盲目の居合抜きの達人・市の活躍を描く娯楽時代劇。
勝新太郎の代表的シリーズを北野武が独自の解釈で映画化。
座頭市
2003
日本
116分
カラー
<<解説>>
盲目の剣士の活躍を描いた勝新太郎のあたり役「座頭市」シリーズは、1960年の『不知火檢校』をプロトタイプとし、1962年から1973年にかけて25作製作され、1989年には勝新自ら監督にあたり、一度だけ復活した。過激な殺陣で人気を博した「座頭市」は、海外でも注目を集め、ハリウッドでは、ルトガー・ハウアー主演『ブラインド・フュリー』としてリメイクされ、また、実現はしなかったが、勝新のファンだったブルース・リーもリメイクの構想を持っていた。
2003年に製作された本作は、北野武が勝新へオマージュを捧げたものではあるが、勝新版「座頭市」のリメイクというわけではない。主人公の金髪が象徴するように、これまでの時代劇とは異なる新感覚の時代劇で、監督が芸人・ビートたけしとしての自らの原点に立ち返り、劇場仕込みの殺陣とタップダンスを盛り込んだ意欲作である。また、北野武の監督作品としては、初の娯楽作となった。
勝新版「座頭市」の見どころといえば、居合抜きを基調としたチャンバラだったが、本作では、北野監督が劇場時代に自ら編み出したというオリジナルの殺陣を見せる。型に拘らない躍動感のある殺陣は、世界的にワイアーアクションが注目される中で、日本にもすごいアクションがあることを知らしめた。また、テレビ番組での共演をきっかけにで懇意になった、リズムパフォーマンスグループ“THE STRiPES”により振付けられたダンスも話題となった。百姓の鍬や大工の玄翁をリズムに合わせて打ち鳴らすといった音楽的な演出は、さながらミュージカル時代劇といったところだ。
物語は、様々な人の交流する宿場町を舞台に、そこに渦巻くヤクザや浪人や仇討ちを目的とする姉弟らのどす黒い思惑に、主人公の市が巻き込まれていくというもの。市が人間の業の目撃者として置かれているところは、勝新版からテーマを引き継いでいるようだが、そのキャラクターは、『HANA−BI』や『BROTHER』の主人公のように、監督が自らを同化させたような孤独で寡黙なヒーローで、北野流の陰のある男のかっこよさや色っぽさが表現されている。
チャンバラ・シーンやダンス・シーンなどの“動”の部分では、初期作品の荒っぽさや無邪気さを垣間見せているが、ドラマを語る“静”の部分では、さすがに職業監督としての洗練された端正さが現れているようだ。全体としては、静と動、精と粗の同居が奇妙な印象を残す作品となった。
<<ストーリー>>
銀蔵一家が牛耳る宿場町に、居合抜きの達人として名が通った流れ者の盲目の按摩・市が現れた。市は、町へ野菜売りに通っている女・おうめの荷物を運ぶのを手伝ったことをきっかけに、彼女の家に居候することになった。その頃、銀蔵一家の仲間で鳴門屋の番頭である平八が、謎の女二人組みに刺し殺されていた。
宿場町に妻・おしのと二人で暮らす侍・服部源之助は、訳あって今は浪人である。おしのは病弱であったため、服部は辻斬りでどうにか生計を立てていた。そんなある夜、服部は的屋という酒場で、主人にみかじめ金をせびっていた銀蔵一家のちんぴらを脅した。それがきっかけで親分に気に入られた服部は、用心棒の職にありつくことに。また別の夜、服部は一人で飲んでいる市と出会った。服部は辻斬りの匂いを嗅ぎつけた市と一発触発となった。だが、服部は市の腕の方が上であることに気付くと、その場は素直に引き下がったのだった。
服部が惨めな生活を強いられたのは、御前試合で素浪人・山路に敗れたのが原因だった。彼は自分を惨めな生活に落とした山路を探しつづけていて、ついにその家を突き止めた。あの時の雪辱を晴らすために、服部は山路の家に乗り込んだ。だが、その時、山路は病に臥せっていた。服部は山路が死んだも同然と考え、彼を殺さずに去っていった。
市は賭場でおうめの息子・新吉と出会い、彼と親しくなった。賭場で大勝ちした夜、市は新吉に誘われ、町で声をかけてきた姉妹を買った。だが、市は、姉妹の目的が金の強奪で、妹の方が実は男であることも見抜いていた。市に正体を見破られて観念した姉おきぬと、その弟おせい(清太郎)は、自分たちが米問屋の鳴門屋の子で、幼い頃にくちなわの頭率いる盗賊に家族を殺されたという身の上を打ち明けた。体を売って暮らす二人は、盗賊への復讐を考えていて、この間、仲間の一人である平八を討ち取ったが、それ以外は名前くらいしか分からないのだという。
ある夜、市は銀蔵一家の賭場でイカサマに気付き、その場にいたチンピラたちと喧嘩になった。賭場での騒動を聞きつけた服部が駆けつけたときには、すでにチンピラたちは斬られた後だった。銀蔵一家の大親分は、その手口から、市がかつて子分たちを斬った張本人だということに気付いた。
一方、その頃、おきぬとおせいの姉弟は、銀蔵一家の傘下にある扇屋の座敷にいた。客である銀蔵一家の子分はおせいを女と思い、手をかけようとした。それを止めたおきぬは、相手の腕に蛇の刺青を見つけた。そのまま座敷から逃げ出したおきぬとおせいは、賭場から逃げてきた市と新吉の二人と合流。一行はおうめの家に逃げ込んだ。おきぬとおせいから事情を聴かされたおうめは、あの刺青の蛇こそ“くちなわ”であることを教えた。銀蔵一家が姉弟の敵だったのだ……。
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