過去に殺人を犯し二十五年振りに世間に出た知的障害者と、
彼が故郷で出会った少年との交流を描くヒューマン・ドラマ。
スリング・ブレイド
SLING BLADE
1996
アメリカ
135分
カラー
<<解説>>
ビリー・ボフ・ソーントンが一人芝居で演じた舞台がもともとの原作。94年に一度、"SOME FOLKS CALL IT A SLING BLADE"として短編映画化されものを、長編として再映画化したものが本作。今回は脚本、主演に加えて、監督も本人がこなしている。それまでほとんど無名だったソーントンだったが、アカデミー脚色賞にかがやいたことで一躍、脚光を浴びることになった。
知的障害の役というのは、映画やドラマでやり尽くされた感があるが、冒頭でソーントン演じる主人公カールが自らの罪を淡々と告白するモノローグは鳥肌ものだ。表情を殺すだけでなく、役者の命とも言える眼も伏せた、手足を縛られるような制約の中で見せる、圧倒的な存在感。親の愛情を受けず、世の中と遮断された小屋の中で一人ぼっちで少年時代を過ごしたため、感情というものが育まれなかったという、想像を絶する人物像に、説得力を与える超越した芝居。その前では、脚色賞ですら“ご祝儀”に思われる。
カールの人物像を強く印象付ける長めのプロローグの後、舞台は緑豊かな彼の故郷へと移る――精神病院からシャバに出た主人公カール。すぐに、少年フランクと打ち解け、彼の母親リンダにも受けいれられる。ところが、カールが事件を起こした時と、ソックリな状況が彼の目の前で繰り広げられることに。そして、いよいよ母子が追い詰められた時、カールはある決意をする――過去と現在に起きた二つの出来事。その二つの出来事は一見、同じに見えるが、意味は大きく異なっている。ひじょうに残酷で重苦しいながら、しみじみと感動させるラストとなっている。
平穏な小さな町で起こる凄惨な悲劇というサスペンス風のストーリーもさることながら、カールとフランク少年との心の交流もバランス良く描かれている。特に、カールがときどきフランクに打ち明けるサイドストーリーは、本人が感情を露わにしないだけに事件の悲劇性を浮き彫りにし、より哀しく切ないものになっている。メインストーリー、サイドストーリー共に、「悲劇的な事件に、感情の無い寓話的な人物を入り込ませることでどういうことになるか」という挑戦が窺え、それが本作のひとつのテーマであり、モチベーションになっているのだと思われる。
前年にソーントンが出演した『デッドマン』の監督ジャームッシュが売店の店員の役で友情出演。
<<ストーリー>>
少年カールは両親の愛情を受けず、一人で小屋に閉じ込められて育った。彼が十二歳の時、ふと母屋を見ると、母親がいじめっこのディクソンにひどいことをされていた。かっとなったカールは、“スリング・ブレイド”と呼ばれるカイザー・ナイフでディクソンを殺した。だが、母親もディクソンと寝たがっていたことを知ると、彼女も殺しのだった。
カールは知的障害があったために、刑務所ではなく、州立病院に送られた。それから二十五年後、拘束期間が過ぎたカールは、治療が終わったとみなされ、半ば強制的に退院させられた。故郷に戻ってはみたものの、身寄りも行く当てもないカールは、ウールリッジ医師に頼み、彼の知り合いのビル・コックスの修理工場で働かせてもらうことになった。
ある日、カールは、コインランドリーで洗濯物の入った大きな袋を引きずる少年フランク・ウィトリーと出会った。カールが事件を起こした年頃と同じくらいの子供だった。洗濯物を運ぶのを手伝ったことをきっかけに、カールはフランクと友達になり、自分が過去に人を殺してしまったことも彼だけに打ち明けた。父親を亡くしていたフランクは、カールを気に入り、母親のリンダに紹介した。リンダはカールの過去を問わず、彼にガレージで寝泊りすることをすすめた。こうして、カールは、リンダとフランクの母子と一緒に暮らすことになった。
フランクは心を許したカールに、家庭のかかえる問題を打ち明けた。家族を養う自身を失った父が猟銃で自殺した後、リンダにはドイルというボーイフレンドができた。だが、ドイルはことある度にリンダやフランクに当り散らすひどい男だった。それでも、リンダは「ときどき優しいから」という理由で、ドイルと付き合っているのだという。フランクは、リンダの勤め先の店主・ヴォーンが父親であったらいいと考えていた。ヴォーンは素晴らしい人物だったが、父親としては多少問題があった。まず、彼はゲイであった。それに、優しいヴォーンは乱暴なドイルに反抗できないのだ。それでも、ヴォーンはリンダとフランク母子を愛し、二人への心配は尽きなかった。彼は、居候することになったカールが訳ありであることを知ると、リンダとフランクを傷つけないことを約束させ、さらに、二人のことを守ってくれるよう頼んだ。
ドイルは障害者のカールを歓迎しなかった。ある夜、ドイルはリンダの家に仲間たちを呼び、酒を飲んで大騒ぎをした。さすがのリンダもドイルの横暴に怒り、決然と彼に抗議をした。出て行くよう命じられたドイルは、頭に血が上り、リンダを侮辱した。カールはその様子を黙って見ていたが、その時、フランクが猛然とドイルに挑みがかった……。
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