中しているということは、ますますもって不可解なことだった。
たま子は、杉山の実力が上がってきたことに気付くと、彼と豊子でペアを組ませ、アマチュアダンス大会に出場させることを提案した。一方、舞は、これまで、生徒の指導にはあまり感心がなかったが、豊子に文句を言われながらもめげずに特訓をする杉山の姿に心を打たれ、彼に親身にアドバイスをするようになった。
そして、迎えたダンス大会の本番の日。杉山・豊子ペアのほか、青木や田中も出場し、互いのダンスを競い合っていた。そして会場の観客席には、こっそり、夫の雄姿を見に来た昌子とその娘の千景の姿もあった……。



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