原子爆弾を作製して政府と警察を脅迫する男の破天荒な野望を描くサスペンス。
太陽を盗んだ男
1979
日本
147分
カラー
<<解説>>
日本には娯楽大作映画がないなどと思っている人が少なからずいるようだが、このべらぼうに面白い作品を観ればその考えも変わってしまうかもしれない。娯楽大作とは言っても、決してハリウッドの真似ではない。(脚本はアメリカ人との共著ではあるが、)日本人による日本人のための作品という意味では、ハリウッド映画より楽しめる作品となっている。
まず、この作品をよりよく楽しむためには、ファーストカットをよく覚えておくこと――ごく普通の青年がある事件をきっかけに世の中の無常に気付き、原爆を作ってしまうという大胆極まるストーリー。大きなパワーを手にした者の狂気を警告的に描いた一種の寓話ではあるが、このようなタブーに踏み込んだ作品の製作に踏み切った長谷川監督ならびにプロダクションの勇気に感服。しかし、案の定、原爆をエンターテインメントのネタにしたということで、長谷川監督は批判を浴びてしまったそうである。
現在、同じような映画を作ろうとしたら、テロリズム映画になってしまうだろう。今でこそテロに現実感が出てきてはいるものの、当時はテロなど対岸の火事どころか、概念としてすらあまり認知されていなかった時代である。もし、ハリウッドを真似てテロ映画として作ってしまったら、いかに良く出来た作品だったとしても、リアリティに欠ける駄作として斬って棄てられていたかもしない。しかし、本作はさらに思い切ったハッタリを利かせ、「物理の教師がアパートで原爆を作製する」というありえない設定にしてしまったのである。だだ、ここで本作が見事なのは、犯罪映画だからといってハードボイルドを気取らず、執拗なまでにディテールを積み上げたことである。ジュリー扮する物理教師が夜な夜な取り組む原爆製作の過程の緻密さ。政府を脅しても、「ナイターを試合終了まで放送させる」といったことしか思いつかない小市民性。それらを丁寧に描くことにより、「ひょっとしたらありうるかも」という程度のリアリティを持たせたことが、本作の成功の理由と言えるかもしれない。
リアリティという足場が整ったところで、物語は中盤の山場に到達。渋谷公園通りで大勢のエキストラを動員したクライマックスは臨場感があり、原爆で政府を脅すという事件にもよりいっそう現実味が増してくる。ここから終盤にかけては、カーチェイスなどの怒涛のアクションが展開。リアリティがしっかり固められていれば、たいていのハッタリは通用することになり、文太扮する刑事がヘリから落ちたり、銃で何度撃たれても死なないなんていう無茶な場面も可能になるのである。そして、ジュリーVS文太の壮絶な肉弾戦の末に迎える驚愕のラスト! 原爆などなくてもある程度の望みなら何でも叶う豊かな国、日本だからこそ描けた狂気がそこにある。
<<ストーリー>>
交番の巡査から奪った拳銃を携え、東海村の原子力発電所へ侵入した中学の物理教師・城戸。彼がその計画を思いついたのは、学校の親睦旅行で原発の見学にいった時に起きた事件がきっかけだった――城戸が生徒たちと乗ってたバスが、機関銃で武装した軍服の男に乗っ取られた。狂人は「天皇陛下とお話したい」と言い出し、バスを皇居に向かわせた。人質となった城戸は、事件の報せを受けて駆けつけた警視庁の山下警部に協力。二人の活躍で、軍服の男は射殺されたのだった――城戸は原発から盗み出したプルトニウム239を自宅アパートで結晶化。その後、幾重もののプロセスを経て、金属化することを成功させた。金属プルトニウムは起爆装置と時限装置の備わった球体の内部に納められた。原子爆弾の完成である。
城戸は妊婦に変装して国会議事堂に向かい、二つ作製した原爆のうちの一つをトイレに置いた。警視庁に電話をかけた城戸は原爆が本物であることを確認させると、バスジャック事件で知り合った山下警部を交渉役に指名した。そして、原爆で政府を脅し、手始めにナイターのテレビ中継を試合終了まで放送させることを要求したのだった。だが、それを最後に政府や警察に要求したいことがなくなってしまった。そこで城戸は、原爆を使ってやりたいことを募集するため、“原爆のにいちゃん”を名乗り、ラジオ番組の公開放送に電話かけた。DJの“ゼロ”こと零子は、六年前に中止されたローリング・ストーンズの日本公演が見たいと発言。城戸は零子の望みを採用し、その要求を政府に伝えたのだった。
バスジャック事件の解決に協力した者へ感謝状が送られることになり、城戸と山下は警視庁で顔を合わせることになった。だが、山下は、親しげに話しかけてきた城戸が原爆騒ぎの犯人であることには気付かなかった。一方、零子のラジオの「原爆コーナー」は大人気だったが、ストーンズのコンサートが実現してしまったことに零子は不安を抱いていた。再び番組に“原爆のにいちゃん”からの電話がかかってきた時、零子は、放送ブースの前の電話を使う不審な若い男を見かけると、番組を放り出し男を追った。城戸は自分を尾行してきた零子を海に放り投げて逃げた。犯人の目撃者として警察に事情を聞かれることになった零子の手には、城戸の頭から抜けた毛髪の束が残っていた。それは彼が被爆していることを物語っていた。
季節はずれの猛暑に辟易した城戸は、サラ金に金を返してクーラーを購入することを思いつき、山下に五億円を要求した。五月一日、メーデー。金の受け渡しに指定した渋谷公園通りは労働組合のデモで沸きかえってきた。城戸は山下たち警察を代々木駅前の喫茶店に誘導し、そこで指示を受ける告げた。城戸の要求どおり、五億円を携えた警官が目印の旗を掲げ、公園通りに向かった。城戸は東急デパートの屋上から警官の誘導をしていたが、電話を逆探知されてしまった。逆探知に気付いて店内のトイレに逃げた城戸は、鏡と対面し、歯茎から血が出ていることに気付いた。いよいよ放射能の影響が体に現れてきたのだ……。
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