寅次郎に諭され結婚式を逃げ出してきた花嫁が“とらや”に転がり込む。
ところが、花嫁の結婚相手が追いかけてきて……。
シリーズ第23作。

男はつらいよ
翔んでる寅次郎

1979  日本

109分  カラー



<<解説>>

科学者コントの夢から始まる第23作は、結婚に踏み切れないでいる若い女性への寅次郎の片想いを描く。マドンナに桃井かおり、ゲストに木暮実千代と歌手の布施明を迎え、先代の“おいちゃん”松村達雄が一瞬だけ登場する。
第21作『寅次郎わが道をゆく』で武田鉄矢が登場したように、本作でもヒット作『幸福の黄色いハンカチ』のセルフパロディが観られる。桃井かおりの北海道傷心ドライブ旅行がまさにそれで、旅先で出会った寅次郎と二人旅という展開も思わせぶりで楽しい。
冒頭の“とらや”の前での工員の結婚祝いの場面を観てのとおり、本作は一貫して結婚というものについて描かれている。前作『噂の寅次郎』で離婚を描いたのと釣り合いをとるかのようだ。前作で離婚に心を揺らす女性の姿を描いたのに対して、本作ではマリッジブルーで動揺する女性の姿を描いていく。中盤の団欒の場面では、博の台詞を借りて結婚の封建的な形式を批判し、その後の展開で苦労や貧乏を賞賛するあたりは山田監督らしい。しかし、マドンナが結婚相手との関係を中心に描くことで、「大切なのは結婚という形式ではきなく、気持ちである」という純愛ドラマが前面に出ることになった。
第20作『寅次郎頑張れ!』で、寅次郎が若いカップルの恋の指南をするといパターンが出てきた。今回、寅次郎が指南をするのは、布施明扮するマドンナの婚約者。婚約者は、寅次郎とは正反対ありえないような好青年。「おまえ、さしずめインテリだな」とつっかかってみたりもする寅次郎だが、面倒見良く飲みにつれだし、慰めてやったりする。しかし、マドンナをあきらめさせるつもりが、逆に勇気付けてしまうことに。なんとも寅次郎らしい不器用さだ。
寅次郎と婚約者と関係は恋の師弟といった感じであるが、二人の恋の対象が同一人物という点では、第14作『寅次郎子守唄』のパターンに近い。さらに、寅次郎は婚約者だけでなく、本人も気付かぬうちに、マドンナにも恋のアドバイスをしてしまうのである。“とらや”にやってきた婚約者に冷たくしてしまったマドンナに寅次郎が、「もう少しやさしい言葉をかけてやれ」「恋する男っていうのはそういうもんさ」と諭す場面はホロリさせる。しかし、結果的に彼女の恋を応援することになってしまうという、もっとも辛いパターンとなるのである。



<<ストーリー>>

“とらや”の店先で結婚を祝福される工員の中村。大安吉日の今日は結婚式のラッシュだった。竜造たちがいつまでたったもお嫁さんを連れてこない甥ことを心配していると、当の寅次郎がひょっこり帰ってきた。その夜の夕食前、いつになく機嫌の良い寅次郎は、三重丸をもらってきた満男の作文を読み始めるが、そこに書かれていたのは、母親さくらを困らせる伯父寅次郎のこと。怒り出した寅次郎は、竜造に「おまえは“とらや”の恥」と言われると、店を飛び出しのだった。
北海道を旅していた寅次郎は、海を眺めていた時、車でやって来た若い女性に声をかけられた。車に乗っていかないか、との誘いだったが、寅次郎はそれを断り、「若い娘が気軽に行きずり男に声をかけるものじゃない」と、諭した。しばらくして、寅次郎は、さっきとは別の車で男が同乗の女性に乱暴しようとしている場面に遭遇した。寅次郎は、車から飛び出してきた女性を助けるが、それはさきほど声をかけてきた女性だった。
東京の田園調布の入江ひとみという名のその女性は、寅次郎を信頼して、彼と一緒に旅をすることになった。二人で旅館に向かうと、そこの若旦那は昼間ひとみを襲っていた男だった。寅次郎とひとみは若旦那を脅かし、満員だった客室の二つを開けさせた。ひとみは寅次郎に身の上話をした。彼女は結婚を間近に控えていたが、親が決めた結婚であっため気が進まず、東京から逃げ出してきたのだという。話を聞いた寅次郎は、ある純愛の話をひとみに語って聞かせた。寅次郎の話に感動したひとみは、東京に帰る決心をするのだった。
盛大に催されたひとみの結婚披露宴。ところが、お色直し中に不安に絶えられなくなったひとみは、会場を抜け出したタクシーに飛び乗った。ちょうどその頃、“とらや”には寅次郎が帰ってきたところだった。結婚の決心を報せるひとみからの葉書を寅次郎が読んでいると、店の前にタクシーが乗り入れてきた。車から降りてきたのは、ウエディングドレスを着たままのひとみだった。事情を聞かされた寅次郎は、ひとみをとらやに匿うことに決めた。だが、さすがの“とらや”の皆も迷惑顔。なにせ、他人の家のお嫁さんなのだから。
翌日、ひとみの母親・絹子が“とらや”に迎えにやって来た。絹子は娘に他に好きな人がいるのではないかと心配していたのだ。だが、ひとみが寅次郎のことを相談に乗ってくれる人と以上には見ていないことを確認すると、絹子は“とらや”に娘のことを頼み、田園調布へ帰っていった。それから数日後、今度は、ひとみの結婚相手だった小柳邦夫が店に訪ねてきた。邦夫はひとみにぞっこんだった……。



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