鋳型工業で栄えた昭和30年代の川口市を舞台に、
ある一家の過酷な日常を、高校進学を夢見る中三の少女の視点で描くドラマ。
キューポラのある街
1962
日本
100分
モノクロ
<<解説>>
“キューポラ”とは、鋳物を作るための溶解炉の一種。物語は鋳物作りが盛んだった昭和30年代の埼玉県川口市を舞台とし、そこに暮すある一家にスポットを当る。一家に次々と襲い掛かる貧しいがゆえの不幸を描き、それと同時に、挫折から希望に向かっていく長女の姿を描いていく。
労働組合や在日朝鮮人などといった、当時の世相を表した様々な事象を盛り込んだ内容は、さながら貧乏と不幸の見本市。エンターテインメントとしての誇張はあるものの、そこに描かれる事件のひとつひとつは当時、実際に起こっていたことが想像できるほどリアリティがあり、当時の日本の工業都市の様子を窺い知ることができる。時代の流れについていけなくなっていった父親と、親の苦労も知らず理想ばかりを求める娘との答えの出ない価値観の対立も、高度成長という世の中の急激な変化を象徴しているようだ。
勝気な中三を好演した吉永小百合は、本作が初主演。しかし、アイドル映画と思って、ナメてはいけない。現代の豊かな日本があるのも、ここに描かれるような混乱や軋轢を乗り越えてきたからこそである。何かしらの教訓を得る以前に、まず、過去を知る意味で観る価値のある作品といえるかもしれない。『未成年 続・キューボラのある街』へ続く。
<<ストーリー>>
鋳型工場のキューポラが林立する川口市。中学生の少女ジュンは、工場で働く職人気質の父辰五郎、母トミ、二人の弟タカユキ、テツハルと家族五人で暮らしていた。
トミに赤ん坊が生まれた夜、辰五郎は工場を買収した企業の労組と対立し、工場をクビになっていた。生活が苦しくなったため、高校進学を希望していたジュンはパチンコ屋でアルバイトをし、学費を稼ぐことに。一方、タカユキは鳩を育てて小遣いを稼いでいたが、鳩が死んでしまい、それがもとでヤクザとの巻き込まれてしまった。それを知ったジュンは果敢にもヤクザのもとへ出向いて話をつけ、タカユキを助けたのだった。
その後、しばらくして、辰五郎の新しい職場が決まり、ジュンは安心してアルバイトを辞めた。ところが、辰五郎はオートメ化された工場をが気に入らず、すぐに辞めると言い出した……。
<<キャスト>>
[ジュン]
吉永小百合
[塚本克巳]
浜田光夫
[刑事]
河上信夫
[サンキチの父]
浜村純
[サンキチの母美代]
菅井きん
[東吾]
下元勉
[野田先生]
加藤武
[平さん]
小林昭二
[内山]
溝井哲夫
[ラーメン屋の親爺]
小泉郁之助
[中島ノブコ]
日吉順子
[リスちゃん]
青木加代子
[金山ヨシエ]
鈴木光子
[タカユキ]
市川好郎
[サンキチ]
森坂秀樹
[石黒辰五郎]
東野英治郎
[うめ]
北林谷栄
[鑑別所の教師]
小沢昭一
[松永親方]
殿山泰司
[トミ]
杉山徳子
[松永鋳工の職工]
青木富夫
澄川透
[少年]
杉山元
[女工員]
吉行和子
木下雅弘
峰三平
東郷秀実
北出桂子
<<スタッフ>>
[監督]
浦山桐郎
[企画]
大塚和
[脚本]
今村昌平
浦山桐郎
[原作]
早船ちよ
[撮影]
姫田真左久
[音楽]
黛敏郎
[美術]
中村公彦
[録音]
古山恒夫
[照明]
岩木保夫
[編集]
丹治睦夫
[助監督]
大木崇史
[スチール]
井本俊康