“とらや”にアメリカ人セールスマンが下宿したことから起こる騒動と、寅次郎の未亡人への恋慕を描く。
シリーズ第24作。
男はつらいよ
寅次郎春の夢
1979
日本
104分
カラー
<<解説>>
寅次郎がサンフランシスコでお尋ね者のマドロスになる夢から始まる第24作は、“とらや”に下宿することになった“外人”と寅次郎の関係を中心に描く。マドンナに香川京子、その娘役に林寛子、“外人”役にハーブ・エデルマン。原案と脚本の共同執筆は『太陽を盗んだ男』も手がける親日家レナード・シュレイダー。
さすがにマンネリ化を恐れる段階ではなかったと思うが、久しぶりに目先を変えた作品。外国人を主要人物として登場させ、(寅次郎が赴くわけではないが、)シリーズ初の海外ロケを敢行。寅次郎VSアメリカ人というシチュエーションで、一本筋を通している。もちろん、「男はつらいよ」の世界観ありきの内容だが、パターン崩しというよりも、番外編といった趣の異色作となった。シリーズの中でめったに見られないシチュエーションが興味をひきそうで、実際になかなか面白い作品なだが、シリーズの中ではあまり言及されないややマイナーな作品となっている。“とらや”の人々の外国人に対する偏見に満ちた言動は、今観るとちょっと驚いてしまうが、良識より本音を優先させているところは、「男はつらいよ」らしい。
極度のアメリカ嫌いの寅次郎と、アメリカ人セールスマン・マイケルの誤解から生じた奇妙な対決というのは、コメディとして笑えるところだが、「男はつらいよ」的には、寅次郎がけんかをきっかけにマイケルと仲直りした後の“とらや”の面々の反応にも注目したい。博は、「これで、ひとつ問題が片付いた」と息をつくが、既にもうひとつの恋愛の問題に目を向け、「どうせ、フラれるんだろうけど」と予測。マンネリを逆手にとったギャグで、山田監督が脚本の筆をすべらせたようなところが可笑しい。
寅次郎とマイケルの対決やカルチャーギャップをネタにした笑いだけを描くのではなく、日本とアメリカ、それぞれの価値観を比較することで、日本的な美徳の再評価を試みている。英語教師めぐみとマドンナ圭子を交えた“とらや”の団欒の場面は、特に重要な場面だ。相手の気持ちを察することが苦手なアメリカ人は好きだと言う気持ちをはっきり言うので、言われたほうも態度をはっきりしなければならない、とめぐみは言う。それに対して、寅次郎は、日本人は目で察するのものだ、と得意の講釈。その後の展開で、アメリカ人と日本人の愛情表現の違いが具体的に示される。終盤に用意されている、さくらを巻き込んだシリーズ屈指の緊迫の場面は必見。
シリーズ後半より寅次郎の旅の相棒となる“ポンシュウ”が初登場。ただし、演じているのは関敬六ではなく小島三児で、キャラクターも異なっている。
<<ストーリー>>
さくらたちが近所の人からもらった沢山のぶどうを持て余して困っているところに、寅次郎が帰ってきた。彼が手にしていた土産はぶどう。さくらたちが説明する間もなく、二階に上がっていった寅次郎は、自分の部屋に干してあった大量のぶどうを見て、気分を損ねてしまった。夜になり、社長が“とらや”の茶の間で、個人で飼っていたトラが逃げ出したという新聞記事のことを話しはじめた。さくらたちの目配せで寅次郎に気付いた社長は、「ここにも獰猛なのがいた」と呟いた。怒った寅次郎は社長の口にぶどうを突っ込み、店を飛び出しのだった。
寅次郎の留守中、御前様が“とらや”に白人の大男をつれてやってきた。境内で話し掛けられたが、言葉が通じないので、学校の成績の良かったさくらを頼ってきたのだ。だが、いくら学校で英語を勉強していたといっても、英会話なんてとてもじゃない。と、そこへちょうど、満男が通っている英語教室の講師の母・圭子が団子を買いに来ていた。彼女の通訳で白人男が安い旅館を探していることが分かったが、柴又では探すのは無理である。男が気の毒に思ったさくらは、空いている二階に泊まっていくことをすすめたのだった。
マイケル・ジョーダンという名乗ったアメリカ人は、向こうの製薬会社から栄養剤を売りに来たセールスマンだった。言葉は通じないが、“とらや”の皆の精一杯のもてなしにいちいち恐縮するマイケル。はじめは、“外人”におっかなびっくりだった“とらや”の皆も、見た目によらずに心優しいマイケルを“マイコさん”と呼んで親しむようになった。そんな折、竜造たちが恐れていたことが起こった。大のアメリカ嫌いの寅次郎が“とらや”に帰ってきてしまったのだ。寅次郎は、二階から現れた大男マイケルにびびっていたが、彼が仕事に出かけていくと、「怪物」「けだもの」などと言いたい放題するのだった。
その夜、寅次郎は、帰宅してくるマイケルをやっつけようと、“とらや”の店先で待ち伏せていた。だが、マイケルより先に店に訪ねてきたは、娘のめぐみと一緒の圭子だった。圭子が事故で夫を亡くして独身だと知り、寅次郎はメロメロに。その日は、圭子のおかげでマイケルとは何事もなく済んだ。ところが、翌朝、寅次郎がマイケルに大量の梅干しを食べさせるといういたずらをしたため、二人の確執は高まってしまった。マイケルは毎日、商店や企業を訪ね歩いて薬を売り込むが、一つも売れず、門前払いを食らってばかり。“とらや”での幸福な日々も、あの四角い顔の男のせいでぶち壊された。今や、マイケルの憩いは、いつでも自分の味方なってなぐさめてくれるさくらだけだった……。
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