明治から昭和にかけての激動の時代をたった二人で生きる芸者母子。
有吉佐和子のベストセラー小説を豪華キャストで映画化した文芸大作。

香華

1964  日本

202分  モノクロ



<<解説>>

過去から公開時の現在までの大きな時の流れを描いていくという年代記の手法で撮られた作品。明治、大正、昭和。震災や戦争を挟み大きく様変わりしてゆく世の中をどう描くか。これまでの年代記では、時間の流れ描くために、叙情に訴えかけることで、情報を“想い出”として観客の胸に刻みつけてきた。しかし、本作は、ただ叙情に訴えるのではなく、年代を明確に描き分けることで、その時代性を印象付けようとしているようだ。明治と大正を描いた第一部では、遊郭の世界がまるでファンタジーのよう。ところが、昭和を描いた第二部では一変して、リアリズムが貫かれている。このように年代間のギャップを強調することで、大きな時間の流れを生み出しているのである。
年代記の手法のみならず、映像も洗練されており、長いカットの中で人物の動きや感情に合わせたカメラワーク、体の一部や小道具のクローズアップで感情を語るテクニックに切れ味がある。小津安二郎から継承したといわれる“大船調”演出が、よりスタイリッシュに発展した形となって現れているようだ。
物語は、過酷な運命に翻弄される芸者・朋子(岡田茉莉子)の目線で語られていく。わがままでだらしのない朋子の母親(乙羽信子)と、彼女を厭わしいと思うしっかり者の娘の朋子。男好きで結婚を繰り返す母親に対し、そんな彼女のおかげでなかなか結婚できない朋子。正反対に見えて、どこかしら似ている二人が、付きず離れずにいる姿が時に哀しく、時にユーモラスに描かれていく。これまでの年代期もののような雰囲気重視の作品ではなく、母娘のキャラクターの特異さが際立った作品となった。



<<ストーリー>>

父親が死に、幼くして地主・須永家の跡取りになった朋子。彼女は祖母・つなが亡くなった後、三度目の結婚のために家を出て行った母親・郁代に引き取られることになった。ところが、郁代の夫・高坂に静岡の遊郭へ売り飛ばされてしまった。数年後、芸者の修行をしていた朋子は、同じ遊郭で高坂に捨てられて遊女になった郁代と再会することに。
その後、赤坂に移った朋子は、そこで一番の芸者に成長した。そして、座敷で知り合った寡黙な士官・江崎に激しい恋に落ちた。その頃になると、年甲斐もなく派手好きで男好きの郁代が、朋子の悩みの種になっていった。そんなある日、朋子と郁代は関東大震災に遭遇した……。



<<キャスト>>

岡田茉莉子
田中絹代
杉村春子
加藤剛
岡田英次
乙羽信子 (東宝)

<<一部 五亦紅の章>>

北村和夫
柳永二郎
市川翠扇
菅原文太
桂小金治
宇佐美淳也
村上冬樹
宇治みさ子
北見治一
草野大悟
菅野忠彦
川島育恵
古屋美津代
英つや子
中田三一朗
加藤和恵
瀬戸よう子
吉霧音彦
一條久枝
島章
山口正夫
秋好光果
野村昭子
中村たつ
伊藤弘子
赤沢亜沙子
稲野和子
高山真樹
関口銀三
新克利
長山藍子
長谷川澄子
小泉満智子
山崎有代
青山万里子
斉藤知子
水木涼子
水島光代
中田耕二
田中晋二
田中喜一

<<二部 三椏の章>>

三木のり平 (東宝)
菅原文太
内藤武敏
岩崎加根子
奈良岡朋子
万代峰子 (東宝)
野々村潔
平松淑美
浜村純
稲葉義男
可知靖之
田村正和
松川勉
浅野寿々子
林家珍平
坂東春之助
吉沢誠



<<スタッフ>>

[製作]
木下恵介

[(製作)補]
白井昌夫

[原作]
有吉佐和子 (中央公論社刊) (婦人公論連載)

[撮影]
楠田浩之

[音楽]
木下忠司

[美術監督]
伊藤憙朔

[美術]
梅田千代夫

[照明]
豊島良三

[録音]
大野久男

[調音]
佐藤広文

[特殊撮影]
久野薫

[編集]
杉原よ志

[装置]
高橋利男

[衣裳調製]
菱一

[タイトルデザイン]
土岐国彦

[メイキャップ]
小林重夫

[助監督]
桜井秀雄

[進行]
池永功

[監督/脚本]
木下恵介



<<プロダクション>>

[製作]
松竹