寅次郎が恋をしたのは、さくらの同級のSKD(松竹歌劇団)のスター。
彼女はその時、人生の岐路に立たされていた。
シリーズ第21作。

男はつらいよ
寅次郎わが道をゆく

1978  日本

103分  カラー



<<解説>>

寅次郎は宇宙人だった!? というSF仕立ての夢から始まる第21作は、倍賞千恵子も所属していたSKD(松竹歌劇団)にオマージュを捧げるバックステージもの。マドンナに木の実ナナ、ゲストに武田鉄也を迎える。
例のごとくフラリと“とらや”に帰ってきて、例のごとく皆と喧嘩を起こす寅次郎。しかし、今回は頼みのさくらも引き止めてくれず、口惜しい思いをして再び旅に出る。もう二度と帰らないつもりで九州にやってきたものの、宿賃が払えなくなり、さくらの厄介に。「またどこかで迷惑かけるともわからないから」と、子供扱いで連れ戻される寅次郎は、今度こそ心を入れ替えようと決心――縁談の話にも「俺が気に入るかではなく、相手が俺を気に入るかだ」とこれまでのシリーズをひっくり返すような台詞を吐いて笑わせるが、本作の場合はゲストの武田鉄矢が主にギャグの部分を担っているようだ。武田は前年の山田監督の作品『幸福の黄色いハンカチ』にも出演。粗忽もの若者を演じ、何度も蹴躓いては「あいたーす」と連発するところは、前作を観た人へのサービスといったところだろう。
舞台が再び柴又に戻ったところで登場するマドンナ、奈々子(木の実ナナ)は、芸能人という設定に合わせた前のめりなキャラクター。おそらくマドンナ一の饒舌で、寅次郎顔負けのマジンガントークで畳み掛ける。寅次郎に対する態度も、その商売柄か、多くのマドンナにありがちな媚びたようなところはないころがない。リリーを彷彿とさせるところもあるが、奈々子場合は特に、恋愛感情を感じさせない気さくな友達付き合いといった感じて、寅次郎に接しているようだ。
華やかなSKDのステージをたっぷり見せているため、ストーリーが簡素なわりにはここ数作に較べて尺がやや長めとなっている。奈々子が登場してからは、さらにSKD側の描写が多くなっていくが、やはり、「男はつらいよ」というフォーマットを借りて、SKDのバックステージを描こうという意図があるようだ。ステージのシーンでは、今は無き浅草国際劇場の舞台裏をドキュメンタリータッチで見せ、その緊張感を伝えている。
ストーリーのほうも、寅次郎の恋物語より、奈々子の抱える人生の問題の方に重心が置かれているようだ。夢を追いつづけるか、それとも女としての幸せを取るか。二つにひとつというところに時代を感じさせるが、実は現代でも女性にとっては現実的な問題なのかもしれない。結婚問題に関係するもう一つのテーマとして“夢”といものがあり、“とらや”の面々が、それぞれの夢を語るところが印象的だ。実は、皆の中で子供の頃の夢をかなえていたのは寅次郎と奈々子だけ。しかし、その二人が異なる運命を辿るところに皮肉が感じられる。



<<ストーリー>>

SKDのレビューの踊り子たちが、舞台「東京踊り」の成功祈願で帝釈天にお参りにやって来た日、“とらや”に寅次郎が帰ってきた。病気で寝込んでいた叔父の竜造は、跡取のことを心配していたが、寅次郎は「自分も考えている」と夕食時にその考えを披露。「チラシを配る」、「セールをする」などの現実的な提案に、社長や博も感心していて耳を傾けていたが、そのうち、「オートメーション化」、「チェーン展開」といった大それた夢を語り始めた。皆にそっぽを向けれてしまった寅次郎は、一人寂しく“とらや”を飛び出したのだった。
九州熊本の温泉地に留まることになった寅次郎は、千年杉の下で女の子に無様に振られる農家の青年・留吉と知り合った。恋について色々と教授した寅次郎は、村民たちに「先生」と呼ばれ尊敬されるのだった。そんなある日、“とらや”に寅次郎から葉書が届いた。そこには、先日のことをまだ気にする寅次郎の「もう二度と帰らない」と言う決意が記されていたが、追伸に「最後に宿賃を貸してくれ」と書かれていた。結局、さくらがはるばる九州まで寅次郎を引き取りに行ったのだった。
さくらにひっぱられ柴又に戻ってきた寅次郎は、さすがに反省し、真面目に店の手伝いをするようになった。その改心は本物らしく、「ほれたはれたの歳ではない」と言い、縁談の話にも素直に応じるのだった。ところが、その直後、さくらの同級生でSKDのスターである紅奈々子が突然、“とらや”に訪ねてきた。奈々子に「おにいちゃん」と慕われ、いい気になる寅次郎。奈々子を国際劇場へ送っていくついで、彼女の出演するレビューを観ると、すっかり奈々子のファンに。明日もレビューを観に行く決意をするのだった。
翌日、寅次郎がレビューに出かけようとした時、さくらが留吉を連れてやってきた。留吉は、農村の将来を話し合うシンポジウムの熊本代表として上京してきたのだという。レビューの開幕まで時間がなく、寅次郎は留吉の相手をするのが面倒だったが、さくらにせっつかれ、東京を案内することに。だが、留吉が案内を希望したのは、偶然にも浅草の国際劇場だった。留吉とレビューを楽しんだ寅次郎は、楽屋から出てきた奈々子を昼食に誘った。留吉もすっかりSKDの魅力の虜になってしまった……。



クレジットはこちら