“とらや”に下宿するシャイな青年と近所の定食屋で働く娘。
若い二人の恋を寅次郎が取り持とうとする。
シリーズ第20作。
男はつらいよ
寅次郎頑張れ!
1977
日本
95分
カラー
<<解説>>
苦労が実って“とらや”がお金持ちに!? という夢から始まる第20作は、寅次郎の恋の指南を中心にした作品。舞台は長崎の平戸。マドンナに藤村志保、ゲストに中村雅俊と大竹しのぶを迎える。
寅次郎が若者の恋の指南役に回る話は、第10作『寅次郎夢枕』や第14作『寅次郎子守唄』でもあったが、どちらも指南の相手が同時に恋敵だった。従って、利害関係なしに純粋に指南を行なうのは、今回がはじめてということになる。そして、指南役という要素が加わったことで、20作を数えた大河ドラマも、ここから新たな局面を迎えることになる。思えば、シリーズに有終の美を飾った満男篇の下準備は、既にここから始まっていた、ということになるのかもしれない。
本作の中心人物は、中村雅俊演じる“ワット君”である。既にテレビドラマや映画で二枚目俳優として活躍していた中村が、情けない青年を演じるというが面白ところで、前半のコメディ・リリーフは彼が一手に引き受けているという感じだ。初デートのシーンでのありえないくらいの失敗振りで笑いを誘った挙句に、“とらや”爆発という珍しくスラップスティックなオチを見せる。また、相手役の大竹しのぶの秋田おぼこもなかなか良い味を出している。榊原といい、桜田といい、若手女優に田舎娘を演じさせたら、山田監督に右に出るものはいないだろう。
焦らした末に後半になってようやく登場する藤村志保は、前作に引き続き、ひじょうにおとなしいマドンナである。また、社交的なマドンナの多い中、引っ込み思案な性格というのも珍しい。マドンナというと、お姫様的扱いが常だが、今回は、弟の“ワット”から寅次郎との件でなじられるという意外な場面が見られる。例のごとくの結末はあっさりしてはいるが、寅次郎のマドンナへの思いやりを感じさせる味わい深いラストなった。
<<ストーリー>>
ある秋の日。“とらや”にひょっこり帰ってきた寅次郎は、店先にいた見知らぬ青年に押し売り扱いされて、気分を悪くした。周りから“ワット君”と呼ばれるその青年は、電気工事の仕事をしながら“とらや”の二階に下宿している島田良介である。事情を知らない良介に警察まで呼ばれてしまった寅次郎は大激怒。すぐに誤解は解けたものの、居ずらくなった良介は“とらや”を出て行った。また、皆が自分より若造のことを気に入っていると思った寅次郎も、一人で飲みに出かけた。行く宛てもなく、パチンコをしながら時間を潰していた良介は、近くの台で同じく時間を潰していた寅次郎と出くわした。意気投合した二人は酒を飲み歩いた末、夜遅く、仲良く肩を組んで“とらや”に帰宅したのだった。
翌日、昼近くまで寝ていた寅次郎は、起きぬけに昼食をとろうと、近所の“ふるさと亭”という定食屋に入った。そして、偶然、店内に居た良介とばったり出くわすことに。なぜか、良介は、店で働く娘のことについて詳しく、彼女の名が福村幸子で、秋田から弟の学費を稼ぐために上京して来ているということを、寅次郎に教えた。良介が幸子に惚れていて、こうして通い詰めていることを知った寅次郎は、二人の仲をとりもってやろうと考えた。数日後、寅次郎は“とらや”に訪ねてきた幸子を捕まえ、ちょうど二階にいた良介と引き合わせた。寅次郎の後押しにより、良介は幸子と今度の日曜日にデートの約束をとりつけてきたのだった。
事前に寅次郎からアドバイスを聞いて、初デートに望んだ良介だったが、失敗の連続だった。挙句の果てに、幸子に帰りの電車賃を借りる始末。肩を落として“とらや”に帰宅した良介は、話を聞いた寅次郎に「駄目な男」と言われて、自分の不甲斐なさに落ち込んだ。一方、その頃、“ふるさと亭”では、幸子が実家からの電話で、母が胃潰瘍で倒れたことを知らされていた。すぐに手術が必要だと知り、不安な気持ちでいっぱいになる幸子。そこへ折り悪く良介が訪ねて来て、突然、結婚を申し込んできた。涙を目にためた幸子に「バカ!」と言われた良介は、失恋のショックで思いつめ、“とらや”の二階でガス自殺を計った。ところが、遺書を書いている最中、タバコを吸おうとマッチを擦り、二階の部屋を爆発させてしまった……。
<<キャスト>>
[車寅次郎]
渥美清
[さくら]
倍賞千恵子
[藤子]
藤村志保
[幸子]
大竹しのぶ
[竜造]
下條正巳
[つね]
三崎千恵子
[博]
前田吟
[社長]
太宰久雄
[源公]
佐藤蛾次郎
[満男]
中村はやと
[座長]
吉田義夫
石井均
桜井センリ
築地文夫
杉山とく子
笠井一彦
羽生昭彦
長谷川英敏
木村賢治
志馬琢哉
岡本茉利
川井みどり
立石凉子
久世竜之介
津嘉山正種
[巡査]
米倉斉加年
[御前様]
笠智衆
[良介]
中村雅俊
<<スタッフ>>
[製作]
島津清
[企画]
高島幸夫
小林俊一
[脚本]
山田洋次
朝間義隆
[撮影]
高羽哲夫
[美術]
出川三男
[音楽]
山本直純
[録音]
中村寛
[調音]
松本隆司
[照明]
青木好文
[編集]
石井巖
[スチール]
長谷川宗平
[監督助手]
五十嵐敬司
[装置]
小島勝男
[装飾]
町田武
[衣裳]
松竹衣裳
[現像]
東京現像所
[進行]
玉生久宗
[製作主任]
峰順一
[主題歌]
「男はつらいよ」
星野哲郎
・作詞
山本直純
・作曲
渥美清
・歌
(クラウン・レコード)
[協力]
柴又神明会
[原作/監督]
山田洋次
<<プロダクション>>
[製作]
松竹