刑務所を出たばかりの中年男が旅行中の若い男女と出会い一緒に旅をすることに。
実は男には別れた妻と交わしたある約束があった。
北海道を舞台にしたロード・ムービー。
幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ
1977
日本
108分
カラー
<<解説>>
原作はジャーナリストのピート・ハミルが新聞のコラムに書いたショート・ストーリー。トニー・オーランド&ドーンが「幸福の黄色いリボン」という曲でヒットさせ、スタンダード・ナンバーにした。その「幸福の黄色いリボン」の物語にヒントを得て、「男はつらいよ」シリーズのスタッフで製作したのが本作。渥美清、三崎千恵子をはじめ、「男はつらいよ」にゆかりのある俳優たちも特別出演している。
北海道旅行にやってきた青年がナンパした女の子とドライブをしている時に、刑務所を出たばかりの男で出会う。三人で旅を続けるうち、次第と明らかになっていく男の身の上。実は、男は刑務所の中で別れてしまった妻とある約束を交わしていた。「もしも、まだ一人で暮して自分を待っていてくれるのなら、竿に黄色いハンカチを上げておいてほしい」 三人はハンカチを確かめるため、男の家に向かう――ロマンチックな約束が果たされているどうか確認に行く、というシンプルなストーリーながら、そこに至るまでの三人のキャラクターの描きこみと、それぞれの成長が丁寧に描かれ、ロード・ムービーの傑作となった。
不器用で硬派な中年男を演じる高倉健は、震えながらビールを飲むシーンなどで、久しぶりにシャバに出た男の悲哀だけでなく、己の人生を歩んでいくことに対して怯える姿を表現している。物語の主な視点となっているのは、武田鉄矢演じる軟派でかっこわるい若者だが、単なる高倉の引き立て役にはなっていなくて、相互にキャラクターを補って合っているところが良い。武田のダメなところを見つけては指摘していく高倉だが、結局、いちばん意気地のない人間は彼自身だった。ヤクザ映画でそのイメージが確立していた高倉が意気地なしに扮しているところが面白く、その意外性が逆に物語に説得力を与えている。そして、二人のダメ男に代わり、旅と物語をひっぱっていく役目を担っているのが桃井かおり扮する内気で陰気な女の子。あえてマドンナ的な存在とせず、はじめから色気を排したところが、純愛というとテーマの一つをくっきり浮かび上がらせることになった。
バランス感覚にすぐれたキャスティングの見事だが、ロードムービーを描く上での機能を果たしたカメラも素晴らしい。車の走行シーンでは乗員の視点での映像が多く、車窓の外に流れる景色などを見せることで、観客が四人目の乗員になったかのように錯覚させる。さらに、いよいよ物語が確信に近づくと、過剰なまでに車載カメラの映像が多くなってくる。未舗装の道路で揺れる車体。ワイパーやウインカーの音。生々しいほどの音と映像は車のにおいまで感じられるほどであり、と同時に、同乗している主人公たちの期待と不安も体感。そして、十二分感情移入させたところで迎えるラストシーンは、たとえ結末が分かっていたとしても何度も泣かせられる。
<<ストーリー>>
東京の工場務めを辞めた九州出身の青年・花田欽也は、退職金で新車を購入。憧れの北海道ドライブに友人を誘うが断わられため、一人で釧路行きのフェリーに乗った。釧路から車を走らせ網走までやって来た欽也は、さっそく駅前で女の子のナンパを開始した。内気な車内販売員の小川朱実は、恋人にふられ、傷心旅行で一人、網走に来ていた。朱実はしつこく言い寄ってくる欽也に負け、彼とドライブをすることに。欽也と朱実が入った食堂に、ビールを両手で大事そうに抱えてすすっている奇妙な男性客がいた。男の名は島勇作。ある事情のため、まともな食事をとるのは数年振りだった。食事を終えると、勇作は郵便局へ行き、夕張へ向けて一通の葉書を出した。
勇作が海岸でオホーツク海を眺めていると、欽也と朱実が車でやってきた。海をバックに記念写真を撮ることにした欽也と朱実は、勇作にカメラのシャッターを押してくれるよう頼んだ。そのことをきっかけに、欽也は勇作を車で送っていくことになった。勇作は近くの駅まで送ってもらうつもりだったが、欽也と朱実に誘われ、彼らと一緒に温泉に行くこと。旅館の温泉で疲れを癒し勇作は、久しぶりの清潔なシーツに感激。布団にもぐりみ、眠りに落ちようとしたその時、隣りの欽也と朱実の部屋から騒がしい声が聞こえて来た。欽也に無理矢理迫られた朱実が泣き出したのだ。勇作は隣りの部屋に向かい、欽也を一喝した。
翌朝、欽也の車で勇作は近くの駅まで送ってもらった。昨夜の一件で怒っていた朱実も勇作と一緒に車を降りた。だが、次の列車まではまだ二時間もあった。朱実が車を降りたことを後悔したとき、欽也が蟹を買って戻ってきた。三人を蟹を食べた後、欽也は朱実にせがまれ、再び勇作を車に乗せた。欽也と朱実は帯広経由で札幌へ向かう予定であったが、勇作の目的地である夕張にも寄ることになった。朱実は勇作に職業を訪ねたが、「炭鉱夫」と応えただけで詳しいことは語ろうとしなかった。
欽也は蟹を食べ過ぎたために食中りになってしまい、途中の農場で車を停めて便所を借りた。その時、大きなトラクターが勇作たちの車に迫ってきた。「仮免までは行った」と言う朱実が運転して車を寄せるが、勢い余って脱輪。便所から戻ってきた欽也と勇作の二人がかりで車を押し上げるが、今度は反対の路肩へ転覆してしまった。車はトラクターで引き上げるしか方法はなくなったが、宿のある町までは遠いため、三人で農場に泊めてもらうことになった。その夜、勇作は欽也に、朱実のことをどう思っているのか訪ねた。欽也は、朱実に本気で惚れるいるのではく「プレイ」だと答えた。勇作は同じ九州男児として情けなくなり、欽也を「ミットもない」と叱責したのだった。
翌日、欽也は帯広の駐車場で下手な停め方をしてあった車を蹴ったことで、その車の主であるヤクザ風の男に絡まれてしまった。欽也を助けた勇作は、ヤクザ風の男の頭をボンネットに叩きつけるが、それ以上の争いを避けるかのように自らハンドルを握って車を急発進させた。朱実が勇作の喧嘩の強さに惚れぼれしていると、そのうち、車が検問に出くわした。強盗事件の捜査だったが、運転していた勇作は緊張していて、免許提示の求めに、「事情により切れてしまった」と答えた。勇作は欽也と朱実の前で、殺人で刑務所に六年三ヶ月服役していたことを打ち明けることに……。
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